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第2話 鋼鉄の迷惑

 颯太は玄関入ってすぐの台所に尻もちをついて、そのまま、1間きりの和室の敷居まで後ずさった。

「……。……」

口は動くのだが、声にならない。確かにそれがそこにある。赤さびた鋼鉄の塊が。

「な、何なんだよ。これ?」

やっとのことで、声帯が音を捕えた。それを耳で聞き、少しだけ落ち着きを取り戻す。周りを見回す。箒を発見。それを手に取ると、勇気を振り絞り、恐る恐る柄の方を鋼鉄の塊に向けた。

 おっかなびっくり鋼鉄の塊を突っついてみると、それは、確かな硬さを持っていて、また、ビクともしない重量感があった。それは、確かにそこに存在するのだと、主張していた。

 少し勇気の出た颯太は、今度は、鋼鉄の塊を叩いてみることにした。やってみると、ガンガンと、音がした。

「結構、良い音するな。中、空洞か?」

颯太は、調子に乗って、さらに、ガンガンと鋼鉄の塊を叩いた。そして、思い切り叩こうとして、箒の柄を大きく振り上げ、そのまま振り下ろしたその瞬間、


鋼鉄の塊はふわりと浮かび上がり、箒の柄を避けたのだった。


「えっ?」

それを見た瞬間、颯太は、驚くと同時に、相手がただの鋼鉄の塊ではなくて、常ならざるものであろうことを、いともたやすく、スッコンと忘れた自分を呪った。

「ど、どうなるんだ?」

 鋼鉄の塊は浮かんだ位置でゆっくりと水平に回転を始めた。その回転は、徐々に速さを増し、四角錐台の姿を捕えることはできなくなり、円錐台がおぼろげに見えるのみとなった。高い周波数の金属音が微かに聞こえた。

 しかし、鋼鉄の塊は、突如失速したかと思うと、ヘロヘロときりもみ回転しながら落下し、裏返しになると、ピクッピクッと断続的に動くのみとなった。颯太は、心配になり、鋼鉄の塊に近づいて、上から覗き込んだ。

「目を回したのか? しかし、目があるように見えんが」

 その瞬間、急に、鋼鉄の塊がふわりと浮かび上がったので、結果的に、颯太の顔にぶつかることになった。顔面を押さえていたがる颯太の前で、鋼鉄の塊は、ゆらゆらと2回、左右に揺れて見せた。

「『なーんちゃって』と言いたいのか?」

颯太が言うと、鋼鉄の塊は今度は頷くように1度だけ前後に揺れて見せた。

「で、お前、何なんだ?」

 鋼鉄の塊は、その問いは無視して、台所の奥の1間きりの居住スペースに入って行き、部屋の中央のコタツ布団のかかっていないコタツの上の中央に鎮座ましました。

「いや、お前、出てけよ」

鋼鉄の塊は、ほんの数センチだけ浮くと、イヤイヤをするように、左右に少しだけ回転した。

「少なくとも、そこに居られると、何もできないんだけど」

鋼鉄の塊は、また、ほんの数センチだけ浮くと、イヤイヤをするように、左右に少しだけ回転した。

「迷惑な奴だなぁ。お前は『鋼鉄の迷惑』だ」

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