3.タバコ系ヒロイン
「おーい奏汰、今から外に行くぞ」
東野と昼ごはんを食べて家に戻り、適当に過ごしていると、父さんに家から引っ張り出される。
「こんな時間にどこ行くの?」
現在の時刻は夜の八時、春とはいえ外はかなり暗い。
「今、ターゲットが一人で外出中なんだ。奏汰には偶然を装って接触してもらう」
「そんなストーカーみたいな」
「常に街中の監視カメラで監視しているからな、ストーカーより性質が悪い」
父さんに冗談を冗談よりも酷い現実で返され、言葉を失う。
ここまでされる神野に同情する気持ちが強くなる。
神野の動きに対応しやすいように河川敷を歩いていく。
マンション地帯の広場のようになっている場所の先は、不法投棄や壁への落書きがあり、怖い雰囲気になる。
そんなことを考えていると父さんにワイヤレスイヤホンを渡され、片耳に一つ着け、一人で指示通りに歩き始める。
住宅街を抜けると浅い川が流れる道に出る。
木製の柵に沿って歩いていると、そろそろ神野が向かいから歩いてくるらしい。
「入学初日から、こんな偶然があるわけ――」
俺がそう呟いたその瞬間、視界が回転して身体を打ち付ける衝撃に襲われる。
それは柔道部で経験したものと似ていて、息苦しさから逃れるために、大きく息を吸おうとするが、吸えずに口の中に冷たい液体が侵入してくる。
一瞬何が起きたか理解できなかったが、次第に水中にいることを理解する。
水深が深いわけではないので、足を地面に着こうとするが動けない。
意を決して瞳をあけると、透明なスライムのようなものが身体中に纏わりついているのが分かる。
そしてそのスライムには瞳があり、悪意まみれの視線を受ける。
反射的に身体が硬直して、動けなくなる。
「トライデント」
水面に黒い人影と紅の瞳が映ったかと思うと、三つの穂を持った槍が勢いよく水を裂いていく。
水圧や水面に当たった衝撃による減速は一切見られずに、俺からスライムを引き離す。
そして教室で見た機械の手が俺を水中から引き上げる。
「私と間違えたのかしらって……七ノ瀬君?」
どこか遠くを見つめた神野は俺に気づくのが遅れる。そして状況が理解できなかったのか、フリーズする。
俺も半泣きで神野の前に座り込んでいる現実が理解できずフリーズする。
「えっと、その……ご愁傷様」
神野はいたたまれない様子でそう口にする。そしてスライムの方に視線を向ける。
「さて、あなたは何者かしら。正直に言えば命ぐらいは保証してあげるわ」
「なんだお前は、離せ!」
「流動体だから痛覚がないのかしら?口のきき方がなってないわね」
神野がそう言うとスライムに刺さった槍が真っ赤になる。
そしてジュー、という焼ける音が鳴ると、スライムは悲痛な声を上げる。
俺は人の悲鳴なんて聞いたことがなく、いくら自分を襲った相手とはいえ聞くに堪えない。
「……配慮が足りてなかったわね」
神野はそう呟くと透明の容器を造り出し、その中にスライムを入れる。
「そいつどうするの?」
「悪いようにはしないわ、少しお仕置きした後警察にでも渡すつもりよ」
神野のお仕置きがどんなものがは知らないが、殺したりなどの過度なことはしなさそうに感じた。
「さて、七ノ瀬君はどうしてこんな場所に?」
「手持ち無沙汰だったから散歩に来てたんだ」
俺はとって付けたような理由を口にする。
「あまり感心しないわね、こんな時間に人が少ない場所を歩くのわ」
「今までこんなことなくて」
「そうなの?七ノ瀬君の能力なら狙われてもおかしくないと思うけれど」
俺は神野の言葉にどんな返答をしていいか分からずにフリーズする。そもそも能力が違うし、何かの事件に巻き込まれたことはない。
「ごめんなさい、揚げ足だったわ」
神野はそう言うと大きなドライヤーを造りだすと、俺に向けて暖かい風を放つ。すると一瞬の内に服や髪が乾く。
「ありがとう神野、何から何まで」
「気にしないでちょうだい、私が巻き込んでしまったのだし」
俺は神野の言葉の意味が分からずに首をかしげる。俺が勝手に襲われただけではないのだろうか?
「最近この付近で何者かに襲われる事件が起きてたの。被害にあった人は水に濡れた状態で発見されてたの。それに水中に引きずり込まれたという証言がほとんどだったの」
「なるほど、おとり調査をしてたってとか」
俺がそう言うと神野は頷いて肯定する。とても日本を滅ぼす人間の行動とは思えずに、好感度がうなぎ登りだ。
「凄いね神野、他の人の安全を守るために動いてて」
「そうかしら?力を持っている人は他人の為に使うのが当然じゃないかしら」
「いや、当然じゃないと思うけど」
俺は会話をする時は否定から入らないように心がけているが、思わず否定から入ってしまった。
「その心は?」
「だって奉仕は義務じゃないでしょ。それにこんな事したって神野にメリットなんてないし」
「その考えは素敵だわ。みんなが持ってくれたらいいのだけれど」
奉仕という言葉は堅苦しい言い方なだけで、手伝いや手助けと同じだ。
誰しも周りと手を取り合って生きているため、奉仕は必要不可欠だ。
ただ一方的な奉仕は搾取になる。与えられることは当たり前ではなく、それ相応の対価を支払うべきだ。
「そうね、せっかく助けたのだから、七ノ瀬君には散歩に付き合ってもらおうかしら」
「俺でよければ」
神野は俺の隣に立って歩き出す。仮に助けられていなくとも断ってはいない。
「今日は厄日だったわね、クラスでも外でも」
「確かに厄日だ。でも両方とも神野に助けられてるからなんとかなってるよ。ありかとね」
「それはよかったわ。入学初日から虐げられるのは可哀想だもの」
神野は少し同情したような顔でそう口にする。
「まあ、一方的に情報を知られるのはいい気がしないし、仕方ないんだけどね」
「それは……違うんじゃないかしら」
「違うって?」
「確かに七ノ瀬君の言う通り、一方的に情報を知られるのが嫌なのもあると思うわ。ただ本当に知りたかったのは七ノ瀬君がどこまで知れるかよ。能力の色まで分かる索敵能力は、私が知る限り七ノ瀬君が初めてだもの」
「そうだったんだ」
「能力の色が分かるのって結構重要なの、同系統なら波長の大きい色の方が勝つもの。だからみんな能力は口にしても、案外ハレニウムの色までは言わない方が多いわ」
もちろん戦略と言った要素もあるが、単純な力の差があるだけで有利になる。
それが分かるだけで他の人からしたら嫌なことだ、不用意に色を口にしない方が身のためだな。
「恐らく誰もが七ノ瀬君の自己紹介を聞いた時、最初は嘘をついていると思ったの、でも虹色のあの光を見て疑う人はいなくなったと思うわ」
神野はそう言うと真剣な眼差しを俺に向ける。
「ただ私には別の疑念が生じたの、七ノ瀬君の能力は本当に〈情報家〉なのか?ってね」
俺は神野の言葉に酷く動揺する。俺の本当の能力がバレたのだろうか?
そんな疑問で表情を崩す俺に対して、神野は優しく笑いかける。
「勘違いしないでちょうだい、疑うわけでも強引に聞き出そうとしてるわけじゃないの。ただ期待しているのよ、私が今まで見たことのある中で最も美しい虹色のハレニウムを持った七ノ瀬君に」
「期待って?」
「……刺激が足りないの。私にとってこの世界は退屈すぎるもの」
言葉だけを切り取れば嫌味に聞こえるが、神野の儚い表情と声からは嫌味に感じなかった。それどころか少し同情してしまう。
「基本的に能力の出力はハレニウムの輝きの強さによって決まるの。でも虹色だけは例外で輝きの美しさで決まるの」
「そうだったんだ」
「クラスは違うけれど、一年生にはもう一人だけ虹色のハレニウムを持った藤原唯紗って女の子がいるの。能力は〈神殺し〉て言って、神を相手にする時にだけ無類の強さを発揮する能力。そして〈神殺し〉は私に対して効果を発揮するの、久しぶりに背筋が凍ったわ」
神野は懐かしい記憶を思い出すようにそう口にする。藤原は神野にとって数少ないまともに戦える相手ということだろう。
「ごめんなさい自分の話ばかりして、要するに私は逃げも隠れもしないってことが言いたかったの」
この言い方からして神野は俺の能力が〈情報家〉ではないことを確信しているようだ。
いや、神野の喉元にナイフを突き付けられるような、強い能力であることを望んでいるのかもしれない。
どんな思惑があるにしろ、神野が俺の能力を暴こうとはしないことに安心する。
「……我ながら痛い発言をしたわ」
神野は恥ずかしそうに頭を押さえてそう呟くが、俺には痛い発言だとは思えない、説得力を持った自信の満ちた表情と伴う実力があるからだ。
ただその事を伝えるのは神野が望むことではなさそうだ。
「そういうお年頃だしね」
「もう高校生なのよ、卒業してていい年齢だわ」
確かに中二病とあるように痛い発言や行動は中学までにしておきたいものだ。
「さて、私はこれを処理しないといけないから。気を付けて帰ってちょうだい」
「ありがとう、わざわざ送ってくれて。じゃあまた明日、学校で」
俺が頭を下げてそう言うと、神野は優しく微笑んで手を振ってくれる。
神野に連れられた場所は大きく開けた場所で、駅が近くショッピングセンターがたくさんある場所だった。
土地勘の無い俺にはここがどこか分からず、スマホを取り出して調べようと思ったが、水没したせいで壊れてしまったのか電源がつかない。
しょうがなく改札の目の前にある地図を見ると河川敷の位置が分かる。
神野の忠告を無視してしまうことになるが、家に帰るには河川敷を通らないと帰れる自信がなかった。
俺は重い足取りで歩き始めると河川敷につく、行きとは異なり一人で歩く河川敷は不気味で、誰もいない長い道は異世界に迷い込んだような感覚になる。
俺は自然と早歩きになり、いつの間にか不法投棄や壁への落書きが目立つ場所につく。
「キィーン!」
突然俺の近くで金属が擦りあうような音が鳴る。普段の生活では聞かない音に周囲を警戒する。
腕を上げて柔道の構えをとり、目線で周囲を見ると視界の右側が少し明るくなる。
どうやら坂の部分を降りたところに人がいるようで、俺は息を殺して人影を確認する。
そこにはジッポライターでタバコに火を付けている女の人がいた。
ジッポライターの淡い光が、女の子の顔を照らす。
吸いなれているらしく、色気のある表情をしていて一瞬誰か分からなかった。
だがすぐに誰か理解する。女の子から吐き出された白い息が、小さい兵士の形になったからだ。
「……東雲?」
「七ノ瀬君!?」
あまり大きな声を出したつもりはなかったが気づかれたらしく、東雲は驚いた声を上げる。
俺も見てはいけないものを見た罪悪感でフリーズする。
俺は地獄のような気まずい雰囲気に逃げ出したくなる。
「あの、これは本物のタバコではないんです!」
焦った東雲が弁明をしようとしているので俺は坂を下って東雲の前に立つ。
東雲は人差し指と中指でタバコ?を挟んでいる。印象が清楚だったのと、教室で俺のことを庇ってくれた優しい少女だったのでギャップが凄い。
「これはタバコのような形をしているだけで、有害な成分も香りも付いてないんです。ただ火をつけることで空気を作るんです」
東雲はそう言うとケースの中からもう一つタバコを取り出し、俺に差し出す。
「どうしてそんな物を吸ってるの?」
「それは能力の補助のためです。私の肺活量では限界があるので、これを使うことで実力以上の出力が出せるんです」
東雲の説明は十分な妥当性があり、俺も素直に感心する。
ただタバコのような形状である必要も、普通のライターではなくジッポライターなんて使う必要はない。
「まあ、こういうのに憧れる気持ちは分かるよ」
俺は東雲から受け取ったフィルターの部分がないタバコを見ながらそう口にする。
すると東雲は顔を赤くして下を向く。図星だったらしく凄く恥ずかしそうだ。
俺は見てはいけない東雲の秘密を見ているようで、変な気分になる。
東雲のように人差し指と中指でタバコを掴んでみる。
この動きだけで悪いことをしている気分になって、テンションが上がる。
東雲がどうしてタバコの形状にしたのか共感し、顔を上げると、ポケットにしまっていたジッポライターを取り出した東雲がいる。
東雲がジッポライターを取り出した意図を理解した俺は、人差し指と中指で挟んでいたタバコを咥える。
そして差し出すように少しかがむと、東雲は片手で素早くジッポライターの火をつけ、俺の咥えたタバコに火を灯す。俺のタバコに火をつけている時の東雲は、凄く目を輝かせ、楽しそうなのが印象的だった。
タバコに火がつくと勢いよく煙が口の中に入ってくる。俺にとって口の中に煙が溜まる感覚が初めてだったのですぐさま白い息を吐く。
「有害じゃないですよね?」
「そうだね。無味無臭でただの空気だ」
俺は実際に吸ってみた感想を口にする。タバコ特有の嫌な匂いや風味でむせることもなかった。
「分かってもらえて安心しました。七ノ瀬君に不良少女だと思われたままだったら嫌ですからね」
東雲はそう言って一度タバコを咥え、ひと吸いすると落書きまみれの壁面に白い息を吹きかける。
すると白い息は雑巾を手にした兵士に変わり、落書きまみれのの壁面を綺麗に掃除する。
「東雲はどうして河川敷の掃除を?しかもこんな時間に」
「私は先の方にある広場の近くに住んでいて、よく遊んでいたんです。その恩返しとボランティア部の活動の一環として、定期的に河川敷の清掃をしているんです。それと、夜遅くの方がダークヒーローみたいでかっこいいですから」
東雲は少し恥ずかしそうにそう答える。
暗躍すると言ったら言い過ぎだが、一人で誰にも知られず何かをするのは高揚するものがある。
ただ東雲という優しそうで純真な少女がやっているという点が重要だ。
俺は東雲に対してどこか高潔なイメージを抱いていたが、一気に話しやすくなった。
「七ノ瀬君はどうしてここに?」
「散歩の帰りで通りかかったんだ」
「私が言うのも説得力がないですが、もう少し人気があるところをオススメします。この辺りはお世辞にも治安がいいとは言えないので」
東雲は諭すようさにそう口にする。俺も襲われたばかりなので身にしみる。
「七ノ瀬君は今から帰るところですよね、よかったら一緒に帰りませんか?」
嬉しい誘いに俺は二つ返事で承諾すると、東雲は嬉しそうに微笑む。
そして一度タバコを吸い込むと、白い馬車を造り、廃品を乗せる。
「それ、どうするの?」
「洗浄を済ませたので、あとは河川敷を管理している方にお渡しします」
東雲が言うには河川敷の管理をしている組織と協力しており、後処理の部分を担ってくれているらしい。
「七ノ瀬君、よかったら川辺の近くを歩きませんか?」
東雲の提案に俺は疑問を抱く。
河川敷は津波を防ぐように川辺から坂が作られている。そのため坂の上が舗装されていて川辺はかなり荒れた道になっている。
普通なら好んで通るような道ではないが、東雲が通りたい理由に心当たりが一つある。
ただその問題は解決しているため、川辺を歩く必要はない。
「……すみません変な提案をして、整備もされてませんし通るべきではないですね」
俺が東雲に水中に襲われる事件は解決したことを伝えるか迷っている表情が困っているように見えたらしい。
拒否するつもりはなかったので俺は急いで口を開く。
「いや、川辺を通ろうか」
俺がそう答えると東雲は少し申し訳なさそうな顔をする。気を遣わせたと捉えたのだろう。
「吸ってるところを他の人に見られるわけにはいかないしね」
「ふふ、それもそうですね」
東雲は嬉しそうに笑うと俺の隣に立つと歩き始める。
「そうだ、教室のことお礼を言いたかったんだ。ありがとう東雲」
「いえいえ、私が勝手にやったことですので。気にしないでください」
「東雲があの水晶を止めてくれたから、俺は自分の意思で水晶に触れることが出来たんだ。それだけは伝えておきたかったんだ」
「お役に立てたならよかったです」
東雲は恥ずかしそうにそう口にする。俺も真っ直ぐに伝えすぎたことを自覚して、恥ずかしくなる。
お互いに顔を背ける気まずい時間が流れるが、すぐに東雲が口を開く。
「可能なら七ノ瀬君には相澤君を悪く思わないでほしいです。嫌なことを積極的にしてくれる人なんです」
「俺は相澤に苦手意識はないよ、クラスでも言ったけど必要なことだったと思う。それに周りから相澤に向けられてた視線も、好意的なものだったしね」
仮に悪意を持って文句を言ってくるような人だったら、相澤は白い目を向けられただろう。
「それならよかったです。せっかく同じクラスになれたんですから、仲良くしてほしいので」
東雲は印象通りのいい子で、心が温まる感覚がある
「俺の家そこなんだ」
「そうでしたか、ではここまでですね」
東雲はそう言うと優しく微笑んで手を振る。俺も手を振り返すと言いたかったことを思い出す。
「そうだ、俺でよかったらいくらでも話聞くから。一服でもしながらさ」
俺が軽い感じでそう言うと東雲は嬉しそうに笑う。その表情が眩しくて目が眩む。
「ふふ、その時はよろしくお願いします七ノ瀬君」
言いたい事を言えた俺は東雲に背を向けて歩き始める。そして吸い終えに近いタバコもどきを再び咥えて無理矢理を普通のものにする。
何かを咥えていないと口角が上がることが分かりきっている。
「ちょっと……可愛いすぎだな」
元々雰囲気と顔が可愛いのは分かっていたが、タバコのようなものに憧れていたり苦労人の側面などで色んな表情があって見てて楽しい。
それに最後に見せた満面の笑顔があまりにも魅力的だ。
「ふー、日彗学院に入学してよかっ――」
俺がタバコの煙を吐き出して喜びを口にしたところで父さんと目が合う。
東雲と別れてから二分も経過しておらず、河川敷を出るタイミングで人気もない。だからタバコを咥えていたのだが、よりにもよって一番見られたくない男に見られてしまった。
「お前、どうしたらこの短時間でこうなるんだ!こっちがどれだけ心配したと思っている!」
夜遅いにもかかわらず父さんは聞いたことが無いほどの大声で叫ぶ。
確かに父さんからしたら息子との通信が切れた挙句、タバコを咥えて帰ってきたら怒りたくもなるだろうが、怒られても困る。
「大丈夫、無害なものだから」
俺はとりあえずそう言ってタバコを手渡す。父さんは受け取るの燃えている部分と、煙の匂いを嗅いで無害なことを確認する。
「まあいい、こんなことより怪我はないか?」
「それは大丈夫」
俺はそう言うと神野に助けられたことと、東雲に会ったことを話す。
「展開だけなら仕込みかと思った」
「そんなことはしていない。水中に引きずり込むのは危険な行為だ」
もちろん俺は仕込みじゃないことは知っている。あのスライムが向けた悪意は本物だった。
「もう少し考えないとだな。すまなかった奏汰」
「いや、今回のは事故みたいなものだから気にしなくていいよ」
誰もスライムに襲われるなんて思わないし、強いて言えば水辺で誰かが襲われる事件が起こっていることを共有しておくべきだったが、神野の動きが分からなければ机上の空論だ。
結果的にはいい方向に転んだことだし反省する必要はない。
「とりあえず帰るか」
「そうだね」
紆余曲折あったが長い入学初日が終わった。




