市街地戦闘訓練
シガ・シェルターで発生したエンデミック、およびハイジャック事件の報告から一夜が明けた。
今日から市街地戦闘訓練だ。
訓練時間が限られているので隠密・連携行動を主体に進めるとのことだ。
地球に降りたら、ササナミさんからの情報を頼りに、終末の審問官の隠れ家を捜索、教祖ザルヴァの居所を探る。それが作戦の骨子だ。
僕とアステルの市民データはササナミさんが発行してくれる。公式発行の偽造認証データなんて、まるで娯楽コンテンツに登場するスパイみたいだ。
僕たち二人には偽名が与えられたけれど「可能な限りお互いを偽名で呼ぶな。特にジーンは一発でバレる」
試しに偽名で呼び合ってみたら、やれやれとアルに首を振られた。
うーん、何て呼ぼうか。道すがらアステルに聞いてみよう。
「というわけなんだけど……」
「ティーンエージャーの恋人同士で名前を使わない呼び方……。シガ・シェルターではお互いにベイブと呼ぶのが一般的」
恋人同士! いや、そういう設定にしろと言われているから仕方がない。そう仕方がないのだ。
「じゃ、ベイブ」
「声に緊張感が出てる。やり直し」
アステルが手厳しい。
アステルと雑談を交わしながら重力下訓練施設に構築された模擬街区にやってきた。
相変わらずオフラインだと真っ白な建物だらけだ。
「時間どおりだな。これから市街地戦闘訓練を開始する。訓練環境オンライン」
アルの宣言で景色が変わる。夕暮れ時のシガ・シェルターだ。
「目標は八階、八二六号室。罠を警戒しつつ制圧・確保」
「了解」
「分かった」
「よし。スラスターの使用は慎重に。市民にコハクたちの科学技術を見られるのは避けたい。それでは状況開始」
アステルと二人で非常階段を上る。アステルが前だ。
「ベイブ、スラスターでアシスト。体力を温存して」
「アス……ベイブ、分かった」
「名前を呼んじゃだめ。呼び方に慣れて」
「分かったよ、ベイブ」
スラスターを目立たない程度に併用。脚の負担が減って楽になる。
『そうだ、お前はまだ体ができ上っていない。自分の体力を認識しろ。スラスターは不自然にならない程度に使え』
アルからの通信。しっかり見られている。
八階非常扉の前に到着。アステルからは待機の合図。
アステルがかがみ込んで階段の腰壁を見つめている。何かあるみたいだ。
「警報装置がある。無力化する」
そう言って、壁に指を当てると一瞬小さな閃光が走る。警報装置を無力化したのだろう。
アステルが非常扉を開く。
そこには椅子に座って居眠りしている男がいた。
アステルは迷いなく男に近づき首筋に触れる。その瞬間、男はぐったりと椅子に沈む。
しばらく様子を見ていたが「問題ない」と男を放置。廊下を進む。
「さっきの男には実体があった。人型ロボット」
ノワールさんが言っていた映像にロボットを混ぜるって奴だ。油断できない。
アステルがドアを蹴破って目標の部屋に突入。僕も続く。
「ステータス」
左側を見てアステルが小さく囁く。
僕は右側を確認、問題なし。アステルは今天井を見回している。僕は床とテーブルの下を確認する。
「クリア」
アステルが確認完了を宣言。
「クリア」
誰もいない。続けて僕も宣言した。安全確保。
テーブルの上にはキーボード。かなり古風なタイプだ。
近づくと3Dディスプレイが起動。「ready」と表示される。
アステルがキーボードを叩く。ログダンプのコマンドだ。
「最後に使われたのは二日前。データをダウンロードする」
「了解。データはササナミさんに送って」
「我も解析できる」
「いや、ササナミさんに任せよう。僕たちは次の指示を待つべきだと思う」
『ジーンの言うとおりだ。アステル、分担を忘れるな』
アルからだ。アステルが注意を受けるのは珍しい。
「了解。ベイブに従う」
『そこは外れだったな。一旦地上に戻れ。ジーン、下りはスラスターを使うな。挙動が不自然になる。七階以上からの移動はラペリングにしろ。階段だと脚に来るぞ』
「ラペリングだね。分かった」
窓の間の支柱にワイヤーを回す。ロック確認。ディセンダー作動。僕が降りる間、アステルは援護に回る。
三十メートルほど降下してグランドレベルに。ワイヤーを回収。
続いてアステルが降下開始。僕は援護に入る。
「二人とも地上に着いたよ」
アステルが地上に降りたところでアルに報告。
『次の目標は地下五階だ。座標を送る』
こんな感じで日々訓練は続いた。





