エンデミックとハイジャック
「これで当面の目標は決まったな」
「グローバル・ハーモニーの裏にいる終末の審問官?」
「そうなるだろうねえ。親玉の思考機械を探す糸口になるだろうよ」
シガ・シェルターにアステルと共に潜入。終末の審問官、教祖ザルヴァを確保する。そして、侵略者の思考機械がどこにあるか白状させる。責任重大だ。
『広域防衛網より警報。航宙プランにない宇宙機が地球大気圏を離脱。識別コードを確認。シガ・シェルターのスペースプレーンです』
僕が決意を新たにしていると、エトナさんが緊張をはらんだ声で告げる。
「緊急打ち上げか? そうだとしても航宙プランの提出は絶対の義務だ」
『ササナミから報告です。スペースプレーンがハイジャックされました。終末の審問官による犯行の可能性が高いそうです』
「シガ・シェルターのスペースプレーン施設から? あそこの警備は万全だったはずだ」
アルが言うならそのとおりだろう。アルはその施設でサイボーグ手術を受けたんだ。
『現在、シガ・シェルター全域でエンデミックが発生、初動対応に追われています。犯人グループは、先日の爆発事故の補修痕を爆破して侵入したそうです』
「やられたね。動きが早い」
『アドミニ・プラクティカムに参加していた少年も補修作業に従事していました。例のペイロードすり替えに関わった少年です。この作業を最後に行方不明になりました』
「重要な作戦への立て続けの起用。他の実行犯の情報は皆無。口を封じる前提で使っていたか」
「捜査をかく乱する囮にされたってこと?」
「たぶんな」
いくら、エッジロードでも、こんな扱いはひどいと思う。
ただ、背伸びしたかっただけの少年は、グローバル・ハーモニーに関わったせいで最悪の結末を迎えたのかもしれない。
「僕が地球を出発する前に起こった小さな爆発事故は、スペースプレーン奪取計画のため?」
「そう見るのが妥当だな。補修工事に紛れて爆発物でも仕込んだか」
『感染の発生源を特定したとの報告。雛琵琶、エネルギー循環システム、行政庁舎、そしてスペースプレーン関連施設です』
「スペースプレーン関連施設もか。エンデミックはハイジャックの陽動か。手の込んだことをやる」
『エンデミックによる犠牲者が出ました。スペースプレーン格納庫の作業員です。しかし、事態は沈静化に向かっています。グローバル・ハーモニーの健康飲料を調査していたことが功を奏しました』
「感染源の正体が分かったのかい?」
『いいえ、分かっているのは何らかのウイルスで引き起こされていることだけです。健康飲料の脂質ナノ粒子に含まれていたアミノ酸配列に、過去の抗ウイルス薬と酷似した配列があったことがヒントになりました』
「ほうほう。それは朗報ですね」
『豊穣の角のデータバンクに、該当の抗ウイルス薬の設計資料があったそうです』
「ヒロの仕業だね。本当に抜け目のない男だよ。それで効果はあったのかい?」
ヒロ・ヤマガタ元特技兵。僕の遺伝上の父親と同じ小隊にいた人。そして、MIジャンキー。
『ウイルスの増殖、拡散を抑制できたとのことです。シガ・シェルターは生物資源が豊富ですからね。原料には事欠きません。わずかな時間で量産できたとササナミが喜んでいました』
「ハイジャックされたスペースプレーンはどこに向かってるの?」
アステルの質問に、はっとなった。重要なことだ。
『現在の軌道から予測すると、金星L4レーザー中継ステーションを目指しているものと思われます。約一週間で到着します』
「フェイルノートが落ちないので焦ったのかもな」
「あの制御中枢は優秀。よく対抗している」
アステルの言うとおり、軌道維持は制御不能に陥ってしまったが、バックアップシステムからの攻撃にエラーを吐きながらもよく耐えていた。
「また、レーザー中継ステーションからフェイルノートを狙うのかな?」
「バックアップシステムには対策を施しました。再度クラッキングを受けても問題はありません」
「かといって野放しにはできない」
「迎え撃つかい?」
「そうだな。スペースプレーンの動向を厳重に監視。レーザー中継ステーションに到着する前に金星L4に移動して待ち受ける。それまではここで訓練を続ける」
「私の超小型シャトルを監視につけましょう」
「頼む」
「午後からの訓練はどうしようか?」
「今日は一人で射撃訓練をしろ。そのあとは休養を取れ」
模擬街区での訓練はお預けか……。
「明日からは、アステルと二人で市街地戦闘訓練だ」
市街地戦闘訓練。今の状況を考えると、早速シガ・シェルターで訓練の成果を試すことになる予感がする。





