第12話
遅くなりました
遅くなった割に、内容は、少ないです
「右足を前、左足を後ろにして肩幅に開けろ。前足はつま先を相手に向けて──そうだ、そして後ろ足はもう少し開けろ。上体はまっすぐ立てろ。うむ、こんなもんか」
カルドスは満足気に頷く
俺はカルドスに剣の稽古をつけてもらっていた
「んじゃ、振ってみろ」
明らかに俺の体、7歳児の体に不釣り合いなロングソードを構える
「んよいしょっ!」
まあ皆さんのご想像通り、俺の体は剣の重さに耐えられず、逆に剣に振り回される
「おっとっと」
バランスを崩し、尻餅をつく
「やはりか、お前には重すぎたな。だが残念ながらこの家にはロングソードしかないのでな。それをまともに扱えるようになるしかないぞ」
「えー、そいつは無理じゃね?」
どう考えても大きすぎる
「薪割りで腕の筋肉はキチンと鍛えられたはずだ。剣の攻撃の仕方を変えればいいのさ」
ドヤ顔である
「さっきお前は腕で剣を振っていたが、重たい剣の攻撃は、腰の回転からはじまるんだ。手本を見せてやるから、よく見てろよ」
カルドスは俺からロングソードを受け取り、構える
右足で踏み込み、腰をひねり──
ヴォンッ
風を切る音がした。え、こんな音すんの?
「と、こんなもんだ」
さすがは騎士団長、剣の腕は確かなようだ
「おら、やってみろ」
受け取ったロングソードを構え、カルドスがやったように振る
さっきのように、剣に振り回されることはなく、しっかりとバランスも取れていたのだが、風を切る音はでなかった
「初心者にしては上手いじゃないか」
それから俺は水平斬り、斬り上げ、真上からの振り下ろしの繋げ方を習った
* * *
──3ヶ月後
秋も深まり、そろそろ冬がやってくる
この早朝ランニングも、冬は寒そうなのでしたくない
いつも通りランニングをしながら呑気に冬へと思いを馳せ、門の前を通り過ぎようとした時、門を叩く音が聞こえた。
いや、叩くなんてものじゃない。門を壊さんとする勢いで、ガンガンと音が鳴り響く
──なんだ?盗賊か何か?
バキッと音を立て、閂が壊れた
「これはヤバイんじゃ…ね?」
開いた門の隙間から見えたのは、およそ50匹のコボルトの群れだった
「ウグルルルルルゥッ!」
先頭に立つ他の奴より大きいコボルトが吠え
る
その声に応じて、一斉にコボルト達が村へと突入してきた
「ヤバイヤバイヤバイ‼︎」
落ち着け、俺!今こそ修行の成果を見せる時だろ!
自分で自分を鼓舞し、ボルテージを高める
深呼吸
「フレイムバレット‼︎」
俺の右手から紅蓮の炎弾が飛び出し、一度に5匹を焼き尽くす
「グルッグルルルル!」
俺の魔法に怖気付いたか、コボルト達が突進をやめる
「へっ、犬頭のバカどもが。こっちに来てみろ‼︎一匹残らず殲滅だコノヤロー!」
「グルルルルルァァ‼︎」
群れのリーダーであろう体の大きなコボルトが、手に持った石斧で殴りかかってくる
「遅いんだよッ」
軽々とその攻撃を避け、ガラ空きの脇腹に炎弾を撃ち込む
「キャンキャンキュルルルル!」
コボルト・リーダーは炎弾により吹っ飛んだ
──これでリーダーは潰した。あとは雑魚どもをッ
「ウインドカッター‼︎」
風の刃を発生させ、3匹まとめて胴から真っ二つにする
俺の四方から同時に4匹のコボルトが飛びかかってくる
俺を中心とした半径2メートルの円周に、酸素の壁をつくる
「──点火」
突然目の前に現れた炎の壁になすすべもなく突っ込み焼け死んで行くコボルトを見下ろしながら、自分の修行の成果を実感した
「さて、次はどいつだ?」
俺を睨みながら後ずさって行くコボルト達に問いかける
「しゃがめバカッ‼︎」
突然聞こえた声に反応し慌ててしゃがむと頭上を何かが飛び越した
死んだと思っていたコボルト・リーダーだ
「なっ、殺したはず」
「バカかお前は‼︎」
先ほどの声の主、カルドスがロングソードを担いでかけてきた
「戦場では確実に死んだか確認するまで気を抜くな!」
「ご、ごめん」
「お前は雑魚どもを頼む。俺はリーダーを殺る」
「了解」
カルドスが駆け出し、一瞬でコボルト・リーダーとの間合いを詰める
「グルルルッ⁈」
「セイヤッ‼︎」
一撃で仕留めた。あのコボルト・リーダーは全くカルドスの動きに反応しきれていなかった
「負けてらんねーな!」
残った40匹をまとめて殺すため、コボルトの周りに酸素の壁をつくる
「点火‼︎」
コボルト達が炎に包まれる
「終わったぁ」
ぺたりと座り込む俺のところに、カルドスが近づいてくる
「よくやったな、ソーヤ。無事で良かった」
わしゃわしゃと俺の頭を撫でる
戦闘音に気づいて、俺たちの戦いを見ていたらしい村の人がやって来て、口々に俺とカルドスに礼を言った
ちょっとした英雄気分に浸れた
* * *
事態が収拾し、門の応急補強をしたあと、村人全員による会議が行われた
結果、門の強化と見張りをたてることが決定し、見張りは半日交代で村の男がすることになった
門の強化は今日から開始し始め、男は力仕事をし、女は食事をつくるという村総出の作業だった
「なあ、父さん。なんでコボルトはこの村を襲ったんだろう」
「さあなぁ。行商人がコボルトに襲われたという話はよく聞くが、人の集落に攻め込んだという話は聞いたことがないな」
カルドスさえも今回の事件の原因はわからないという
「魔物の獰猛化、随分と深刻になっていっているみたいだね」
早く旅に出られるほどの力を付けなければ
俺は心の中で、もう一度固く決心した
7年後が待ち遠しい
これにて第一章は終了です
二章からは7年後の話です




