裏切りの足音
その後も射撃訓練は続き、正午になったことで射撃訓練は終了した。
連携、カバー&ムーブ、クリアリングの実技訓練を行った。
連携については、アステルと補いあいながらのタクティカルリロードが評価されて「連携とはそういうことだ。状況に合わせた相補を忘れるな」とアルから言葉をもらった。
ロビーに戻り昼食を取る。
今日のメニューはクラブハウスサンド。ベーコンにターキー、トマト、レタス、ゆで卵をトーストとしたパンで挟んだサンドイッチだ。
テーブルには、コハクさんとノワールさん、アルと僕の四人が座っている。アステルは僕の後ろに立って食事を見学。
コハクさんとノワールさんは、両前足でクラブハウスサンドを抱えてかぶりついている。
二人の食事風景をいつも見ているから慣れたけれど、本当に器用に食べる。専用のカトラリーも一式揃えていて、肉球に吸い付く仕組みらしい。初めてナイフとフォークを使う猫を見たときは仰天したよ。
アルはどうやって食べるのかと気にしていると、両肩の装甲プレートがずれて、そこから極細のマニピュレータが現れた。
先端は人間の手のような五本指だ。それでサンドイッチを掴んで口に運んでいる。
「この前足は食事に不向きでな。ノワールに頼んでマニピュレータを作ってもらった」
「イヌ科の骨格は走ることに特化していますからね。我々のように手首を回すことができません」
ノワールさんが言いながら顔を洗う。肉球がしっかり顔の方を向いている。
「ふうん。でも一緒に食事ができるようになってよかったよ」
「そうだな」
「我も早く食事がしてみたい」
「あなたなら可能でしょうね。いっそ完全に人間になってしまうのは?」
「検討中。体の手入れも覚えているところ」
そう言いながらアステルは、細い指を長い髪にすべらせる。
アステルはどう見ても人間だ。僕よりちょっと年上の少女に見える。
でも本当は、文明指標Ⅴの超越種族なんだ。
食事が終わりお茶を楽しんでいると、エトナさんから連絡。
『気になる情報が入りました。シガ・シェルターの統括知性 《ササナミ》からの報告です』
ロビーにエトナさんの声が響く。
「ササナミ……琵琶湖の枕詞?」
アステルが聞き返す。
枕詞ってハイクとかワカに使われる修飾語だっけ。応用学校のニューログラフ課程で詰め込まれた気がする。うっすら聞き覚えがある程度。
「そうですそうです、そのとおりです。まあそれは置いて。ササナミに、シガ・シェルターでペイロードのすり替えが行われたことを報告しておいたのです」
「ササナミが何か情報をくれたのかい?」
『ササナミはしっかり調べてくれましたよ。すり替えが可能だったのは、荷役作業員だけでした。複数の容疑者が浮かびましたが、その中の一人が不審な団体とつながりがあったそうです』
エトナさんが話した内容をまとめると……。
荷役作業員の一人、僕と同い年の少年が、アドミニ・プラクティカム参加者として荷役作業に加わっていた。
アドミニ・プラクティカムは、応用学校に通いながらコロニーの行政機関で働くプログラムだ。
そして彼は、グローバル・ハーモニーなる慈善団体の会員でもあった。
「この氷河の冬は、地球人が本当の家族になるための大切な季節です」をスローガンに、世界シェルター交流プロジェクトを進める団体だ。
僕は、いいことを言ってるなあと感心した。
しかし、シガ・シェルターの秩序を守る保安課の目はごまかせない。
些細な事件から、特定危険指定組織 《終末の審問官》のフロント組織であることが判明。
終末の審問官。教祖ザルヴァが支配する地下宗教組織だという。
十五歳以下の僕みたいな少年少女を手駒に、非合法活動を行うのが常套手段。
該当の荷役作業員は現在行方不明。地下に潜ったか、もしくは地下に埋められたか……。
終末の審問官は、グローバル・ハーモニーに参加している自意識の肥大した若者を狙って「君にしか見えていない真実がある」「なぜ周りの連中がこれほど愚かに見えるのか、その理由を知りたくないか?」などと口説き、勢力を伸ばしているそうだ。
うわあ、エッジロードを狙っているのか。
僕には宇宙に行くという目的があったから罹患しなかったが、応用学校にも患者がいたなあ。
僕やトールみたいに働きながら学校に通うのを、醒めた目で嘲笑する者たち。陰湿な嫌がらせも受けた。
おそらく、アルが予想している侵略者の手先となった地球人だ。





