Episode Ⅳ
ロングソードを背負い村の門まで向かう
ギシギシと軋む門から10メートルくらい離れたところで、村の男衆がそれぞれ農具などを持ち魔物を待ち構えている
さらに3メートル後ろに、彼らの妻子だろうか、数人の女子供が見守っている
「ちょっとどいてくださいね〜」
女子供を押しのけ、男衆に呼びかける
「ここは俺に任せて、あんたらは下がってろ」
ふざせんな!ガキのくせにいきがんるじゃねぇよ!おめーこそひっこんでろ!とブーイングの嵐
「俺はお前らより強いんだ!」
俺が言い返すと、男衆のなかからトーマスが出てきた
「おいソーヤ、相手はワイルド・ボアなんかじゃあねぇ。コボルトの群れだ。さすがにお前でも敵うはずがない」
コボルトかよ、雑魚じゃん
「数は?」
「およそ50だ。しかも、後ろの方には他のやつより大きいコボルト・リーダーもいた」
はっ、50か。あの時はカルドスと2人がかりだったが、もう俺1人で余裕だろう
「俺はっ!50匹からなるコボルトの群れを1人でぶっ潰したことがあるっ!」
胸を張って言ってやった
しかし、「嘘つけっクソガキっ」と男衆から言い返された
ツッコミがハモることってあるんだなぁ
「トーマスさん、質問が」
なんだい?とトーマスさん
「コボルトって素材とれます?」
「コボルトからはとれないなぁ。あいつらの武器の中に鉄製のものがあれば、溶かして再利用できる。だが、コボルト・リーダーは毛皮を取れるぞ。奴の毛皮は燃えにくいからな。エプロンとか鍛治につかう手袋とかにつかうな」
「なら、コボルト・リーダーの体は傷つけない方がいいな」
「ああ、しかしソーヤ、本当に1人で倒せるのか?」
「愚問だな。俺は勇者になるんだからなっ」
言い放ち、男衆の壁をすり抜ける
「お、おいガキ、あぶねえって」
「黙って引っ込んでろ!」と一喝し、俺はロングソードを構える
「俺が押されていたら助けに入ってこい。その時以外は邪魔だから引っ込──」
バキッと閂が壊れる音とともに、門が開く
「グルルルルゥゥァアッ!」
なんかデジャヴ
俺は一気に群れとの間合いを詰める
コボルトどもは俺が突っ込んできたことに驚いたらしいが、石斧を構え俺に襲いかかってくる
「雑魚どもがッ!」
跳んで襲いかかってきたコボルトをまとめて斬り払う
跳ぶなんて馬鹿のすることだ。回避行動をとれないだろ
さらに俺に襲いかかってくるコボルトを斬っては払い斬っては払いサクサクと倒していく
辺りには、斬られたり突かれたりして死んだコボルトの死体が転がっている
あれだ、○○無双みたいだな、と思っていると鉄の剣を持ったコボルトが斬りかかってきた
石斧よりも攻撃範囲が広く、回避のタイミングを誤ってしまい右手を浅く斬られた
が、特殊体質の効果で瞬く間に治る
さらに返す刀で繰り出された斬り上げを後ろに飛んで避けようとしたら、死体につまづいてしまった
「危ないっ!」
隙だらけの俺に剣を持ったコボルトとさらに3匹のコボルトが四方から襲いかかってくる
またまたデジャヴ
視界のはしに、こちらへ向かう男衆が映った
「来るなっ!巻き込まれるぞ!」
酸素の壁を展開する
「あはははっ!焼け死ねっ!点火!」
カッコつけて指パッチンとともに点火する
俺の周りに炎の壁が発生し、突っ込んできまコボルトが燃える
二酸化炭素で炎の壁をさらに覆い、消した
後ろからは驚きの声が聞こえる
ふっ、見たか俺の勇姿を
「ウオオオオオオオオン!」
雄叫びを上げ、コボルト・リーダーが俺に向かって突進してきた
両手に剣を持っているのだが、右がタルワール、左がレイピアというなんとも言えない組み合わせだった
ひらりと身を翻し避ける
「グルルルルルルル」
突進を避けられたリーダーは、持った剣で斬りかかってきた
レイピアは突くもんだろっ
襲いかかる2本の剣を避けながら、俺は特訓した技術を試すことにする
「化学変化、酸化ッ!」
コボルト・リーダーの持つ剣を無理やり酸素と結合、酸化させていく
もし完全な鉄製ならかなり脆くなるはずだ
途中、鼻血とともに締め付けるような頭痛に襲われるが、なんとか耐える
剣の色が完全に赤褐色になったところで、ロングソードで叩き折った
粉々に砕けた両手の剣を捨て、爪で攻撃してくる
連撃を避けながら、隙をうかがう
コボルト・リーダーが両手を振り上げ、交差させるように振り下ろす
奴の頭は、今の動作のせいで頭突きをした時のようにつきだされている
──ここだっ
ガラ空きの脳天にロングソードを突き刺す
噴き出す鮮血が俺に降りかかる
マント着てなくてよかった。真っ白なマントが真っ赤になるところだった
リーダーを失ったコボルト達は散り散りになって敗走を始めた
剣を振るい、刀身についた血を払い鞘に収める
上がった息を整えて、地面に座り込んだ
さっきの頭痛、魂の衰弱と関係があるのか?
ぼんやりと考え込んでいると、後ろから歓声をあげて駆け寄ってきた男衆に担ぎ上げらた
「──あり?」
流れるような動作で俺を宿に連れて行き、服を脱がせ、風呂に投げ込み、体を洗い、体を拭き、服を着せ、また担ぎ上げて移動を開始
この一連の動作に1人も女性がいなかった(泣)
そのまま俺は謎の店に担ぎ込まれる
席に座らせられた俺の前に、数々の料理が出されていく
料理が全てで揃ったらしく、動き回っていた人々が席につきジョッキを手に取る
1人の男が「若き勇者に乾杯!」と大声で音頭をとり、他の人たちが「かんぱぁぁぁぁぁぁい!」と後に続く
魔物を追い払った祝賀ぱーちーらしい
次々と渡される料理を食べながら、俺は気づいた
そう、俺にかこつけて男衆が騒いでいるということに
簡単に言うと、俺を口実に飲み会を開いたようだ
さっきから料理渡される以外はいないもどうぜんの扱いだもん、まあ美味しいからいいけど
それから渡され続ける料理を黙々と食べるという作業を始めて約2時間、ようやくお開きのようで俺は解放された
「うぷ、食い過ぎた。吐きそう…」
ヨタヨタと歩きながら宿にもどり、吐き気が
収まるまでずっと立っていた
吐き気が収まり、ようやく横になる
「美味し…かっ……た…ガクッ」
ソーヤは力尽きた
* * *
目が覚めると、太陽は真上に登ってさんさんと輝いていた
二日連続で寝坊である
「やばっ、風呂掃除!」
慌てて一階に降りると、ヘナおばさんがコーヒーを飲んでいた
いつも飲んでねーか?コーヒー
「すみません!掃除っ風呂っ」
「ああ、いいのいいの。昨日は村を助けてくれたんだから。ほんとにもう男どもは…」
グチグチと男衆の文句を言い始めるヘナおばさん。どうやら今日の掃除サボりはお咎めなしのようだ
宿を出て問屋に向かう
「おう、ソーヤ。昨日は大変だったなぁ」
膝に爆だ…赤髪の少女を抱えたトーマスさんがその子とあやとりをしていた
「そのこは?」
「おう、こいつはミーリってんだ。俺に似て可愛いだろう?ほらミーリ、挨拶しろ」
「こんにちわっ!」
可愛いなぁ、おっと、俺はロリコンじゃない
こんにちは、と返事をした後、本題に入る
「それで、ですね、昨日倒したコボルト・リーダーの毛皮のお金…」
「わかってるよ。お前が倒したんだからな。ほれ、昨日は助かった。ありがとうな」
俺にケトム銀貨を渡しながら彼は俺に礼を言った
銀貨を受け取って俺は質問する
「昨日の店、なんですか?」
「ああ、山猫食堂か。あそこはこの村で唯一飲み食いできるところだ。収穫祭のときとかはあそこで宴会をするんだ。あと、飯の材料持って行くと、半額で飯作ってくれるぞ」
「あのねあのね、すごぉくおいしいんだよ!」
ミーリちゃんがに〜っと笑いながら教えてくれた。きゃわいいなすごく
「へぇ、そうなんだ。今度行ってみようかな」
そのあと、この辺にいる魔物から採れる素材を聞いた後、解体ナイフを購入し問屋を後にした
門に向かうと、男衆が修復作業をしていた
彼らに会釈しながら門をくぐる
今日の目標は平原に生息するワイルド・ボアだ。コボルトと同レベルらしいので、楽に稼げるだろう。それに、攻撃方法も突進しかないので剣の練習になるだろう
村から北西方向にある森にコボルトの住処があるらしいのだが、リーダー以外は素材にならないのでパス
しばらく平原を歩いていると、前方に目標を発見した
持ってきたカバンを置き、ロングソードを鞘から抜いて忍びよる
突然ワイルド・ボアが振り返った。気づかれた
「ぷぎぃぃぃぃ!」と甲高い声で鳴き、突進してくる
ギリギリまで引きつけて、横っ跳びで回避する
右脚に痛みが走り、体が回転する。タイミングを誤ったようだ
「次はうまく避けないと…」
ブレーキをかけて勢いを殺したワイルド・ボアがこちらに振り返り、再び突進してきた
今度は引きつけすぎて、直撃を食らってしまった
「うぐっ──」
弾き飛ばされ、体が宙を舞う
どさっと背中から墜落した
「──ごはっ」
息が吐き出される
ロングソードを地面に突き刺し、それを支えに起き上がると、すでに体勢を整えてワイルド・ボアが突進してきていた
「え、ちょっとタイム!タイむべらっ」
魔物にタイムがあるわけがなく、再び俺の体が宙を舞った
今度は運良く足から落ちたのですぐに体勢を整えることができた
もう回避練習はいいや。倒そう
突進してくるワイルド・ボアの眉間にロングソードを突き刺す
右手首からゴキッと音が鳴り、すでに死んでいるのだが勢いが生きているワイルド・ボアの死体に弾き飛ばされる
墜落した俺は、右手首を治癒して骨折を治す。自動回復だと時間がかかるしな
よっこらせと立ち上がり、放置していたカバンを拾った後、ワイルド・ボアの死体のもとへむかう
死体からロングソードを引き抜き、代わりに解体ナイフをとりだす
まずは首をぶった切り血を抜く
それから、肉も食べられるので、内臓を傷つけないように腹を裂き、そこから皮を剥いでいく
ん?あれ?うまくできないな。よいしょっ!あれれ?なんでだ?全然剥げないな。こんのっ!
* * *
「なんじゃこりゃ」
俺の取り出した獲物の素材をトーマスさんが呆れた顔で眺める
「お前、力任せに剥いだだろう。こういうのはな、力じゃない、技術なんだよ。しっかしなんだこれは。ボロ雑巾にしか見えんな」
「うへー、すみません」
だって難しいんだぜ?
「まぁ、やってるうちになれるさ。牙は綺麗にとれてるじゃないか、あと肉も。あとは皮を綺麗に剥げるようになるだけだ!がんばれよ、ソーヤ」
数をこなせということですか
「ほれ、牙2本と肉代だ。3デリムな。皮は無料引き取りだ」
銅貨を受け取り、問屋を出る
「腹減ったなぁ」
すでに空は赤く染まり、夕餉の香りが辺りから漂ってきていた
戦闘シーンの描写が難しいです




