教祖ザルヴァ
「どうする?」
天井裏の消火機構に近づきながらアステルに問う。
「あいつに多分ガスは効かない。我が対処する」
「分かった。僕は残りを拘束する」
消火機構の散布システムに無力化ガスを充填。ササナミさんから教わった裏コマンドをシステムに入力。
火災時に、燃焼を抑制するガスを散布するシステムが作動する。
室内に音もなく無力化ガスが散布される。
選択的に筋肉への信号を阻害し、真面に行動できなくするノワールさん特製のガスだ。
這いつくばってもがく三十人余りの聴講者。
二人同時に天井パネルを突き破り集会所に降り立つ。
アステルは演壇に向かう。僕は聴講者の拘束だ。
ガスの効果が薄れる前に一人ずつケーブルタイで拘束する必要がある。
後ろ手に組ませて両手首、両膝、両足首を縛る。横向きに転がして呼吸を確保。一人目の拘束が完了。
効果時間に余裕はあるが、手際よく進めないと……。
アステルの方を見ると、バトンを左手に構えてザルヴァと対峙していた。やはりガスが効いていない。
そのとき、演台の下から灰色の甲虫が現れる。
金星L4のレーザー中継ステーションで見た奴だ。護衛につけているのか。
甲虫が床をえぐる勢いで跳躍する。アステルに突っ込むつもりだ。
アステルは左足を一歩前に半身に構える。
甲虫が激突する寸前、バトンが正確に甲虫の重心を突く。
アステルはそのままバトンを払い、受け流す。くるりと体を回して右手で甲虫の背中に軽く触れる。跳躍の勢いのまま甲虫は後方の壁に激突。動かない。
「馬鹿な。避けるだと……」ザルヴァが言う。
「……」対するアステルは無言。
ザルヴァは腰に手を回し短いロッドを取り出す。
一振りして一メートルくらいに伸ばすと、先端が青白いスパークに包まれる。
護身用って雰囲気じゃない。アルが使っていたパルスロッドより凶悪な感じがする。
アステルは凶悪なロッドに怯むことなく、たたっと軽快な足取りで踏み込む。
ザルヴァがロッドを突きつける。アステルが逆手に持ったバトンを合わせる。
スパークが止まる。
「む……」ザルヴァがうなる。
ザルヴァはロッドを小刻みに揺らしアステルを牽制。何度か手元のスイッチを操作しているがスパークは消えたままだ。
「何をした?」
アステルは無言でバトンを叩き込む。ザルヴァがロッドで受ける。
ロッドを大きく振り、アステルから距離を取ったザルヴァが、懐から鈍く光る何かを取り出して投てき。スローイングナイフだ。
向かってきたそれをアステルは二本の指で受けとめ、すかさず投げ返す。
投げ返されたナイフが肩に刺さるが、ザルヴァは血を流さない。
アステルの言ったとおりロボットなのだろう。人間にしか見えないが。
肉薄するアステル。ロッドを構え待ち受けるザルヴァ。
アステルは達人のような動きでザルヴァを翻弄するが、人間を超えた挙動は見せない。
しかし、不利を悟ったザルヴァは正体を現す。
膝関節が逆方向に曲がり尋常ならざる加速で飛び上がる。
空中で体をひねり天井に着地。天井パネルが割れるが、躯体構造にぶつかったか、突き抜けることなく戸惑っている。脱出を図ったのか。
脱出を断念したザルヴァは、床に向けもう一度跳ねる。そこにはアステルの頭部がある。
アステルめがけてロッドを振り下ろすも、軽々とバトンで受け止めるアステルに驚愕。
「く、貴様、戦闘用サイボーグか?」
ザルヴァが的外れなことを言っている。シェルター法で一般人が扱えるサイボーグ機材は、出力が制限されている。
アルはCS特例で機械狼のボディを入手できたに過ぎない。
人間を超える力を持つサイボーグ体の所持は違法だ。
つまり終末の審判者やハブ・ジャッカーのような違法組織以外は持っていない。
「違う」
すれ違いざまにザルヴァの首筋にそっと触ったアステルが言う。
ザルヴァは崩れ落ちた。
文体を少し修正(2026/04/10)





