表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年と宇宙  作者: 津本ジオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/93

ヨハンとの決着

「ヨハン、やる気みたいだよ」

「絶対殺すと言ってた」

「僕は殺せても、ベイブは絶対に死なないよ」

「ベイブは死なせない。私が守る」

「ありがとう……」

ハッチを監視しながら雑談を交わす。アステルが守ってくれるなら安心だ。でも、心がざわつくのはなぜだろう。

「アルが言ってた。ベイブを死なせるな。でも、ぎりぎりまで手を貸すなって」

言いそう……。アルは厳しい。訓練や実戦で僕を甘やかしたことは一度もない。


気の抜けた会話に緊張感が無いと言われそうだが、それは違うとアルは語る。

戦闘の合間に、バディ(相棒)と雑談をするのは重要だと。

バディの精神状態を把握し、ハイパーアラウザル(過覚醒)に陥るのを防ぐためだ。

怒りに飲まれた今のヨハンのように。そうならないための軽口だ。

ヨハン、お前はバディに恵まれなかったな。


「来る」アステルがささやく。

ハッチから二頭の機械狼が同時に飛び出す。

同時に複数のターゲットが現れたときは、上、もしくは左を狙う取り決めだ。今回は上の奴が僕の相手だ。

外壁を蹴って浮かび上がる。スラスターは意識的に作動させない。

無反動銃を構える。狙うは機械狼のバックパック。腕を振ったことでモーメントが発生。体が回転運動を始めるが、そのままバックパックをなぞるように銃を動かす。

照準があった瞬間ダブルタップ。バックパックの側面にきれいな二つの穴が開く。

あとはスラスターにまかせて反動を吸収すればいい。


「目標の後ろにもう一頭」アステルの切迫した声。


行動不能になった機械狼の背後から漆黒の機械狼が顔を出す。ヨハンか!

『死にさらせ!』ヨハンが叫ぶ。

ヨハンは動けない機械狼に接近。全力でキック。反動でヨハンは遠ざかる。蹴られた機械狼が僕に迫る。衝突コース。

機械狼のアクティブ迷彩がネオングリーンに変わる。警告色だ。脚を振ってモーメントを与えようとしている。衝突時の被害を減らすためだ。

アルが言っていた「ウルフパックは人間を攻撃できない」は本当だった。

スラスターに緊急回避を指示。避ける方向は右だ。

高Gで体がつぶれそうだ。でも避けることができた。


「まだ!」

アステルが叫んだ瞬間、僕はスラスターを停止。理由は……分からない。

ハブ・ジャッカーのアイス・プレーンを倒したときと一緒だ。

こうするのが最適だと思った。


背後に腕を回すとスタッフ(長杖)に触れる。

握りこむとマウントから外れる。ベクトルを計算して杖を振る。与えられたモーメントで機械狼が正面に。もう手が届きそうな距離に感じる。


でも、衝突コースからは外れている。アステル、なぜ?

その瞬間、機械狼からバックパックが分離。銃弾がロック機構を破壊したのか?

激しく振っていた機械の脚がバックパックに接触。

機械狼は大きく針路を変えるが、蛍光色のバックパックがゆるやかに回転しながら眼前に迫る。


意識が切り替わった。澄んだ水のような心持ち。

バックパックがスローモーションで近づいてくる。

キネティック体術。セレス流柔術の根底にあるもの。

自身の動きを精密に制御し相手を制する技術。


僕の生みの親、マルグリット・クロケットは杖術の達人だったと聞く。

スタッフ一本で一トンの鉄塊をさばいた逸話がある。どういう状況だったかは怖くて聞けなかったが……。

バックパックの質量は約三十キロ。速度は秒速二十メートルくらいか。スタッフが折れなくても僕の腕が耐えられない。

スタッフを斜めに構える。狙うは一点。全身をロック。最大出力でスラスターを作動。全速で後退。視界が赤く染まる。耐えろ。


バックパックがスタッフに接触。狙いどおりの場所だ。衝撃に襲われる。意識が飛びそうだ。

装甲服の外骨格が悲鳴を上げる。手首からスパーク。減圧警報が鳴り響く。

回転しようとする体をスラスターで強引に抑えこむ。

スタッフをすべるようにバックパックのベクトルが変わる。


長い長い一瞬のあと、重なった二つの軌道が離れる。上手くいったようだ。

手首が締め付けられ減圧警報が鳴りやむ。


宇宙を流されながら、ぼんやりと星を眺めていると、後ろから優しく抱きとめられた。

「おつかれさま、ジーン」

アステルの声がした。優しい響き。


愛称ではなく名前を呼んでくれたことが、たまらなく嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激動への序章 ~来訪者~

激動への序章 ~来訪者~

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ