箱の中から聞こえる音《夏のホラー2026参加作品》
「あんたが、なんで、ひぃばあばに呼ばれたんか、わかるか?」
――― 私だけ、箱から音が聞こえたから!
「そうや。ひぃばあばには、子どもと孫、ひ孫を集めて23人もおるのに、音が聞こえたんは、ひ孫のあんただけ」
――― みんな、なぁんにも聞こえなかったって! 私だけ、聞こえたんだよ⁉
「そやなぁ、すごいなぁ。あんたのお母ぁなんか、昔はよぉ聞こえる子やったんえ? 小さい頃なんて、この家に泊まったら、怖い怖いと泣いとったもんやのになぁ。大人になったら耳が悪ぅなってもうたんかもなぁ」
――― ママ、耳は普通だよ?
「せやなぁ。普通のモノを聞きすぎたんやなぁ、きっと。せやさかい、あんたもこの箱の音を忘れたらあかんえ? 毎日聞くんえ? この箱に耳をつけて、毎朝聞くんや。わかったな?」
――― ひぃばあばは、もう聞かないの?
「ひぃばあばは、もうすぐ、なあんも聞こえんようになるさかいなぁ」
――― そうなの?
「ああ、そうや。さすがに生きすぎたわ。さあ、箱に耳をつけてみぃ? なにが聞こえる?」
――― くぅくぅ、言ってる。寝てるみたい。
「そや。いつもは寝てはるんや。その音が聞こえてるんなら大丈夫や。中にちゃんとおる」
――― おる? いるってこと?
「うん。だから、毎日、この箱に耳をつけて確認するねんやで? おるかどうか」
――― なにがいるの?
「この箱の中にいるものか? それはな、先見ができはるねん」
―― さきみ、ってなに?
「うーん。なんちゅうたらええんか。未来がわかるねん」
――― 未来? すごい!
「そうや。すごいんや。だからな、遠くからたくさんの人が、仰山のお金をもってあんたんところに来るやろう。自分の未来を見てくれ、っちゅうてな。誰の話を受けて、誰の話を断るかは、あんたのお母さんとお父さんに伝えてある。あんたは、自分のところに来た人の話を、その箱にしたらええ」
――― 箱に? どうやって。
「そのまんまや。例えば、あんたんところに来た相談者が『会社を立ち上げたんやけど、この先どないでっしゃろ』って言うとするわな? ほんなら、あんたはその箱を膝の上に載せて、『○○さんと言う人が尋ねてます。この人の会社、未来はどうなりますやろ?』って尋ねたらええ」
――― そしたら、箱が教えてくれるの? 会社の未来を?
「せや。箱、というか。箱の中のものがな?」
――― ねぇねぇ! だったら私も尋ねてみていい?
「尋ねてもええけど、それなりのモノをとるで、その箱の中のものは」
――― どゆこと?
「お代が高いねん」
――― え、無料じゃないの?
「タダやあらへん」
――― えー……。だって、これから私、この箱のお世話するんでしょ? それなのに、私の未来とか、知りたいことは教えてくれないんだ。
「ほほほ。あんた、意外に強欲やな。まあ、ほなら試しに聞いてみたらどうや?」
――― いいの⁉ じゃあ、私、将来パティシエになれるかどうか聞いてみようかな!
「ええけど、その答えを聞いたら、きっとあんたは事故か病気になって、指の2本ほど持っていかれるやろな」
――― ……え?
「それぐらいの対価がいる、っちゅうこっちゃ。だけど、指2本なんて、そうそうやれへんやろ? だから大概の相談者は、カネで済ませる。『未来を教えてほしい。これぐらいの金額でどうでっしゃろ』いうてな」
――― ………。
「ほんで、箱の中のものが未来を告げたら、相談者からもらったお代でお供えを買うたってな。箱の中のもののために。お供えには、どんなもんがええかは、お母さんに伝えとる。くれぐれもケチったらあかんで」
――― ケチったらどうなるの……?
「足りん分は、あんたの腕や足を持っていくやろ」
――― ……やっぱり私、こんなことしない。箱、いらない。
「怖がることはあらへん。あんたが、ちゃあんとしたらええことや」
――― やだ。お母さんと帰る。おうちに帰る。
「そないなこともうでけへんわ。あんたのお母さんとお父さんは請け負うてもた」
――― ……。
「ほならひとつ、練習ついでに、このひぃばあばが、箱のなかのものに聞いてみちゃろうな。そやな。そしたら……。あんたがパテシエいうんかいな? それに成れるかどうか聞いたろ」
――― ……いいの?
「ええで。そしたら、ほら、箱を膝に載せな。そうや。ほんで、聞いてみて。ひぃばあばが尋ねてます。ひ孫はパテシエいうのになれますか、ってな?」
――― えーっと。じゃあ、ひぃばあばが尋ねてます。私はパティシエになれますか?
「箱に耳をつけてみ?」
――― うん! ……なんか聞こえる……? え、なんで? 人の声がする。
「よぅお、聞いてみ」
――― ……う、うん。……あ! なれるって! やった!
「ほおか。よかったな」
――― うん! あああああ!!!! ひいばあば!!!!! 指!!!!!
「うん? ああ、ほんまやな。二本、折れてもうてるな……。あいたた」
――― なんで⁉ なんでそんな!!!!!
「なんでって……。あんたの願いを聞いたからやないの」
―――………。
「ほな、今日からひぃばあばの代わりに箱をよろしゅうな。ひぃばあば、病院行ってくるわ」
――― やだ!!!! こんな箱、やだ!!!! 怖い!!!!
「そんなん言うたかて、もうその箱の持ち主は、あんたに代わってもうたからなぁ」
――― いや!!!! やらない!!!!
「ほなら、聞いてみ? 箱に」
――― な……なにを?
「私は、箱から逃げられますかぁ、って」
――― ………。
「ひぃばあばが尋ねたろ。ほれ、箱に耳をつけてみ?」
――― やだ!!!!
「あんたは、箱から逃げられますか?」
――― やだって!!!!!
「ほら、聞いてみ?」
――― ………。
ニ ゲ ラ レ ナ イ
――― いやああああああああ!!!!!
「あほやなぁ、箱を叩きつけたかて壊れるかいな。あいたた。今度は、右手の指、二本折れたわ」
――― やだやだやだやだ!!!!!!
「その代わり、あんたの家は一生裕福で災難にもあわん。ひぃばあばは、その箱のおかげで姫路大空襲も逃げられたし、阪神淡路大震災の火の海かて逃げてきた。カネにもこまってへんし、この年になっても病気ひとつしとらん。ボケてもないわ。まあ、心臓がもうあかんけどな。これは老化やからしゃあないわ」
――― こんなの知らない! 捨てるし、燃やす! 壊す!
「捨てても戻って来るし、焼いても燃えへん。壊せへんし、流れへん。それはなぁ、もうずっと持ち主のそばにおんねん。さて、ちょっとぉ、来てやぁ。もう話は終わったさかい」
――― ママ、パパ! 私、やだ!!! こんなの捨てて!
「申し訳ないけど、誰ぞ病院に連れてってんか。指がこないなってもうてな」
――― やだ!!!! いや!!!! なんでパパもママもそんなこと言うの! ぜんぜんすごいことでもいいことでもないんだよ⁉
「あいたたた、どっこいしょ。ほなら、病院行こかいな」
――― いやだって!!!!! パパもママも聞いて!!!!
「診察券と……せやわ。最近はマイナンバーっちゅうのがいるんやわ。よしこさん、それもお願いな?」
――― やだって!!!!! ひぃばあば!!!!!
「なんやいな、やかましな。ひぃばあばかて、指が痛いねんで?」
――― この箱のなかにはなにが入ってんの!!!!!
「箱の中? ああ、こら。そんなに力いっぱい爪たてたら……。ああ、もう。ほら……」
――― 痛い! 爪が……!
「そりゃ、爪も剥がれるわな。誰か、手当したって。あ、そうか。ひぃばあばと一緒に病院行こか。ほな、よしこさん、車、車。あんたらも乗るやろ? よしこさん、大きいほうの車な? 軽やとあかんわ」
――― なかになにがいるの!!!!!
「箱の中? さあなあ。ご先祖さんが、大戦中に神戸でもらってきたもんらしいわ」
――― ……大戦って?
「第二次世界大戦やがな。最近の小学校はそんなことも教えへんのか?」
――― 第二次世界大戦中になにをもらったの⁉
「当時な、流行ったんや。ほれ、最近かて流行ったやろ?」
――― なにが!!!
「コロナんときや」
――― コロナ……?
「みんな、よってたかってアホうみたいに、絵を飾ってたやろ。人魚みたいなやつや」
――― アマビエ……?
「そや、それそれ。それと一緒でな、大戦とき、未来を告げるいうて、流行ったねん。まあ、特高が来てえらい騒ぎになったけどなぁ。え? よしこさん、特高しらんのかいな。ちゃうがな、その特攻やあらへん。警察やがな。そりゃまあ、そや。日本が負けるぅ、言うて予言するんやからたまったもんやあらへんわな」
――― ……予言。
「なんでもな、普通は、予言を告げたら死んでまうらしいねん、それはな。けど。うちのは、箱の中に入れて誰にも姿を見せずにしてるから、ずううううううっと生きるねんて」
――― ずううううううっと……?
「せや、ずううううううっと、や」
――― ……。
「耳つけて、聞いてみ?
――― ………。
ズウウウウウウット、イッショ。
了




