化石海水温泉
若い男女がたむろするレジャーホテルのロビーを赤面しながら通り抜け、名ばかりの仮眠室に帰還。
来賓用の客室に帰るとメイドロボットがお出迎え。
『お帰りなさいませ。ご主人様』ササナミさんの声だ。
「ササナミさん、ただいま。どうしたの?」
『サービスしないとなーと思って』
「いやいや、そういうのは大丈夫ですから」
ササナミさんをあしらって、服を着替える。。
「温泉に入る。ベイブも一緒に来る? 恋人は一緒に入浴するって聞いた」
アステルがとんでもないことを口走る。
「ぼ、僕はいいよ。あとで入るから」
「そう、分かった」アステルが浴室に入っていく。
『まだ坊やなのね』ササナミさんにからかわれる。
アステルの入浴風景を思い浮かべ、あわてて首を振る。
「銃の整備でもしよう……」
そうつぶやき、銃の分解を始める。使わなくても定期的に整備しろと、アルから申しつけられているのだ。
その後、日課の基礎訓練を行っていると、ほのかに上気したアステルが温泉からあがってきた。
「いいお湯だった」
『大深度地下の帯水層からくみ上げた化石海水温泉なの。お肌すべすべよー』
「そういえばシガ・シェルターの名産に天然塩がありましたよね?」」
『ジーンちゃん、詳しー。化石海水から製塩してシガのシオってブランドで世界中に売りさばいてるわよ』
ササナミさん、商売上手だ。
「僕も入ってくるね」とリビングをあとにする。
浴室のドアを開けると長い廊下だった。首を傾げながら進むと大きな脱衣室。なるほど、レストルームの奥に広がっているんだ。
服を脱ぎ浴室へ。湯煙越しに広い浴槽が見える。木製の湯舟だ。これは贅沢。
十人は入れそうな大きな湯舟にゆっくりと体を沈める。
「はあ……」思わず声が漏れる。
手のひらに湯をすくい舌先を当てる。しょっぱい。本当に海水みたいだ。
調査課の訓練で長距離潜航艇に搭乗したことを思い出す。
搭乗前の課程に水深三メートルでの素潜り訓練があるが、嫌になるほど冷たい海水を飲むはめになった。海水の味が心身に焼き付けられたといっていい。
そんな暗い思い出にひたりつつも、体を芯から温める温泉を堪能する。
アステルはどんな風に感じたのかなと想像しながら。
気がつけば、いつもアステルのことばかり考えている。
思えば、最初に会ったときからアステルに目を奪われていた。
「彼女は人間じゃない」知っている。
「彼女は触れるべきではない超越種族だ」それも知っている。
それでも、それでも。彼女に惹かれてしまったのだ。
今後どうなるかなんて欠片も想像できない。
体を癒す温かな海水に未練を感じつつ……仮眠を取らないとこのあとの作戦に差し支える。
温泉から上がり下着を身に着けようとして……あれ、包装されたパッケージがある?
新しい下着だ。ササナミさんが用意してくれたのかな。
服を身に着けリビングに戻ると「ササナミさん、新しい下着をありがとう」と伝えてみる。
『いえいえ、どういたしましてー』
やっぱり。ササナミさんが新しい下着を用意してくれていたんだ。
「いいお湯でした。本当に海水なんですね」
『長い年月で変化してるけど太古の海水ですよー。やばい成分は除去してるから大丈夫!』
あまり聞きたくない情報をスルーして、アステルに話しかける。
「三時間ほど仮眠を取るけどアステルも眠る?」
「寝なくても平気なはずだけど体のパフォーマンスが上がるみたい。寝る」
「というわけで僕たちは仮眠するね。三時間後に起こしてください」
『承りー』
ササナミさんの軽い返事にうなずいて、僕たちはそれぞれの寝室に入っていくのだった。
毎日23時に更新しています。
知人から一話が短いとの指摘。
そうだろーなーと思いつつも、私の能力だと一日に書ける量はこれが精々ですね。校正も必要だし。
読んでくださってる方、短くて申し訳ない。





