2.自己紹介
「行ってきます」
入学する日になった俺は制服を着て家を出る。日彗学院の近くに引っ越したのでゆっくり寝ることが出来る。
スマホの地図を頼りに登校し、校門を通る。入り口に立っている先生からクラスが書いてある紙を受け取り、自分のクラスを確認する。同時にターゲットの名前があることを確認してから体育館に向かう。
入学式でいろんな人の話を聞いた後クラスへと向かう。
俺のクラスは一組で、窓側の列の一番後ろの席だ。学校の席において一番当たりの席だろう。
俺はクラスに入って席に座る。そしてクラスを見渡すとある程度グループが出来ていることが分かる。
明らかに今日出会った雰囲気ではなく内部進学であることが察せられ、俺のように高校入学と同時に入学した生徒は肩身が狭い。
席に座って一人でクラスを見渡した感想はそれだった。
「やっぱり内部進学組はグループが出来てるよなー」
目の前の席に座っている、黄色の髪をした中性的な顔立ちの生徒がそう言って俺の方を向く。
「俺、高校から日彗学院に入ってきた東野直樹って言うんだ。よろしくな」
俺に人懐っこい笑顔を向ける東野はそう言って自己紹介をする。
一目見ただけでは男か女か分からなかったが、一人称と喋り方から男であることが分かる。
「俺も高校から入学した七ノ瀬奏汰。よろしく東野」
「お、奇遇だな。仲良くしような七ノ瀬」
俺は流れるように差し出された東野の手を取る。コミュ強とは東野のような人のことを言うのだろう。
「七ノ瀬は何かスポーツやってたのか?ガタイがいいけど」
「中学は柔道部に入ってたからかな。東野は中学時代は何か部活やってた?」
「俺は何もやってなかったな。勉強と研修で手いっぱいだったんだ」
東野は嫌なことを思い出すように悲しそうな顔をする。俺も気持ちが分かる。
「だから高校では何か部活に入ろうと思うんだ。七ノ瀬は柔道を続けるつもりなのか?」
「うーん、迷ってるかな。あまりガチなのは肌に合わない気がしてて」
柔道が嫌いなわけじゃないが、誰かと競い合う為に努力することがあまり好きではない。勉強のように己の能力を上げる努力の方が好きだ。
小学校の頃にやっていた空手のように型を極めるような、自分の技を磨くものがやりたいという気持ちが強い。
「気持ちは分かるな。俺も楽しくワイワイやって青春を取り戻したい!」
東野は力強く拳を握ると力強い口調でそう言う。もはや哀愁すら感じる。
「……引いたか?」
「いや、俺も高校ではモテて青春したいし」
「分かる!」
男たるものモテたくないわけがないだろう。任務関係なく俺もモテたい。
俺は力強く同意した東野を見て、やっぱり男なんだと確信する。
「その観点で見れば日彗学院のレベルは高いと思わないか?まず目に行くのはあの子だ」
東野が視線を向けた先には複数の男女のグループの中にいる、ザ清楚といった少女だった。
他と比較してスカートの丈は長いし、常に笑顔で愛想がいい。小麦色の少し癖毛になっている長い髪と白色の肌、そして可愛らしい顔立ちが非常に魅力的に思う。
「あんな清純な子、俺の住んでた町じゃ絶対に存在しないからな」
「確かに、いいところの生まれって感じだ」
品のよさや余裕がある雰囲気といい一般人とは異なる。しかもそれはクラス全体に言えることで、中学との違いに驚く気持ちが強い。
「他にはあの子とか――」
東野が視線を動かして口を開いた瞬間、騒がしかったクラスが突然静かになる。
突然場が白けたような雰囲気に思わず東野が黙り込む。
そしてクラス中の視線が集められた教室の入り口を見る。
「おお、これまた綺麗な人が」
東野の言葉に俺も思わず頷いていた。写真で見ていたが実物を見るのは今日が初めてだった。
教室に現れたのは俺が惚れさせないといけない少女だった。
少女はクラス中から向けられた視線を、微塵も気にする素振りも見せずに僕の隣に座る。
俺は一瞬東野の方を見ると、話しかけるのを躊躇っているのが分かった。
「おはよう、俺は――」
「よーし、みんな揃ったかな?それじゃあ、ホームルームを始めるよー」
俺は最初が肝心だと、話しかけたタイミングで先生が入ってきて中途半端になる。
俺はから回った感じになり、顔が熱くなる。
普通に振る舞っているが、俺はかなり自信を振り絞って話しかけただけに死にたくなる。
「ふふ、おはよう。少しタイミングが悪かったわね」
俺がフリーズしていると、ターゲットの少女は優しく微笑んで挨拶を返してくれる。
将来日本を滅ぼすと言われているだけに、キツイ性格かと思ったが違うらしい。
正直、優しくフォローしつつ挨拶を返してくれただけで惚れそうだ。
「よーし、早速だけどみんなには自己紹介をしてもらうね。まずは担任である私から、今年から日彗学院に勤務することになった、一年一組の担任になった柴葉琴音です。能力は〈分身〉で個人個人を教えることが得意です。好きなことは陸上です。一年間よろしくね!」
紫葉先生はうり二つの分身を三人作って自己紹介をする。
かなり若い先生で活発さを感じさせ、生徒からのうけもいい。
実際に年齢は二十五歳である。加えて分身体は最大で十個まで作れる。
俺がこの情報を知っているのは紫葉先生が警察側の人間であるからだ。
「次はみんなに自己紹介してもらうね。うーん、一番前の席から始めるのもありきたりだし、ここはあえて反対からやろうか」
紫葉先生は打ち合わせどうりに僕を最初に指名する。
周りから同情の視線を向けられたが気にしない。こうなるのは決まっていた。
「今年から日彗学院に入学した、十六夜春汰です。能力は〈情報家〉って言って、いろんな人の名前や能力、そしてハレニウムの色を知ることができます」
俺がそう言うとクラスから驚いたような声が出る。
すると一人の女子生徒が声を上げる。後ろに結んだポニーテールが特徴な生徒だ。
「それじゃあさ、私の名前とか分かるの?」
「もちろん、名前は小野寺咲で能力は〈転身〉でしょ?」
「お、大正解!いい能力だねー」
小野寺の〈転身〉は触れた対象の身体に乗り移ることができる能力だ。ハレニウムの色は黄色だ。
もちろん俺の能力は〈情報家〉ではない、前もって生徒全員の名前と能力を覚えただけにすぎない。
正直間違えそうで怖かったが、言い当てられて安心する。
「あとは、スポーツ全般が好きです。一年間よろしくお願いします」
掴みとしては悪くなかったようで大きな拍手を向けられる。
そして次は東野の番になる。
「俺も今年から日彗学院に入った東野直樹で、能力は〈細胞操作〉で怪我を治すことができ能力だ」
東野が能力を言うと主に女子の視線が変わる。それは回復に特化した能力に由来したものだ。
回復系の能力は珍しく医者の卵として将来が安定している。
そう言う意味なら有望株というやつだ。
「高校ではたくさん遊ぶつもりなので、みんな仲良くしてください」
東野の自己紹介が終わり、しばらくすると俺の隣の席まで順番が回る。
「私の名前は神野颯希で、能力は〈神の創造〉。一年間よろしくお願いします」
ターゲットである神野は端的に自己紹介を終える。そして神野を最強たらしめるのが〈神の創造〉だ。
神器と呼ばれる武器を創造して行使する能力で、絡め手も力押しの両方が可能。そして何本もの神器が創造可能という理不尽性能だ。
神野が浮いた存在になっているのは嫉妬の側面が強いからだろう。
それから俺は自己紹介を聞きながら、記憶の中の名前と能力を一致させながら記憶の定着を図る。
クラスが決まったもは入学の二週間前だった。その期間ではクラスの情報を覚えるのが限界だった。
この先ボロを出さない為に他クラスの人の情報も覚えないといけないので、今のうちに同じクラスの生徒を覚えないといけない。
しばらくするとザ清楚の子である東雲奏の番になる。
「私の名前は東雲奏って言います。能力は〈天使の伊吹〉と言って息を吹くことで回復だったり、いろんなものを作れます。私は人の役に立つことが好きなので、何か困ったことがあったら是非相談してください」
東雲はそう言って自己紹介を終える。可愛らしい少女だがどこか説得力がある。
それは彼女が黄金の能力だからである。一年生全体でも黄金の能力を持ったのは18人しかいない。
中学時代の情報では神野の神器三つなら勝てる実力の持ち主らしい。
「よーし、みんな自己紹介を終えたことだし、今日はここまでにします」
柴葉先生はそう言ってホームルームを行い、今日は解散となった。
「なあ七ノ瀬、せっかく昼前に終わったんだしどっか昼ご飯でも――」
「おーい七ノ瀬!パス」
俺は不意に声をかけられ振り向くと、占いで使われるような水晶が山なりに投げられる。俺は両手で包むように受け取ろうとしたが、水晶は空中で静止する。
よく見ると透明な手が水晶を掴んでいる。
「突然その水晶を渡すのは違うと思いますよ相澤君」
声の主に視線を向けると片手を伸ばした東雲がいた。
「みんなも気になることだろ、〈情報家〉がどこまでの出力なのか」
相澤はみんなに問いかけるようにそう口にする。俺も周りを見てみるが否定的な表情をした人はいなかった。
確かにどこまで能力の詳細を知られているのかは気になることだろう。
つまりこの水晶は能力を診断する類のものだ。俺が触れて大丈夫なのか怪しいところだ。
「考えはどうあれ、こんな人の多いところでするべきではないです」
「こうした方が手っ取り早――」
相澤が手っ取り早いと言い終わる前に水晶が黄金色に光る。あまりに眩しい光に教室中の全員が目を伏せる。
しばらくすると水晶を元の位置に戻した神野が口を開く。
「この水晶は能力者のハレニウムに反応して、その色に光るの。そして能力者の出力に応じて光の強さが異なるの」
神野はそう言って機械の手を造りだすと水晶を東雲の前に差し出す。水晶に触れろ、という意図を察した東雲はそれに触れる。
すると神野と同様に黄金に光るが、距離の遠い俺は直視出来る光度だった。
「こんな風に触れただけで能力の強さが分かるの。それと、一方的に情報を開示させるのはフェアではないでしょう」
神野はそう言って水晶を相澤の前に差し出す。
名前を聞く時はまずは自分から名乗れってやつだ。
「どうせ七ノ瀬には分かってるだろ」
「それは分からないでしょう。それに誠意って大事なのよ」
「おっけー、分かった」
相澤は観念したように両手を挙げると水晶に触れる。水晶は赤色になり東雲と同じぐらいの輝きを見せる。
ちなみに俺に共有されている情報は相澤が赤色の能力で〈脳の活性化〉という能力であることだ。能力の出力までは知らない。
〈脳の活性化〉は五感の強化ができ、肉体を強化したり探知したりと多彩らしい。
「こんな水晶あったんだ」
「子供の頃に能力の登録をするために、市役所で触れていると思うわ」
「そんな記憶があるような、ないような」
「子供の頃の記憶なんてそんなものよ」
神野はそう言って俺の前に水晶を差し出す。
「強制はしないけど、どうする?」
「元々隠すつもりはなかったんだ」
本当の能力以外隠す指示は出ていない。だから俺はそう言って水晶を手に取る。
すると水晶は虹色に輝きだす。その光は能力が発現した夜に見た、目に焼き付いた輝きと同じだった。
「……綺麗」
小さくそう呟いたのは神野で、近くにいた俺には聞こえ、視線を向けると逸らされる。
「虹色か、でもこの輝きってどうなんだ?」
「出力だけなら普通ぐらいね。そこまで詳細な情報が分かるわけではないと思うわ」
神野がそう言うと相澤は納得したように頷く。
「悪かったな七ノ瀬、晒し者にして」
「大丈夫、必要なことだったと思うし」
俺がそう言ったことでちょっとした問題は解決した。俺が水晶を相澤に返している間に、クラスは帰る支度を始める。
さっきまでの険悪な雰囲気が消えてから俺は席に戻る。
「悪いな東野、途中で遮って」
「大丈夫だ、それよりこの後昼ご飯でも行かないか?」
「うん、行こう」
俺は東野の誘いを承諾して教室を出る。せっかく誘ってもらったのに断るは違うし、初日から神野にガツガツ行くのも気持ちが悪いだろう。
それから日彗学院を出て、近くのレストランに入る。
「入学初日から絡まれて災難だったな」
「しょうがないよ、一方的に知られるのは気持ちのいいものじゃない」
「まあ、そうかもな。ちなみにどこまで情報が分かるんだ?」
「名前と能力とハレニウムの色が分かって、あとは能力の使い方が少し分かるぐらいだね」
俺がそう説明すると東野は眉をひそめる。
「じゃあ、俺のハレニウムの色も知ってるのか」
「黄金色でしょ?」
俺がそう言うと東野は控えめに頷く。その表情からは誇ったり自慢するような気配はなく、むしろ卑下するような雰囲気がある。
あまり能力について触れない方がいい気がする。
「まあ、強い能力って大変だよね」
「大変ってより、利用されるの方が正しくないか?」
「あ、うん、そうだね」
東野が共感を求める口調だったので俺も共感を示す。よくよく考えれば俺も能力を利用されている、と考えられるので理解が出来る。
それに〈情報家〉だったら警察側の人間に使われてもおかしくはないだろう。
「そんなことはどうでもよくてだな、七ノ瀬は何か部活に入るつもりなのか?」
「うん入るつもりだよ」
「何に入るか決めてるのか?」
「いや、全く。そもそもどんな部活があるかも知らないや」
「なら調べるか」
東野はそう言ってスマホで日彗学院のホームページを開き、部活動紹介を見せる。
スポーツ全般の部活は全てあり、かるたや囲碁といった文化部も豊富だ。
「ボランティア部なんてあるのか」
他と比べて浮いているボランティア部に少し目が惹かれる。
「確かに珍しいよなボランティア部なんて」
ボランティア部なんて一般的な高校には存在しないだろう。
詳細が気になり説明文を読んでみると、学校行事への協力や生徒間の問題の解決に加え、地域のゴミ掃除といった普通のボランティアもある。
「部活にしてまでやりたいとは思わないな」
「……そうだね」
興味があったが俺も東野の言葉に同意し別の部活を調べる。すると武道の欄になり、柔道や空手、少林寺拳法といったものまで存在する。
「相手と友達になる武道」
東野は合気道部のキャッチコピーを興味深めに呟く。元々武道は殺人の為の技術をスポーツとして落とし込んだものが多い。
実際に俺が素人相手に柔道の技をかければ、受け身がとれず怪我で済まない可能性が高い。
だからこそ相手を無力化することに特化した合気道は特異的だと言える。
「興味あるのか?」
「元々武道に興味あったんだ。でもガチすぎたら始めにくいしさ」
確かに高校の部活で初心者だと始めずらい気持ちは理解できる。
だが合気道なら経験のある人間の方が少ないだろう。
そういう意味では始めやすいように思う。
「確か部活動体験があったし行ってみるか。七ノ瀬もどうだ?」
「俺も気になるし一緒に行くか」
俺達が合気道部に部活動体験しに行く約束をしたところで、注文した料理が届く。
料理を食べながら他愛のない話をして解散となった。




