過去との対峙 4
護衛隊長権限で、輸送隊の警護についている《ウルフパック》を呼び寄せる。
『警護の犬どもが消えたぞ。どうなっている!?』輸送隊長から即座にクレームが入る。
「即刻撤退しろ。相手が悪すぎる。こちらは時間稼ぎをする」そう告げて通信を切る。
時間稼ぎと言ったがここで決着をつける。あんなものを野放しにはできない。
特殊戦闘車両を民間人が操縦できるわけがない。確実に兵士上がりだ。
つまり、同じシェルター軍の元同胞だ。
幸いにも、センチネルは自律兵器ではない。設計当時、自分の意思で「人を狩る」機械が許される時代ではなかったのだ。
センチネルの操縦者との知恵比べの始まりだ。
しばらくすると、六頭の機械狼がやってきた。
ウルフパックは狼を模した戦闘機械の集団だ。隊長機であるアルファが群れを率いている。
表向きは要人警護用の自律機械とされているが、これも方便というやつで、実際は群れによる狩りのスペシャリストでもある。
ウルフパックは、万能自動工場《豊穣の角》のデータベースに設計データがアーカイヴされていた。
今では、世界各地のシェルター防衛の要として重用されている。
俺はバンコク・シェルターから借り受けて護衛隊を編成している。
護衛を要請された傭兵の基本的なメソッドの一つだ。
狙うは透明セラミックの透過装甲。
ウルフパックの鋭い爪でも浅く傷がつく程度だが、中にいる操縦者にとってはたまったものではない。
ダイヤモンドの爪がセラミックの窓を引っ掻く甲高い音と猛烈な振動、目前で牙を剥く機械狼の凶相、真面な人間なら必ずパニックに陥る。
ウルフパックに作戦開始を指示すると、アルファの体表が赤色の警告色に変化、続いてほかの機械狼たちは無光沢の白色に。氷原ではアルファ以外視認できなくなる。
アルファが、ランダムに方向を変えつつセンチネルに接近する。
氷上装甲車の、赤外線センサーやレーダーではその姿を捉えきれない。
かろうじてライダーが断続的に位置を拾う。
ウルフパックは、アルファが敵の目を引いている間に五方向から包囲する戦術のようだ。
ようやくセンチネルがアルファに気づいた。
アルファを狙って、ファラリスが火を噴く。
だが、弾道はアルファを追いきれていない。モンキーモデルだけに偏差射撃のソフトウェアもデチューンされているようだ。
氷原で小馬鹿にするようにステップを踏むアルファに敵の意識が集中。
その隙に一斉に機械狼たちがセンチネルとの距離を詰める。
センチネルのコックピットに殺到する機械狼の群れ。いつのまにか威圧的なダークグレーに体色を変えている。
五百メートルほど離れたこの位置でも、透過装甲を引っ掻く異音が響いてくる。
堪りかねて、でたらめな回避行動を始めたセンチネルからウルフパックは冷静に飛びのき、隙を見てはコクピットへの攻撃を繰り返す。いつのまにか他の機械狼たちに混じって、ダークグレーに変色したアルファも攻撃に参加している。
頃合いだな。
対装甲用のハードポイント弾を大口径狙撃銃に装填する。透明セラミックなど造作もなく抜ける。
上部ハッチを跳ね上げ上体を乗り出す。
マイナス三十度の冷気に晒されるが、耐寒スーツを着ているおかげで問題はない。狙撃銃も極寒地対応の特注品だ。
XRバイザーを通して、ウルフパックを振り払おうと四脚を伸縮させて悪戦苦闘するセンチネルが見える。
狙撃銃を架台にセット、制御ソフトを起動、中距離射撃が選択される。
無人偵察車と氷上装甲車のセンシングデータを統合して、センチネルのコックピットの正確な座標をセット。
腕の力を抜くと銃身が標的の追尾を始める。
ウルフパックに合図を送ると一斉に別方向に向かって散る。
突然に撤退を始めたウルフパックに動揺したのかセンチネルの動きが一瞬止まる。
その刹那、祈るようにトリガーを絞った。
静かに眠れよ……。
コメンデッド・ソルジャーとして、元同胞を断罪するのではなく、ただの雇われ兵として敵兵と戦った。
そう思いたいからこそ、他のCSたちも傭兵を名乗っているのかもしれない。
訂正。
同じ地球連邦軍→同じシェルター軍





