再会
バトル中のBGMに…おすすめ?↓
うーむなんだか違う気もするが……
http://www.youtube.com/watch?v=3Y8D35mxGsA
「すああああァァァァァァァァァァァ!!」
シルヴィアは怒号をあげるとともに虫の軍勢へと切り込んでいく。
「え、ちょ……」
一見無謀な行為に思えたヴァンだが、そんな考えはすぐに誤りであったことに気づく。
「あああああああァァァァァァァァァァ!!」
次の瞬間、そこに竜巻が起こったのかと錯覚した。
シルヴィアに突っ込んでいく虫達は、次々と弾き飛ばされるように吹き飛んでいく。一匹一匹は複数の致命傷を負っていた。
頭、胸、腹、羽、腕、足、鎌……ありとあらゆる『虫だったもの』が粉々になって散っていく。
ヴァンとあまり歳の変わらない少女が。たった二本の剣で、虫達をほふっているのだ。
虫達は決して、貧弱ではない。
そのパワーは村の大人達が束になっても1匹たりとも抑えつけられぬ凶暴さを誇る。それが、逆にこちらへと集団で一人の人間に襲いかかっているにも関わらず、虫達は原型をとどめることすらかなわず砕け散っていく。
虫の肉体を吹き飛ばす竜巻の中心で、二本の剣とともに乱舞を舞うシルヴィア。その光景は、異様と言えば異様だった……
「あ……」
乱暴すぎるその動きでシルヴィアの黒い髪と肢体は跳ね回り、近寄るすべてのものをなぎ倒す。
まさに粗暴という言葉こそふさわしい——だが、それとともに——それがなんだか、とても美しい。
「……」
言いようのない魅惑に、ヴァンはとらわれる。
シルヴィアの乱舞に、ヴァンが思わず見とれていたそのとき。
「はい、後ろには気をつける」
サクッ、と。背後で刃物が肉を貫いたような湿った音が鳴った。
ハッとしてヴァンが振り返ると、いつの間にか自分に迫っていた虫を、クリスが刀で突き刺している。
「いちおーがんばって守るけど、できるだけ自分の身は自分で守ってよ。これ以上僕の愛刀がベトベトになるのは我慢できないんだって」
虫を蹴り飛ばして刀を引き抜くと、クリスはだるそうにヴァンに説教する。
「あ、ああ……す、すまない……」
謝意を伝えるヴァン。
だがヴァンはクリスが刺した虫を見て、目を見開く。
彼の刀が虫を貫いた場所は、頭だったのだ。
ヴァンは、逃げる最中で反撃をしたことがあった。だが、そんなことをしても、虫達は獰猛にこちらを攻めてくることを、彼は経験している。
「お、おいあんた! そんなとこ刺したってこいつら全然動け……る……」
と、警告を発しようとしたヴァン。だが、虫の様子を見るにつれて、その声は次第に小さくなっていく。
「……あれ?」
虫の様子がおかしい。頭を潰された程度では全くひるまないはずの虫が、急に体を震わせて大人しくなっていった。
つい先ほどまでは、ヴァン達を八つ裂きにするためにその鎌を振り回していたというのに、今はめっきり動かさない。
「え……どうして……?」
するとクリスは得意げな顔になり、くるくると大包平を手の中で振り回す。
「頭つぶれても動けようが、関係ないよ。僕、未だに出会ったことないんだよね。僕の毒を受けてもまだ動ける雑魚には」
コンコン、とノックするように刀身を指で叩くクリス。
そのまま微動だにしなくなった虫に歩み寄ると、ゆっくりと虫を観察し始める。
「あーはいはい、こいつは背中か。本体あるの」
そう言うと、クリスは刀を構えて一気に背中を刺し貫く。その瞬間から、虫はもう、ピクリとも動くことはなかった。
「僕の大包平を含めた武器は全部、僕のスーツから精製した毒が自動的に組み込まれるんだ。今のところいろいろと種類はあるんだけど、とりあえず麻痺毒にしといた。致死性のやつは貴重だし」
すぐクリスの後ろに、虫が音もなく近寄ってくる。
だが。
相手の動きをすべて読んでいるかのように、クリスは虫からの攻撃を避けた。
ドガッ! と。虫の口に刀を突き刺すと、素早く抜き取って口の中に何かを無理矢理突っ込む。
するとクリスは虫を大群の方向へと蹴り飛ばした。
そして。
「あ、ちなみに僕の毒って全部火をつけると爆発するから」
とんでもない発言をポロっとつぶやき、クリスはヴァンを連れて後ろへとさがる。
ドガン!! と。次の瞬間、蹴飛ばされた虫は大爆発を起こし、周囲にいた虫はすべて爆炎に飲み込まれた。
衝撃波が洞窟内で暴れ回り、風が吹き荒れ、大地が悲鳴をあげる。
「おい、ここがどういう場所かわかってるのか貴様!!」
突然の爆発から、シルヴィアはクリスを叱責する。
しかし、クリスの方は特に反省の色も見せない。
「インドラでなにもなかったんだ。全然大丈夫でしょ、こんくらいだったら」
そのことでシルヴィアは苛立った表情を浮かべると、まるで自身の憤怒を敵に叩きつけるように、先ほどよりも凄まじい勢いで虫達を『残骸』へと帰していく。
その有様は、もはや竜巻などという生やさしいものではなく、嵐だ。
「おおこわっ」
自分の行動が原因なのにも関わらず、クリスは他人事のようにそうつぶやく。
(あんなことしてたら男逃げちゃうのになぁ。せっかく可愛い顔してるのに)
心の中で残念がるクリスだが、言葉にしてしまえば剣のさびにされてしまうことは目に見えているので、口にはしない。心の奥に禁句をしまうと、そのまま『仕事』を着実にこなしていく。
この光景は一見すると、彼らが圧倒的に相手を押しているように見える。
しかし。
「——ちょっと相手が多すぎるなぁ」
次々と虫達を難なくほふるクリス達だが、虫達はどこからともなく無数にわいてでてくる。
なんとかして敵の出現を食い止めるか、ここから退散と決め込むか……とにかくこのままではらちがあかない。
(こっちは住民だって救出しなきゃなんないのに、こんなとこで時間食うのもやだなぁ……めんどくさ)
虫達を殺しながら、クリスは次の手だてを考える。
だが、どうにも決定打がない。
なにかしらあいつらの注意を向けるものでもない限りは、奴らは執拗にクリス達をねらい続けるだろう。そうであってはここで退いても同じことだから、どうにもしようがない。
かといって、ここで戦い続けていてもいずれは数の少ないこちらが消耗しきってしまう。
このままでは奴らに殺されてしまうのがおちだ。
(うーん……とりあえず、ここから移動するか)
なにをすべきか迷ったときは、とにかく動く。戦うにも、ここはいささか分が悪い。
それにわずかな可能性ではあるが、逃げながら敵を始末していけば、いずれは撒くことができることもある。
そう判断したクリスは、シルヴィアにその旨を伝える。
「シルヴィア。ここじゃ場所が悪い。倒しながら前に進もう」
流れ作業のように襲いかかる虫を吹き飛ばしていくシルヴィアに返答をする暇はないが、了承したというように視線だけをクリスに送る。
それを見たクリスはヴァンを担ぎ出す。
「え、ちょ、なにを……!」
「君の足じゃ遅いんだよ。黙って担がれて」
相手の意志も無視して、クリスは半ば無理矢理にヴァンを担ぐ。
「シルヴィアおねがい」
「言われずともやってやる!」
シルヴィアが先行して通路を走り、クリスはそれに続く。
前方からやってくる障害をシルヴィアがなぎ払い、後ろからの追っ手を、クリスが手裏剣をとばして撒いていく。
「これで相手が根負けしてくれればいいんだけど」
「無駄口叩くな、走れ!」
虫を殺しながらも、クリス達の走るスピードは全く減速していない。
それでも後ろから次々とやってくる虫達は、彼らを見失うことなく襲いかかってくる。
勢いは衰えることなく、むしろ盛んになっていく一方だ。
「くっ!!」
さすがのクリスも苦々しい表情となり、イヤな汗が顔を流れ出す。
シルヴィアの方も虫の勢いが激しくなってきていたようで、殺すのに時間がかかり、次第に走行速度が落ちてきている。
進むことも退くことも、もはや難しい状況だ。
(……冗談ではなく本当にまずいね。このままじゃ押しつぶされて、やられておしまいだ)
クリスは手裏剣を投げながら、状況を打破する方法を計算する。
また爆撃で一蹴してやることも考えたが、通路の狭い空間で行えば、下手をすればこちらも巻き込まれてしまう。天井なんかが崩れてきてしまえばそれこそ意味がない。
大量の敵に囲まれた際、こちらの方で最も頼りになるのはシルヴィアだ。
だが、彼女を見ている限り、押し迫る虫の軍勢に処理が追いつかなくなっている。クリスはどちらかといえば不意打ちや一対一の戦いにおいて真価を発揮するタイプであって、このように多数を相手にする場面ではあまり力を出すことはできない。
「ちっ」
小さく舌打ちするクリス。
今の状況では、どのみちジリ貧だ。何かをするにしても状況が悪すぎる。
どうする。一か八か、敵をまた爆破するか、それとも強引にこの包囲網を突破するか……
そんな危機感にクリス達が煽られていた、そのときだった。
突然、進行方向から強い閃光とけたたましい轟音が鳴り響いた。
「ッッ!?」
突然のことで目がくらむシルヴィアとクリスだったが、その光と音は、二人のよく知っているものだった。
(こ、れは——!!)
二人は同じ答えを思い浮かべる。
突如として目の前で起こった、この現象の答えを。
「クリス、煙幕」
どこからか、クリスに指示をする声が聞こえてきて、すぐにそんな考えはどこかへと追いやられる。
何の感情もこもっていない、冷たい声色。それを聞いたとたん、クリスは無意識のうちにその指示に従って煙幕を取り出して使った。
ボン! と煙幕玉が破裂して、あたりを煙が覆い隠す。
迫ってきていた虫達は煙の中を突進していくが、煙の中では視界が完全に封じられてしまう。
匂いを嗅ぎつけようとしても、何かが焼け付いたような強烈な臭いのせいで全く感知することができない。
音も、周囲に存在する仲間が騒ぎ立てるせいで役に立たない。
やがて煙が消え去ったとき、虫達は完全にクリス達を見失ってしまっていた。
残っていたのは、黒こげた同族の死屍累累ばかり。
「ギギュ!?」
あわて出す虫達。
どこを探しても、彼らは影も形もない。
だが、まだそれほど時間は経過していない。遠くまで行ってはいないはず。そう考えた虫達は、辺りを洗いざらい詮索するために四方八方へと散っていった。
やけ焦げた、同類達の死骸だけを残して。
やがて虫達は完全にいなくなり、沈黙と暗闇が、辺り一帯の空間を支配した。
「……行ったか」
すると、死骸の山の中から、一人の人影がでてきた。
周囲を確認し、残っている虫がいないことを確認すると、死骸の山に声をかける。
「やっぱり虫は虫だな。脳みそが不足してやがる……もういないぞ。おまえらも出てこい」
呼びかけに答えるように、そこから二人が死骸から這いでてきた。
「いやー助かったよレオン。相変わらず機転が回るね」
「助かりました」
クリスとシルヴィアは、レオンにそれぞれ礼を言う。
「ぷはっ!」
「げほ! ごほ、ごほ!」
レナとヴァンも出てきたが、いきなりのことで動転したからか、ヴァンはむせてせきをする。
周りを見渡したレナは、一緒に出てきたヴァンを見て目を大きく見開く。
「ヴァ、ヴァン! ヴァンなの!?」
「レ、レナ! レナか!?」
声に反応してヴァンはレナを見つける。レナもヴァンを見ると、二人は思わずお互いに抱き合った。
「ヴァン!」
「無事だったのか! よかったよレナ!」
再会を喜び合うレナとヴァン。
暗かったレナの表情はパッと明るくなる。
地獄の中で、わずかな光を見つけ合った二人。
やがて抱き合うのをやめると、ヴァンはレナに問いかけた。
「いったいどうやって助かったんだ? もうダメかと思ってたのに……」
「私もダメだと思った。でも、虫に襲われてたところをレオンさんに助けてもらったの!」
レナは振り返り、レオンを見つめる。
ヴァンもレオンを見ると、彼の姿を見て、ハッとしたような顔になる。
「もしかして、あんたも……?」
「KOQ所属、レオン・スパイダー……レナとは、知り合いか?」
ヴァンの質問に、レオンはそれだけ答えると質問を返す。
「親友なの! いっつも村で一緒に遊んでる……虫達の襲撃ではぐれてしまっていたけど……ヴァン……」
レオンの質問に答えたのは、レナだった。
レナは、あふれんばかりの輝きを放つように笑顔になり、ヴァンに話す。
「ヴァン、レオンさん達がいたらもう大丈夫! この人は本当に強くてすごい人だから! きっと村人の人たちも、全員救ってくれる! お母さんも、きっと!」
お母さん、と言うときだけ表情に少し影が落ちたが、すぐに明るさを取り戻して、レナはヴァンにそう言い切った。
その仕草と言葉から、ヴァンは事情を察したようだった。
「……そうか……リリィさん……」
ヴァンは落ち込むようなそぶりを見せる。
だがすぐに顔をあげ、ヴァンはレオン達を見据えた。
「あんたらに、まかせていいのか?」
「おまえはどう思うんだ。俺たちのことを」
「……正直、得体の知れないところが大きくてどうとも言えない。でもさっきので、あんたらがメチャクチャ強いって事はわかった。あいつらとの戦い方を知ってることも……」
ヴァンは、一瞬ためらうように言葉を詰まらせるが、やがてレオン達に頭を下げる。
「他に頼れるものもないんだ。だから、頼む……俺たちを助けてくれ……!」
「……」
レオンはしばらく黙ったままだった。
その間も、ヴァンは頭を下げたまま、動かない。
見ず知らずの、さっき会ったばかりの赤の他人に。必死に懇願するヴァン。
やがてレオンは口を開く。
「……最大限の努力は、約束しよう」
レオンの言葉に、ヴァンは顔をあげると、喜びの表情を浮かべる。
「ありがとう……!」
再びヴァンは頭を下げて、感謝の意を伝えた。
「——で、レオン。僕らに言うことない?」
意地悪そうにクリスはレオンにしゃべりかけて、強引に肩をくむ。
レオンは無表情のままだが、申し訳なさそうに顔を下に向ける。
「連絡できなくてすまない。まさかこれほど地下深くにまで広がっているとは思わなくてな。通信機も電波が届かなかったんだ」
「いやーおかげで探し回るはめになったよ。シルヴィアなんて『手がかりがなくとも探すんだ』なんて言い出すもんだからホントまいった」
「うるさい。黙れ。良いだろう、別に」
「……とにかくここから動くぞ。虫が戻ってこないうちに」
「了解」
「りょーかい」
「あ、はい!」
「あ、ま、待ってくれよ!」
レオンの指示に従い、クリスとシルヴィアは洞窟の奥へと歩き出す。レナとヴァンは慌てて三人についていった。
「……ずいぶん期待されてるんだな、俺たちは」
「そうだね、あんなに目をキラキラさせちゃって……期待しすぎて、もしものときに絶望しなきゃいいけどね。僕たちは万能じゃないんだから」
「……」
三人は互いに目をあわせ沈黙するが、また各々は前を見据えて歩く。
「……そうであることを祈るしかない。結局俺たち人間にできることは、それだけだ——いつの時代も、な」
レオンの意味深長な一言は誰にも聞かれることなく、洞窟の闇に溶けていった。
祈ること。
結局人にできることってそれくらいじゃないかな、と思うこのごろ。
成功も失敗も、人間にはわからないもの。
すべてがうまくいくことを祈って動くしかないのだ。