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一方で

 電話のみで未だ登場していないあのキャラ登場。

「うーさぶっ」

「いらんことしか言わないその口を閉じろ」

 ブリザードが吹き荒れる山中を、クリス・フォックスワードとシルヴィア・スネイクは走り抜けていた。

「シルヴィア〜。いい加減僕が何か言う度にキツいこと言うのやめてよ。何にもしゃべれなくなっちゃうじゃん」

「ぜひともお願いしたいものだ。そうでなくても貴様がしゃべり続けるのならばその動き回る舌を引きちぎってやる」

 おーこわっ、とクリスはわざとらしく震え上がってみせる。


 クリスは、レオンと並ぶ美少年であった。

 レオンが『欠点のない完璧な美男子』であるのに対して、クリスは『華やかで妖美な青年』といったところだろう。

 海のように深い青い色の瞳は、一目見たものを釘付けにし、彼のその鮮やかな金髪は、周囲のものすら金色に輝いているように見せる美しさを纏っていた。

 一方でシルヴィアは、漆を塗ったように光る黒い髪をたなびかせ、美少女と呼ぶに申し分ない容姿であったがそれ以上に目を引くのは、その瞳だった。

 レオンと同じ黒色のそれは鋭く前を見据え、見るものすべてを畏怖させる。

 美しく、それでいて力強い生命力に溢れる女性……それが、万人が彼女を見て抱く第一印象だろう。


 走りながら、クリスは急にいなくなったレオンのことで愚痴をもらす。

「レオンのヤツどこいっちゃったんだか。何も連絡しないでいなくなるこっちの身にもなってみてっての」

「おまえがいなくなればよかったのにな」

「おかげであちこち探し回ることになったんだからな。この吹雪のせいで足跡全部消えちゃってるし」

「おまえが消えればいいのにな」

「おかげでこんなクソ寒い思いすることになったし。タイプBUGバグも相手にしなきゃなんないし。今度会ったらしばき倒してやる」

「もう黙れ。目をえぐるぞ」

「……早く合流してレオン。殴るぞ」

 落胆のため息を大きく吐くクリス。

 そんなクリスのことなどもはや無視して、シルヴィアは先行する。


「……本当にどこにいるんですか。レオン」

 クリスのときの態度とはうって変わって、シルヴィアはレオンの様子は心配しているようであった。

「ねえ。なんなのこの温度差。なに。俺とレオンの何が違うの」

「四〇〇字詰め原稿五枚分使って書き起こしてやろうか」

「立ち直れそうにないから遠慮しとく」

 恨めしそうにクリスが呻くが、シルヴィアはそんなことなど知らん顔で詮索を続行している。

 やれやれというようにクリスは首を横に振ると、顔面に雪の固まりが覆い被さってくる。

「……厄日だ。今日」

 苛ついた手つきで雪を振り払うクリス。

「つーかさぁ。何の手がかりもないのにどうやってレオンを探すのさ。もう疲れたよ」

「知らん。とりあえず探し回るまでだ。それにまだ三〇分ほどしか経過してないぞ。弱音なんぞ吐くな」

「マジ帰っていい? 僕もうホントイヤになってきたんだけど」

「そのまま雪山で遭難して死ね」


 もはや返答する気力すらなくなり、うなだれるクリス。

「んなことより居場所のわかってるクイーンのとこに行った方が確実だと思うんだけどなぁ」

「そしてそのまま二度と帰って……」

 と言葉を続けようとした瞬間、シルヴィアはクリスの台詞の中に聞き捨てならない部分があることに気づくと、口を止めた。

「……今、なんて言った?」

 シルヴィアはクリスに問いかけると、どうでもいいというようにクリスは吐き捨てた。

「いや、だから居場所のわかってるクイーンの元へ行けばいいんじゃないのって」


 どこが聞き捨てならないって、すべてだ。

 こんなことがこの男の口から出ること自体がおかしかった。

 今回この地域については、未開拓の場所であることから道の勝手がわからず、ろくな捜査すらこちらではできていないはずだった。

 クイーンの居場所はもちろん、まず今の時期に村人がどこにいるのかすらわからなかったクリス達は、あちこちを歩き回ってようやく手がかりの地図を手に入れることができたのだ。

 それなのに、クリスはクイーンの居場所がわかったなどと言う。

 冗談だとしたら斬り捨てたくなるような冗談だ。


「……そんな報告はなかったぞ。いつ届いていた? 届いていたならなぜ……」

 と、シルヴィアがクリスに詰問しようとしたとき。

「ないよ。そんな報告」

 またあっさりと、この男はこちらを混乱させるようなことを言ってくる。

 まゆをつり上げたシルヴィアは、背中にかけている二本の刀剣のうち一つに手をかけた。

 彼女が持つその剣の名はデストロイヤーといい、ドラゴン型クリーチャーから採取されたその牙を素材にして作られたものだ。

 テスト段階では厚さ10ミリの鉄板を軽々と斬り裂いてみせたその剣は、それを遙かにしのぐ硬度を持つ甲羅や鱗を持ったクリーチャーを次々と斬り捨ててきた、絶対の切れ味を誇る無双の双剣。

 その切れ味を、シルヴィアは今ここで見せようとしているのだ。

 目の前の。クリスに対して。

 ……もっと言うと、本人を使って。


「あの、冗談じゃないからやめて! まだ僕死にたくない! 説明するから!」

「……」

 いい機会だから首と胴体を永遠に別れさせてやろうかと思っていたシルヴィアは、少し残念そうにその手を離す。

 相変わらず、クリスのことは睨み付けたままだが。

「いったいどういうことか、きっちり説明してもらおうか」

「心臓に悪いなぁ。いつものことだけど」

 無駄口を叩きたがるクリスの目の前で、シルヴィアはもう一度剣に手をかける。

 その瞬間、クリスは咳払いをすると、やけに早口になって話をし出した。

「じゃあまず最初にさ、シルヴィア。どうして僕らがここに出撃命令なんて受けたのか、覚えてる?」

「は?」

 いきなり突拍子もない質問をされて、シルヴィアは戸惑った。

 また冗談か何かかと思ったが、顔色を見る限りそうでもないらしい。

 どんな関係があるのかはわからないが、シルヴィアは素直に答えることにした。


「——豊富な地下資源が発見されたからだ」


 KOQキラーオブクイーンが所属する国は、この地方へと人員を派遣し、資源調査を独自に行ったことがあった。その際、この地域は火成活動が活発で、豊富な鉱物が地下に眠っていることを調査団は発見したのだ。

 主には、レアメタル。このご時世では本当に貴重な物であり、国からしてみれば喉から手が出るほど欲しい物であった。そんな隠れた魅力を持つこの地域の開拓に、レオン達の国は乗り出すのには、それほど長い時間はかからなかった。

 しかし、やはり未開拓の土地であるということから、いきなり国の者を向かわせるということについては抵抗の意志が強かったようだ。自分たちの地域にない病気や生物の危険もあるし、気候ももちろん大きく異なる。何よりもそこではCOQクリーチャーオブクイーンが出現するかどうか、というところでも判別ができないのだ。そんな場所に何の計画もなく足を踏み入れることは、ただでさえ少ない人材をいたずらに削る結果となりかねない。

 そのため、レオン達が調査員として特命を受け、ここへとやってきたのだ。

 主に、COQクリーチャーオブクイーンの存在について調査することと——もしも発見した場合には、すみやかに排除をするために。


 

「そうだね。地下資源。おかげで僕らはこんな寒いとこに放り込まれて、慣れない作業をしなきゃならなくなったってわけだ。しかもCOQクリーチャーオブクイーンを発見したなら、すぐに俺らの手で排除しろとかいう無茶苦茶な指令も一緒にね」

「……これと、お前の話がどうつながっている?」

「おっとっと、そうでした。じゃあシルヴィア。その地下資源ってさ、報告によると何が原因でできたんだって?」

「? いや、だから火成活動だと聞いているが……」

「ふーん」

 その言葉を聞いて、クリスは不敵な笑みを浮かべてシルヴィアを見る。

「なんだ、気持ちの悪い」

「そっか。火成活動か。そうだったね。うっかりしてたよ。こんな寒い場所でもそんな暖かそうな場所があったんだね。ふーん」

「回りくどいことを言うな。さっさとわかりやすく言え。斬るぞ」

 おおー、とクリスはわざとらしく驚いた。


「いやごめんごめん。ただ単にこんな風に思っただけだって……『そんなところなら虫だって冬を越せるだろうなー』って」

 

 そこまでクリスが言うと、シルヴィアも何かに気づいたようにハッとなった。

 まさかとは思うが、という感じでシルヴィアは、クリスに呼びかけた。

「——おいクリス、何を考えている?」

「いやね……やっぱおかしいと思ってるんだよ。いくらなんでもこんな極寒の土地で、タイプBUGバグなんかがいるわけがない。まず寄生するための虫自体がいないんだもの。冬を越すことだってこんなに寒きゃあできやしない。だったらどこであいつら虫に寄生したんだろう、って」

「夏ごろに活発だったヤツにとりついたんじゃないのか。そいつが地下で冬の寒さをしのいでいるとか……」

「だったらもっと早く被害が出て、ここいらから人がいなくなってるさ。それにしては村の人たちが不用心すぎるし何よりヤツらにしてみると行動が遅すぎる」

 クリスの説明に、シルヴィアは反論を唱えることができず言葉を詰まらせる。

 確かに、シルヴィアもうすうす疑問には思っていたところだ。

 なぜこんな土地で、タイプBUGバグのクリーチャーが発見されたのか。クリーチャーはどんな姿にもなり得るが、それはその姿の原型が存在しなければまず話にならない。

 クマやトナカイなんかであるなら、まだわかる。だが、温度の高い場所で活発に活動し、温度の低い場所では活動を停止するか、またはそんなところではまず『生息できない』虫なんかに、なぜ寄生したのか?


 つまり、とクリスは言葉を続けていく。

「——これしか考えられないんだよ。あいつら、火山を拠点にして動いてるのさ。それならこんな場所でも十二分に暖かい。虫でもまぁ、生きていたりすることはあるだろう。そこいらで冬ごもりでもしてたヤツに、寄生したんじゃないの? これなら一応筋は通ってる」

 極寒の死の地に存在する、唯一の暖地。

 それはこの場所で生きる虫達にとって、唯一の生存可能地域ではないのか?

「……だとしたら……」

「うん。そこがヤツらの活動拠点だ。そこに偶然出来ていた地下空洞を、あちら側が宮殿コートとして使ってるんだろう……というのがまぁ、僕の予想。確信はあるけどね……で、レオンもいずれそこにたどり着くはずなんだ。あちこちレオンを探すより、そっちへ行った方が出くわす可能性は高いし、僕らも行くべきだ。それにこっちは村人だって救助しなきゃいけないし、あんまあいつに構いすぎると本末転倒だよ」

 それだけ言うとクリスはデバイスを起動させて地図を展開。この地域一帯の地形をあらわす3Dホログラフィーが映し出されて、火山がどのあたりにあるかを検索した。

 

「方角はあっこらへん。どうする? まだレオン探す? それともこっち行く?」

 クリスはシルヴィアに問いかける。

 そのときのクリスは殊勝な顔だったのに対し、シルヴィアは屈辱をかみしめるように渋い顔をしていた。

 さんざんさっきから馬鹿にしていた相手がこれだけ先読みをしていたのに、自分が今までしていた徒労のことを考えると、顔から火が出るほど恥ずかしいのだろう。

 クリスはクリスで、口の中に突っ込まれてきていた煮え湯の借りを返すことが出来て、生き生きしたようになっている。それがまた無性に腹立たしい。


 だが……いつまでも、わがままを言っているわけにはいかない。

 クリスの言うとおり、自分たちは村人を捜索して救助しなければならないのだから。


 しばらくの間、シルヴィアはどちらをすべきか迷っていたが、しぶしぶ了解するように首を振った。

「オッケー」

 クリスはニヤリと笑うと、デバイスの電源を切り、進行方向に向かって走り出そうとする。

 勝った、とよくわからない勝利の宣言を心の中であげるクリス。


 が。

「——そんな大事なことをなぜ先に言わん!」

 と、その直後に後頭部に強烈な殴打を一撃喰らった。

 走ろうと足を乗り出していたクリスは、体勢を立て直すことができずそのまま転び、積もった雪に顔を突っ込んでしまう。

 ふん、と鼻をならすと、シルヴィアはクリスのことなど捨ておいて、そのまま先へと走って行ってしまった。

 やがて、そんな足音も消えて無くなり、吹き荒れる風の音だけが聞こえる静寂の中で。

「……ホントに僕、帰ろうかなぁ……」

 未だ頭を雪の中にうずめながら、クリスはそんなことを考えていた。

 ……なんでだろう。

 レナよりシルヴィアの方がすごく書きやすい(笑)

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