補給ステーションの攻防、再び 1
壁に位置情報が投影される。スペースプレーンとウルフパック、金星L4施設群、そして跳躍艇だ。
「ウルフパック……アルの同類の登場かい。跳躍艇を不可視状態に。あちらさんの出方を見ようかね」
コハクさんが状況を見ながら宣言。
ひとまず、襲撃者を静観。皆で位置情報表示を見ながら動きを待つ。
「最初から不可視にしないのはなぜ?」気になったらしいアステルの質問。
「三百年前に地球人に見破られたことがあるのですよ」
「太陽プラズマ観測網に見つかったんだよ」
三百年前の太陽系事変。最初の攻撃でエッジ観測ステーションを失い、転移反応を観測できなくなった。
そのとき活躍したのが、太陽プラズマ観測網。太陽を精密観測するための設備が、見えない転移物体を発見したのだ。
「太陽プラズマ観測網には対策済みですが、エボルターの発想力は侮れません。見えない何かの存在を知られるのは極力避けたいです」
きっと僕も、何も事情を知らずに見えない宇宙機を発見したら、夢中になって解明しようとするだろう。
「まあ、エボルターには干渉しないのが一番だけどねえ。関わったからにはそうもいかなくてね。難儀なもんさ」
「私は甘くみていた。もう失敗したくない」
アステルが沈んだ声でつぶやく。最近、ますます人間らしくなった。
「エトナさんがウルフパックを知っているのはお父さんの記憶?」
空気を変えようと別の話題を振る。
今のエトナさんは、僕の両親にストレージされた記憶を統合して自我を再構築した。そのため、二人の記憶も持っている。
アルによれば、お父さんは調査員のリーダーとして、ウルフパックにも詳しかったようだ。
ヴェリテに接続されていた間、三人はどんな関係だったのだろう。
『仰るとおりナルヴィの記憶です。ちなみに三人の関係は、ヴェリテの強制力に抗う戦友のような間柄でしたよ』
僕ってそんなに顔に出ているのかな? よく心を読まれる気がする。
「ジーンは機械知性とあまり話したことはありませんね」ノワールさんが正鵠を射る。
「そうだな。機械知性との接触はまだ早いと判断した」
たしかにアルから、機械知性と対話するのは自分の意思を確立してからにしろと言われていた。
「機械知性のEXLLMは曲者だ。無意識に肯定してしまう。気づいている者は少ないがな」
『申し訳ありません、ジーン。親密になった相手の考えを予想してしまうのです。顔に出ているわけではありませんよ』
「いや、僕は気にしないよ。ああ、そういうことか」
僕はエトナさんに心を読まれることに抵抗を感じない。エトナさんは僕が嫌がらないことを知って、もっと仲良くなろうとしているんだ。
「共存相手との親密な関係を望むのは機械知性の本能のようなものです」
『長らく過酷な環境にいましたからね。ナルヴィとアリスに早く再会したいです。その息子のジーンにも興味がわいてしまって……』
「エトナさん、僕は平気だよ。お父さんやお母さんの雰囲気に少し似てるから。ちょっと懐かしい」
『二人はジーンのことをいつも気にしていましたよ。そしてキースがいるから心配ないとも』
「二人の信頼に応えられたか不安だ……」アルの消え入りそうな声。
僕がハブ・ジャッカーを殺したことだろうか……。
「奴らが動くみたいだよ」
コハクさんがしんみりした空気を振り払うように言った。
位置表示を見ると六頭の機械狼が補給ステーションを囲んでいる。
「スペースプレーンと通信していますね。ふむ、終末の審問官の暗号ですか。地球の文明レベルを超えています」
「解読できるんだろう? 流してくれないかい」
『ヨハン、突入しろ』
『うっせえよ、おっさん。命令すんな!』
「発信源を特定。通称おっさんがスペースプレーン。口の悪いヨハンがアルファです」
「アルファは思考機械じゃないのか?」
『ササナミの捜査資料から、行方不明の少年と言動データが一致。スタイロメトリー分析を応用しました』
「エッジロードの子? 生きてたんだね!」
口封じのために殺されたと思っていた。でも生きてさえいればやり直せるはずだ。
終末の審問官なんかに利用されるだけの人生なんて悲しすぎる。
「俺と同じサイボーグということだな。シガ・シェルターの技術者が関与しているのか」
「アルの脳保護システムを設計した彼ですか?」
「断定はできんが可能性はあるな」
「アル、あんたが戦闘に出るのは禁止だよ。身元がバレちまう」
「私も駄目ですね。宇宙を駆ける黒猫は地球人には刺激が強すぎます」
「じゃあ、僕とアステルが行く?」
「そうなるね。ノワール、大急ぎでアステルの簡易装甲服を作ってくれないかい。ジーンのも地球の技術レベルに調整しておくれ」





