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逃走

 文章見直して思った。

 走りまわるシーン、多くね?

「……え?」

 レナは、未だに目の前の光景を信じることができなかった。

 今の今まで求めていた救いの手が、自分に伸ばされたことを。

 そして、大人たちでもどうにもすることができなかった虫を殺した、男のことを。

「汚ぇな。血をドバドバ出しやがって。やっぱ最悪だ」

 男は虫のことなどどうでも良さそうに、手袋とナイフについた虫の血を振り払う。

 一通り終えると、男はレナの方を見る。


 ふと、レナと男の目が合う。

 レナは、男の目を思わず見つめた。

 黒い瞳。この暗闇と同じくらいに深い黒は冷たい眼光を放ち、他者を寄せ付けぬ威圧感を持っていた。

 改めて見ると、やはり男の顔には——なんというか、生の気色が全く感じられなかった。

 それに気のせいかもしれないが……完全に無表情なままのその男がレナに向ける視線は、虫に向けていた視線と同じであるような気がした。


「いつまでじろじろ見る気だ」

 静かに、男はそう言い放つ。

 ハッとしたレナは、ばつが悪そうに目を逸らすが、何か恥ずかしい気持ちになって顔が赤くなる。

 と、そのとき男はレナに手を伸ばした。

「……立てるか」

 まだ動揺したままのレナは男の目と手を交互に見るが、やがてレナは手を握る。

 すっ、と。

 こちらが負担を感じないほど優しく、それでいてしっかりと腕をつかむ力強い手の感触に、レナはまた驚きを隠せない。

 いったい、何者なんだろう。

 少なくともレナはこんな服装をした人を見たことがない。

 全身真っ黒のコート。手袋も、靴すら黒で覆われている。こんな暗い場所では、目をこらさなければきっと気づかず素通りしてしまうだろう。

 それを着ている本人も……上手くは言えないが——その存在感の薄さ——というのだろうか、そこにいるのかどうかすら、虚ろな気がする。

 そして次に気になったのは、奇妙な構造をしたジャックナイフ。

 刀身自体は何の変哲もないものだったが、柄の部分には拳銃のトリガーらしきものが取り付けられている。今、男は逆手にナイフを持っているが、トリガーの部分を小指でしっかり掴んだまま握っていたから、レナは違和感を覚えた。

「……」

 男は、不快の色を目に出した。そのときレナはまた自分が失礼なことをしたと思い、萎縮する。

「あ、あの。すいません……」

「しゃべるな」

 男の静かな一言は、レナに沈黙を要求する。

「あ……は、はい……えっと、すいませ……」

 と、レナが男に謝罪を伝えようとしたその瞬間。


 男はホルスターから拳銃を取り出し、レナに向ける。

「え」

 バン! と。

 驚嘆したレナをよそに、男は弾丸を発砲する。

 放たれた凶弾はレナの顔を横切って、背後にいた何かに命中した。

「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 銃声。肉を引き裂く生々しい音。けたたましい悲鳴。


 後ろを振り返ると、レナのすぐ後ろには、もう一匹の虫がいた。

「きゃあ!!」

「……Shitくそが

 虫は、頭頂部に弾丸を受けていたが、それにも関わらず尚も二人に襲いかかろうとする。

「ふん」

 だが、そんなことなど予測していたかのように男は虫を蹴り飛ばす。

「ギャ!」

 壁と衝突し、仰向けに転がる虫。しかし男はなおも追撃を仕掛けるべく、稲妻のような速さで虫に接近する。

 起き上がろうとする虫の足をひっつかむと、男は腕を思い切り引き上げて、虫を反転させる。

 未だ空中を舞う虫に反撃の隙も与えず、男は虫の背中をナイフで串刺しにした。

 悲鳴をあげようとする虫。だが、即座にナイフを引き抜いた男は、虫の声帯を再び破壊し、断末魔すらあげさせない。


 虫が辿った道は、先ほどの襲撃者と同じ、無残な死だった。


「……タイプBUG(バグ)はこれだから嫌いだ。頭を潰したところで動き回りやがる」

 口調こそ苛ついたようなものであるが、そこには苛立ちというものが相変わらず全く感じられない。

 レナは、男の一連の動作を見て、驚嘆する。

 今の男の動作には…素人のレナにもわかるほど……全く無駄のないものだった。

 本当にこの男は何者なのか。

 レナは窮地を救ってくれた恩よりも、男の正体に対する疑問の方が強く感じた。


「来い」

 だが、そんな疑問などすぐに吹き飛ばされてしまう。

 男は急にレナの腕を掴む。

「え、あ、むぐ」

 突然の出来事に慌てるレナの口を、男の手がふさぐ。

「黙れ。虫が来るぞ」

「!」

 二度目の忠告で、レナはやっと先ほど男が言った意味が分かった。

 相手に肯定の意志を伝えるべく、首を縦に振るレナ。それに対して男は特に何も反応しない。

「……よし。いくぞ」

 へ? と反応する暇もなく、男はレナを肩に担ぐと突然走り出した。

「!?」

 突然、凄まじい風圧が自身にかかってきた。

 いきなり突風が吹き荒れたのかとレナは思ったが、よく見てみれば違う。とてつもないスピードで、こちらが動いているのだ。目をこらすと、すべての風景が光の線となって通り過ぎていっていることが、かろうじて認識できる。

「邪魔」

 男が奇妙なかけ声を上げると同時に、衝撃が走る。

 何が起こったのかよくわからないレナ。すると彼女の体に生暖かいものが降りかかる。

「きゃ——な、なに!?」

 粘性を持っている上に、なんだか変な臭いまでする。

 気持ちが悪くて、レナはじたばたと暴れた。

「暴れるな。たかが虫の血ぐらいで」

「え、虫……血——ッッ!?」

 その一言で、レナは理解する。

 男の走行路に、虫が立っていたのだろう。

 そして男はその虫と激突して殺し、その体液が今レナの体中に——

「ッッ!」

 声にならない叫びをあげかけるレナ。だが、男が忠告したことを思いだし、寸前で口を押さえる。

「……Goodよし。あと、少し空飛ぶぞ」

「うっ……え、え?」

 男はレナの行動を褒めると、今度は宙に高く飛び跳ねた。

「ん〜〜〜〜〜〜〜っっ!?」

 危うく叫びそうになるが、口を押さえたままであったので、なんとかうめき声にとどまることができた。


 一度や二度で男の跳躍は終わらず、上も下もわからないまま、レナは右へ左へと大きく振り回される。

 壁から壁へと跳躍を何度も繰り返す男。

 レナはどこへ向かっているか未だかわからぬまま、口を押さえることすらやめて、ただただ男にしがみつくことしかできなかった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!」

Good Girl(いい娘だ)

 必死に声を抑えるレナ。そんな健気な様子を見て、男は賞賛の言葉を贈るが、今のレナにはそんなことをいちいち聞く暇もない。


 ……ブゥゥゥン……

「ッッ!!??」

 と、空を舞うレナの耳には、確かに虫の羽音のような音が聞こえた。

「優秀なヤツらだな。俺らに気づいたか」

 どうでもよさそうな風に、男がそうつぶやいた次の瞬間。レナ達の周囲に無数の虫が出現した。

「やれやれ」

 呆れるようにため息をつく男は、虫の出現に全く驚かず、つまらなさそうにぼやいた。

 一匹の虫が、毒針を出して突進してくる。

 だが、男は涼しい顔のまま虫の頭を鷲づかみにし、次の壁ジャンプと同時に顔面を壁に叩きつける。

 二匹目が来るも、それも見事にかわされ、カウンターで回し蹴りを喰らわせる。

 次は同時に二匹やってきたが、男は一匹の虫を捕まえると、振り回してもう一匹をたたき落とす。捕まえられた虫は、衝撃で見る影もなくひしゃげた肉塊に成り果てた。


 虫がどれだけ迫ってきても、この男はまゆ一つ動かさずに空を駆け巡る。

 さすがに虫達もここまで被害を受ければ学習したのだろう。三匹以上の数で、複雑な攻撃を仕掛けてくるのだが……


Boring(つまんねぇ)……it's the(これで) end(終わりだ)


 男は全く意に介さない。

 虫達を階段のように踏んでいき、自身はさらに遠くへと飛ぶとともに相手を向こう側へと吹き飛ばしていく。

 そのまま男は迫り来る虫達に、掴んだままの死骸を乱暴に放り投げた。それが一匹に命中すると、死骸はその衝撃で全身がバラバラにはじけ飛んで飛散する。

「ギィー!!」

 

 あるものは胴体に腕が当たり。

 あるものは顔面に足が当たり。

 あるものは羽に鎌が突き刺さり。

 そしてあるものは、被弾した虫と激突する。

 

 飛行の制御がきかなくなり、壁や天井とぶつかって姿が見えなくなった。

「……撒いたか」

 ちらとだけ後ろを確認して、男はそうつぶやくとまた前方を見据えて暗闇の中を走り去った。


 英語の台詞があるのは、どうもDMCとかBIOHAZARDの影響が強いっぽいようだ。

 和訳入れるから。読者の皆さん、許してm(_ _;)m

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