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第1話 出会い

「暑い」

言って涼しくなるものでもない。それでも口をついて出る。

「暑い」

大学1年の夏休み。入ったばかり。そう、まだ、7月なのだ。なのに……。

「暑い」

颯太は、何度目か分からないその言葉を言った。もっとも、数えたりしたら、余計に暑く感じること請け合いだが。

「暑……ん?」

単語が完成しなかったのは、颯太があるものを発見したから。

 それは、颯太の目の前の電信柱の根本にあった。大きな鋼鉄の塊。形状は上を切り取られた四角錐のような形。四角錐台というらしい。大きさは、底面が1辺約70cmの正方形、上面が1辺約40cmの正方形、高さが約30cm。すべての辺をリベット打ちされているところをみると鋼板をはりあわせているのだろうか。赤さびている。

「なんだ? これは?」

というのは、いたって普通の反応であろう。

「回収業者に持って行ったら、いくらになるかな?」

これも、まぁ、凡人の発想。しかし、自分が何の運搬手段も持っていないことと、回収業者に全く心当たりがないことと、今日はとても暑いことを思い出して、その考えは捨てて、また、歩き出す。

「しっかし、今のは、何だろね?」

独り言を言いながら、しばらく歩いて、目を疑う。次の電信柱の根本に、先ほどと同じ、鋼鉄の塊があった。

(これは、ひょっとして、電信柱に必要な機械か何かなのだろうか?)

と思って、次の電信柱を見るが、そんなものはなさそうである。そして、何の気なしに、さっきの電信柱を振り返って、また目を疑う。どう見ても、さっきの鋼鉄の塊が見当たらないのだ。特に、死角になるようなものはない。

(今の間に、金属泥棒にでも盗られたか?)

腑に落ちないものを感じつつ、颯太は再び歩き出した。そうして、次の電信柱に差しかかったとき、口にせずにはいられなかった。

「ば、ばかな。確かに、さっきは、なかったはず」

そう、例の鋼鉄の塊が、また、電信柱の根本にあるのだ。颯太は、自分の恐ろしい考えを確かめるために、恐る恐る振り向いて先ほどの電信柱の根本を見た。

 鋼鉄の塊はなかった。やはり、颯太の考えるとおり、鋼鉄の塊は、颯太の動きに合わせて移動しているとしか、考えられない。

 颯太は走り出した。脇を通り過ぎる電信柱の根本は見ないようにして、一目散に1人暮らしの安アパートを目指した。アパートのドアに飛びつき、焦りすぎてもたつきながらも鍵を開けると、部屋に飛び込み、ドアを閉め、鍵をかけて、目を閉じて、しゃがみこんでドアを思い切り内側に引っ張っていた。

 どのくらい、そうしていただろう。腕が痛くなっていることに気付いて、颯太は急に馬鹿馬鹿しくなった。

「あんなこと、現実にあるわけないよな。どうかしてたんだ」

颯太は立ち上がり、首をぐりぐりと回して、手をぶらぶらさせて、緊張を解いた。そして、靴を脱ぎ、部屋に入ろうとして、思い切りこけた。

「痛ってー。何に、つまづいたんだ?」

颯太の足元にあったのは、例の鋼鉄の塊であった。

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