侵略者の目的
終末の審問官、教祖ザルヴァ。
一説には三百歳近い年齢だという。
「文明指標Ⅲの技術力では、それほどの延命は現実的ではありません。代替わりしているのでは?」
二百年以上昔の記録にも登場するから数回は代替わりしている?
『その教祖ザルヴァがシガ・シェルターで目撃されたとの情報があります』
テーブルの上に透過ディスプレイが現れた。ミーティング用の設備かな。
そこに映し出されたのは、大勢の人たちの前で演説する一人の人物。
とても三百歳には見えない。四十歳くらいの普通のおじさんだ。
『この男は市民データを持ちません。法的にはハブ・ジャッカーと同じ扱いです』
「なぜこの男がザルヴァと分かる?」
『彼は、ハブ・ジャッカーの間では英雄なのです。世界各地のハブ・ジャッカーの拠点で演説してまわっていますよ。これは二十年前の映像です』
「なるほど。ハブ・ジャッカーを取り込んでいるわけか」
『それとは別に気になる報告がありました。グローバル・ハーモニーに出回っている健康飲料についての報告です。解析データを送ってもらいました』
現れたのは、脂質ナノ粒子に包まれたいたというアミノ酸配列。
「見覚えがない配列ですね」
「これは?」これは何だとアルの問いかけ
『統括知性ササナミによれば、一種のワクチンではないかと』
ノワールの報告をもとに、グローバル・ハーモニーの危険性を理解したササナミは情報の収集を開始した。その莫大なリソースの一端を割いて、世界に流れる「テキスト」を分析したのだ。
他の機械知性の協力を得て、公開SNSへの投稿を全てチェックした。公開情報の収集は適法だが、機械知性たちが本気で取り組めば隠された真実が見えることもある。
ササナミが見つけたのは「調和の雫を知らない? 俺は毎日飲んでるから天使が来てもへっちゃらさ。悪魔にも負けないね。近くなら押すよ」という書き込み。
ロサンゼルス・シェルターで猛威をふるった感染症のあとに投稿されたものだ。全て隠語で書かれた、一般人には何のことか分からない文章。
構造的推論から、「グローバル・ハーモニーの健康飲料を常飲。ロサンゼルス・シェルターでのエンデミックから逃れることができた。他のエンデミックにも効果あり。近接居住区なら直接取引可能」と解読できる。
ササナミは、ロサンゼルス・シェルターで発生した集団感染をテロ行為によるものと疑っていた。
過去の投稿からグローバル・ハーモニー(もしくは終末の審問官)の構成員と思われる、その人物の書き込み。事前に配布したワクチンによって構成員を保護したのではないかとササナミは推測した。
『今は培養試験を進めているそうです』
「ふむふむ。飲料に偽装したワクチンですか。興味深いですね」
「ノワール、呑気なことを言っている場合か。エンデミックが来るぞ」
どういうこと?
「つまり、アルはロサンゼルス・シェルターだけではなく他でも行われると」
「勘だがな」
「勘のいい犬っころのアル。どうしてそう思うんだい?」
「ただの勘だと言っているだろう。フェイルノートを落とそうとする連中だ。有効な手段は何度でも使うだろう」
「そもそも、何で太陽系を侵略しようとしているのかな?」
『それについては心当たりがあります。この辺りの宙域をまとめる知的種族共同体、アウトノーマの領有に関する条文が関係しています』
エトナさんが言うには、知的種族がいない惑星系の領有に関する条文が関係するらしい。
まあ、知的種族のいない惑星の領有は「早い者勝ち」というわけだ。
これに関しては、どの知的種族も異を唱えなかった。アウトノーマ未加盟種族もだ。
新たに発見された惑星系に知的種族、準知的種族が存在しない場合、発見者の所有物になる。そのことを定めた条文だ。
この条文を逆手に取って、他の知的種族が統治する惑星の生命を絶滅させ、領有を謀る動きがあった。
知的種族が居住する惑星は、他の知的種族も住める条件が整っている。知的種族のほとんどは炭素系生命だからだ。機械知性って例外もあるけれど。
発覚したら報復攻撃を受けるような綱渡りだが、過去には、巨大隕石の落下、氷河期の到来、疫病の蔓延などで滅んだ文明も数多くあった。
上手く偽装すれば奪取できる可能性があると思ったのだろうか……。
アウトノーマは慌てて、滅んだ文明に関する条文を追加したが、事後調査で不正が発覚した場合、領有を認めないことに留まった。
アウトノーマに加盟していない種族からみれば形骸化した条文だった。アウトノーマが認めなくても、加盟種族は領有に乗り出せない。すでに知的種族がいるからだ。
現に、バウル母星への侵略に対しても、この条文は無力だった。
自分の星は自分で守れってことか。
結局、バウルを襲った種族の正体は不明のままに終わった。





