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箱の中から聞こえる音《夏のホラー2026参加作品》

掲載日:2026/07/02

「あんたが、なんで、ひぃばあばに呼ばれたんか、わかるか?」

――― 私だけ、箱から音が聞こえたから!


「そうや。ひぃばあばには、子どもと孫、ひ孫を集めて23人もおるのに、音が聞こえたんは、ひ孫のあんただけ」

――― みんな、なぁんにも聞こえなかったって! 私だけ、聞こえたんだよ⁉


「そやなぁ、すごいなぁ。あんたのお母ぁなんか、昔はよぉ聞こえる子やったんえ? 小さい頃なんて、この家に泊まったら、怖い怖いと泣いとったもんやのになぁ。大人になったら耳が悪ぅなってもうたんかもなぁ」

――― ママ、耳は普通だよ?


「せやなぁ。普通のモノを聞きすぎたんやなぁ、きっと。せやさかい、あんたもこの箱の音を忘れたらあかんえ? 毎日聞くんえ? この箱に耳をつけて、毎朝聞くんや。わかったな?」

――― ひぃばあばは、もう聞かないの?


「ひぃばあばは、もうすぐ、なあんも聞こえんようになるさかいなぁ」

――― そうなの?


「ああ、そうや。さすがに生きすぎたわ。さあ、箱に耳をつけてみぃ? なにが聞こえる?」

――― くぅくぅ、言ってる。寝てるみたい。


「そや。いつもは寝てはるんや。その音が聞こえてるんなら大丈夫や。中にちゃんとお(・)る(・)」

――― おる? いるってこと?


「うん。だから、毎日、この箱に耳をつけて確認するねんやで? おるかどうか」

――― なにがいるの?


「この箱の中にいるものか? それはな、先見ができはるねん」

―― さきみ、ってなに?


「うーん。なんちゅうたらええんか。未来がわかるねん」

――― 未来? すごい!


「そうや。すごいんや。だからな、遠くからたくさんの人が、仰山(ぎょうさん)のお金をもってあんたんところに来るやろう。自分の未来を見てくれ、っちゅうてな。誰の話を受けて、誰の話を断るかは、あんたのお母さんとお父さんに伝えてある。あんたは、自分のところに来た人の話を、その箱にしたらええ」

――― 箱に? どうやって。


「そのまんまや。例えば、あんたんところに来た相談者が『会社を立ち上げたんやけど、この先どないでっしゃろ』って言うとするわな? ほんなら、あんたはその箱を膝の上に載せて、『○○さんと言う人が尋ねてます。この人の会社、未来はどうなりますやろ?』って尋ねたらええ」

――― そしたら、箱が教えてくれるの? 会社の未来を?


「せや。箱、というか。箱の中のものがな?」

――― ねぇねぇ! だったら私も尋ねてみていい?


「尋ねてもええけど、それなりのモノをとるで、その箱の中のものは」

――― どゆこと?


「お代が高いねん」

――― え、無料《ただ》じゃないの? 


「タダやあらへん」

――― えー……。だって、これから私、この箱のお世話するんでしょ? それなのに、私の未来とか、知りたいことは教えてくれないんだ。


「ほほほ。あんた、意外に強欲やな。まあ、ほなら試しに聞いてみたらどうや?」

――― いいの⁉ じゃあ、私、将来パティシエになれるかどうか聞いてみようかな!


「ええけど、その答えを聞いたら、きっとあんたは事故か病気になって、指の2本ほど持っていかれるやろな」

――― ……え?


「それぐらいの対価がいる、っちゅうこっちゃ。だけど、指2本なんて、そうそうやれへんやろ? だから大概の相談者は、カネで済ませる。『未来を教えてほしい。これぐらいの金額でどうでっしゃろ』いうてな」

――― ………。


「ほんで、箱の中のものが未来を告げたら、相談者からもらったお代でお供えを買うたってな。箱の中のもののために。お供えには、どんなもんがええかは、お母さんに伝えとる。くれぐれもケチったらあかんで」

――― ケチったらどうなるの……?


「足りん分は、あんたの腕や足を持っていくやろ」

――― ……やっぱり私、こんなことしない。箱、いらない。


「怖がることはあらへん。あんたが、ちゃあんとしたらええことや」

――― やだ。お母さんと帰る。おうちに帰る。


「そないなこともうでけへんわ。あんたのお母さんとお父さんは請け負うてもた」

――― ……。


「ほならひとつ、練習ついでに、このひぃばあばが、箱のなかのものに聞いてみちゃろうな。そやな。そしたら……。あんたがパテシエいうんかいな? それに成れるかどうか聞いたろ」

――― ……いいの?


「ええで。そしたら、ほら、箱を膝に載せな。そうや。ほんで、聞いてみて。ひぃばあばが尋ねてます。ひ孫はパテシエいうのになれますか、ってな?」

――― えーっと。じゃあ、ひぃばあばが尋ねてます。私はパティシエになれますか?


「箱に耳をつけてみ?」

――― うん! ……なんか聞こえる……? え、なんで? 人の声がする。


「よぅお、聞いてみ」

――― ……う、うん。……あ! なれるって! やった!


「ほおか。よかったな」

――― うん! あああああ!!!! ひいばあば!!!!! 指!!!!!


「うん? ああ、ほんまやな。二本、折れてもうてるな……。あいたた」

――― なんで⁉ なんでそんな!!!!!


「なんでって……。あんたの願いを聞いたからやないの」

―――………。


「ほな、今日からひぃばあばの代わりに箱をよろしゅうな。ひぃばあば、病院行ってくるわ」

――― やだ!!!! こんな箱、やだ!!!! 怖い!!!!


「そんなん言うたかて、もうその箱の持ち主は、あんたに代わってもうたからなぁ」

――― いや!!!! やらない!!!!


「ほなら、聞いてみ? 箱に」

――― な……なにを?


「私は、箱から逃げられますかぁ、って」

――― ………。


「ひぃばあばが尋ねたろ。ほれ、箱に耳をつけてみ?」

――― やだ!!!!


「あんたは、箱から逃げられますか?」

――― やだって!!!!!


「ほら、聞いてみ?」

――― ………。



ニ ゲ ラ レ ナ イ



――― いやああああああああ!!!!!

「あほやなぁ、箱を叩きつけたかて壊れるかいな。あいたた。今度は、右手の指、二本折れたわ」


――― やだやだやだやだ!!!!!!

「その代わり、あんたの家は一生裕福で災難にもあわん。ひぃばあばは、その箱のおかげで姫路大空襲も逃げられたし、阪神淡路大震災の火の海かて逃げてきた。カネにもこまってへんし、この年になっても病気ひとつしとらん。ボケてもないわ。まあ、心臓がもうあかんけどな。これは老化やからしゃあないわ」


――― こんなの知らない! 捨てるし、燃やす! 壊す!

「捨てても戻って来るし、焼いても燃えへん。壊せへんし、流れへん。それはなぁ、もうずっと持ち主のそばにおんねん。さて、ちょっとぉ、来てやぁ。もう話は終わったさかい」


――― ママ、パパ! 私、やだ!!! こんなの捨てて!

「申し訳ないけど、誰ぞ病院に連れてってんか。指がこないなってもうてな」


――― やだ!!!! いや!!!! なんでパパもママもそんなこと言うの! ぜんぜんすごいことでもいいことでもないんだよ⁉

「あいたたた、どっこいしょ。ほなら、病院行こかいな」


――― いやだって!!!!! パパもママも聞いて!!!! 

「診察券と……せやわ。最近はマイナンバーっちゅうのがいるんやわ。よしこさん、それもお願いな?」


――― やだって!!!!! ひぃばあば!!!!!

「なんやいな、やかましな。ひぃばあばかて、指が痛いねんで?」


――― この箱のなかにはなにが入ってんの!!!!!

「箱の中? ああ、こら。そんなに力いっぱい爪たてたら……。ああ、もう。ほら……」


――― 痛い! 爪が……!

「そりゃ、爪も剥がれるわな。誰か、手当したって。あ、そうか。ひぃばあばと一緒に病院行こか。ほな、よしこさん、車、車。あんたらも乗るやろ? よしこさん、大きいほうの車な? 軽やとあかんわ」


――― なかになにがいるの!!!!!

「箱の中? さあなあ。ご先祖さんが、大戦中に神戸でもらってきたもんらしいわ」


――― ……大戦って?

「第二次世界大戦やがな。最近の小学校はそんなことも教えへんのか?」


――― 第二次世界大戦中になにをもらったの⁉

「当時な、流行ったんや。ほれ、最近かて流行ったやろ?」


――― なにが!!!

「コロナんときや」


――― コロナ……?

「みんな、よってたかってアホうみたいに、絵を飾ってたやろ。人魚みたいなやつや」


――― アマビエ……?

「そや、それそれ。それと一緒でな、大戦とき、未来を告げるいうて、流行ったねん。まあ、特高が来てえらい騒ぎになったけどなぁ。え? よしこさん、特高しらんのかいな。ちゃうがな、その特攻やあらへん。警察やがな。そりゃまあ、そや。日本が負けるぅ、言うて予言するんやからたまったもんやあらへんわな」


――― ……予言。

「なんでもな、普通は、予言を告げたら死んでまうらしいねん、そ(・)れ(・)はな。けど。うちのは、箱の中に入れて誰にも姿を見せずにしてるから、ずううううううっと生きるねんて」


――― ずううううううっと……?

「せや、ずううううううっと、や」


――― ……。

「耳つけて、聞いてみ?


――― ………。



ズウウウウウウット、イッショ。




了


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