中央公園
二人して雛琵琶の威容に見とれていると、首元のスピーカーから声がする。
超指向性スピーカーなので周りに音は漏れないはず。誰もいないけれどね。
『地上に着いたー? まずは中央ブロックに向かうといいかな。街の雰囲気を楽しんでね』
中央ブロック。シガ・シェルターの中心街区だ。雛琵琶の北に位置する。シガ・シェルターは瓢箪型のシェルターで、北に居住区画、南には雛琵琶が存在を主張している。
目標の、終末の審問官の拠点は北ブロックにある。深夜帯での侵入を考えているので、時間まで中央ブロックを散策するのもありかな。
「分かった。中央ブロックをまわってみるよ」
『それなら中央公園のクレープ屋さんがおすすめよ。ここは絶対外しちゃダメ』
「少しなら食事も可能。クレープ食べたい」
「食べられるようになったんだ。一緒に行けるね!」
「がんばった」
「ベイブ、トラムに乗ろう」
アステルの手を引いて、中央ブロック行きのトラム乗り場に向かう。
僕たちは今、市街地潜入用の都市型迷彩服を着用している。
そう、僕たちの年ごろの少年少女がデートに着ていくような服だ。
今のシガ・シェルターは晩秋設定。秋の夕暮れ時。
僕が着ているのは、スエード風のパーカーと、テーパードパンツにショートブーツ。黒いチョーカーには、さりげなく猫の肉球が刻印されている。
アステルは、フリルブラウスにカーディガン。白いタイツにミニスカート。足元はロングブーツを合わせている。首元にはお揃いのチョーカー。アステルのはただのアクセサリーだ。
二人とも青系統のコーディネートでまとめている。
地球に向かっている間にエトナさんが選んでくれた。
『シガ・シェルターで人気のブランドの製品です。メーカーにはササナミが代金を支払うので安心してちょうだい』
いかがです? とエトナさんに服を見せられて僕とアステルは大喜び。さっそく跳躍艇で複製を作ってもらう。アステルの分もだ。
最近、アステルは人体の構成に注力していて、外見を変えるとそれが解けると嫌がっていた。
もちろん、最初に着ていた、星空模様が美しい濃紺のワンピースも複製した。
折よくトラムが到着したので車両に乗り込む。
ここはターミナルらしく誰も乗っていない。中央辺りの座席に掛け、出発を待つ。
『シガ・シェルターの足、琵琶トラムにようこそ。この車両は貸し切りです。出発するよー。次は中央公園に止まりまーす』
ササナミさんの声。手厚いサポートだ。……でもやり過ぎじゃないかな。
車内アナウンスに苦笑しながら風景を眺める。
トラムの軌道の横には広い遊歩道。居住区画に続く紅葉に染まる並木道だ。
『メタセコイアの並木道よ。この季節に端末で散歩するのが好き。住民は慣れたものよ。一緒に写真を撮ろうと待ち構えている子もいるわね』
散歩するメイドロボット。一緒に写真を撮ろうと待ち構える住民。ノーザンエンドにも介助ロボットはいるけれど、溶け込みすぎな気がするな。
しばらくすると居住区画に入ったようだ。一気に人通りが多くなる。
『エンデミックが終わって日常が戻ってきたわねー。来週にはスペースプレーンも帰ってくるし、きっとお祭り騒ぎなるわよ』
「お祭り……」
アステルが興味を示した。
「ノーザンエンドにも大きいのがあるよ。大規模セツルメント建設記念日」
「見たい」
「帰ったらコハクさんに相談してみようか」
「うん」
『はーい、中央公園に到着したよ。深夜まで時間を潰すんでしょ? 他にも案内するわよ』
「だ、大丈夫です。二人で見て回ります……」
僕たちは遊びに来たわけじゃない。観光もほどほどにしよう。
トラムを降りて、ササナミさんおすすめのクレープ屋に向かう。
首にかけていたゴーグルを装着。周りにも同じタイプの薄型ゴーグルを着けている人が目につく。
左腕の携帯コンソールを操作すると、クレープ屋の位置が表示される。右前方だ。
「こっちだよ」
手を伸ばすとアステルが僕の手を握ってくる。温かい。
クレープ屋の前には行列ができていた。移動販売車だ。シガ・シェルターに来て初めて自動車を見た気がする。十人以上並んでいる。
「人気のある店なんだね」
「並ぶ」
列に並んで順番を待つ。大きく表示されたメニューを、アステルがじっと見つめている。
「何が食べたい?」
「チョコバナナ……白玉あずきクレープも捨てがたい」
「じゃあ、両方頼んで分けあって食べようか」
「そうする」
僕たちの順番がまわってきた。
「何にするかい?」
白い調理着の大男が聞いてくる。まるでアーカイブのシロクマだ。
「チョコバナナと白玉あずき」アステルが答える。
「あいよ。坊ちゃん、可愛い彼女がいてうらやましいねえ」
シロクマさんにからかわれる。
「ありがとう、おじさん。どこで食べたらいいの?」
「お、余所から来たのかい? その辺のベンチで食べたらいいよ。ごみはそこに入れてくれ」とダストボックスを指し示す。
シロクマのおじさんが手早く鉄板でクレープを焼くと、トッピング台に移してホイップを絞る。具材を乗せてくるりと巻くと完成だ。包装紙をぽんとはめて手渡される。
「お待ちどう。ここに端末をタッチしておくれ」
腕のコンソールを「タップ・トゥ・ペイ」と表示されたパネルにタッチ。
爽やかな支払完了のチャイムが鳴る。
「ありがとう、いただきます」
すぐそばの二人掛けのベンチに座って、二人してクレープをほおばる。結構大きい。
「どう?」
「初めての食事。美味しい」
「こっちも食べてみて」
アステルに白玉あずきを差し出す。
「ベイブもこれを食べる」
アステルがチョコバナナを僕の口元に。
「美味しいね」
シロクマさんと目が合うとサムズアップされた。
僕も同じジェスチャーを返しながら微笑む。





