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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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金星L4に来たる者

市街地戦闘訓練を続けること五日。

ようやくアステルを「ベイブ」と呼ぶことに慣れてきたところだ。

訓練は日ごとに厳しさが増し、迅速な判断を求められる状況が増えてきた。

僕がチームリーダーとして判断を下しているが、アステルがやった方が断然いいと思う。

一度、そのことをアルに話したことがある。

「侵略者との戦いは地球人の問題だ。アステルにせよコハクにせよ善意の協力者にすぎない。重要な局面に立ったとき、アステルに判断を丸投げしてジーンは平気なのか?」

たしかにアルの言うとおりだ。地球人である僕の判断が必要な場面もあるかもしれない。

「それにな、判断を間違えたのなら他の道筋を探せばいい。それが訓練だ」


一方、ノワールさんの超小型シャトルは、シガ・シェルターから奪取されたスペースプレーンの追跡を続けていた。無人で動かしているそうだ。

レイテンシ(遅延)が大きくて大変だとぼやいていた。

そして、やはりスペースプレーンの目的地は金星L4で間違いないようだ。

「スペースプレーンの真横にべったり張り付いて監視しています。今は、最終減速フェイズです」

「そろそろ出発するかい?」

「頃合いだな」

『シガ・シェルターのエンデミックも終息宣言がなされました。ハイジャック事件が解決すれば、ササナミも一安心でしょう』


出発の前に、アルと連れ立って重力下訓練施設に向かう。

「セレスから撤収する。原状回復を頼む。世話になったな」アルが補助ユニットに礼を言う。

『了解。使用区画の原状回復を実行』

模擬街区の撤去が始まる。小型作業ロボットがわらわらとやって来た。

手際よく、躯体(くたい)から外装パネルを外していく。取り外されたパネルは非常に軽い。僕も試しに持ってみたが、低重力のセレスでは、片手で巨大なパネルを持てるほどだった。空気抵抗の方が厄介だ。


模擬区画の解体で騒がしい中、僕はアルから銃の仕組みを教わっていた。

銃の分解と結合を何回もやらされて、うんざりしてきたころに、模擬街区は消滅した。

たった数時間で、毎日訓練に使っていた街が無くなるなんて……ちょっと寂しい。


アルと一緒に跳躍艇に戻ると、コハクさんとアステルが待っていた。

「おかえり。片付いたかい?」

「ああ、きれいさっぱりな」

「シガ・シェルターの市街データは(せつ)が消したよ」

「模擬街区は残しておいてもよかったんじゃ?」

ちょっとセンチメンタルな気分だったので問いかけた。

「気持ちは分かりますが、痕跡は残さない方がいいでしょう」

ノワールさんが跳躍艇に帰ってきた。どこに行っていたんだろう?


「そうだな。レーザー中継ステーションに潜入するような連中だ。今のセレスの状態では危険だろう」

「補助ユニットには最近の出来事を忘れてもらいました。これで、我々がここにいた痕跡は無くなりました」

なるほど。補助ユニットの記憶を消しに行っていたんだ。感傷的なことを言った僕が甘かった。

「変なことを言ってごめん。理解したよ」

「分かればいい」

「それじゃ、出発するとしようかね」

コハクさんの一言で跳躍艇は発進する。


跳躍艇は、ローレンツ因子の影響が顕著な速度で飛ぶ。

二十分ほどで金星L4に到着したが、僕の体感時間は十分程度だ。応用学校で習ったけれど実際に体験すると不思議な気分がする。

「補給ステーションを盾にしましょう」

ノワールさんの提案で、補給ステーションの一基をスペースプレーンとの間に挟むように移動。

エアプレーンも盾にしている補給ステーションに向かっているようだ。

「この距離だとほぼリアルタイムでシャトルをコントールできます。探りをいれますか?」

「いや、受動的に待ち受けよう。どんな手を使ってくるか気になる」

「今、スペースプレーンから何かが放出されました。長径一・五メートルほどです。それが六基」

「形状は分からないのか?」

「アルのアクティブ迷彩に似ていますね。受動感知では捉えきれません」

『アクティブ迷彩。一・五メートル。六基。これは……』

「ええ、標準構成のウルフパック(狼の群れ)部隊ですね」

ノワールさんがアルを見つめながら言った。

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激動への序章 ~来訪者~

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