セレスでの訓練 2
組手が終わり、武器を使った訓練が始まった。
セレス流柔術で使う武器は長杖と短杖だ。
セレスでは、短杖を「バトン」と呼んていたらしい。長杖は……何だっけ?
長杖は百三十センチ、短杖は五十センチ、直径は同じで二・五センチ。正式には、特殊合金製の非常に強度の高い杖を使用する。
訓練用は軽いカーボン製の杖だ。
長杖と短杖を持ち替えながら、攻守を入れ替えて型の訓練する。
実をいうと、僕は杖術の稽古が苦手だった。体術と違ってモチベーションが保てなかったんだ。
でも、アステルと杖術訓練をして意識が変わった。本当に楽しい。杖術の形の意味が全てつながったように感じた。
ああ、これからはきちんと杖の稽古もしよう……。
と思ったところで「そこまで」の声。
気づいたら一時間も経っていた。相当集中していたみたいだ。
「ストレッチをして休憩。その後、射撃訓練で午前中は終わりだ」
「了解、アル」
クールダウンを兼ねた静的ストレッチを行い、疲労した筋肉をほぐす。
アステルもストレッチをしているけれど必要なのかな?
「代謝を模倣できないか試みている。そのうち食事や睡眠も必要になると思う」
僕の心を読んだみたいにアステルが言う。
「そ、そうなんだね。今度一緒に食事でもしようか」
スポーツドリンクを飲みながら、アステルと雑談をしているうちに休憩時間が終了。
「これから射撃訓練場?」
アルに聞くと違うとの返事。
「この場でダイナミックシューティングの訓練だ。XR環境で行う」
「昨日のうちに無反動銃に手を加えました。ここのシステムとリンクできますよ」
僕はバックパックから銃を取り出した。
「見た目は変わってないね」
「これを使用してください。XR環境専用のマガジンです」
渡された青色のマガジンにはでかでかと「XR環境専用」の文字。間違いようがない。
「XRコンタクトは……つけているな。訓練環境オンライン」
僕は雛琵琶の畔に立っていた。
足元にはコハクさんとノワールさん、そしてアル。隣にはアステルもいる。
「実際に撃つときと変わらないはずですよ。違和感を感じたら言ってください」
「そうだな。試射をしてみろ」
セーフティーをオン。チャンバーはエンプティ―。指をトリガーから外して銃を把持。XRマガジンを挿入。初弾を装填。
「準備できたよ」
僕が言うとマンターゲットが出現。これは距離十メートル。昨日の訓練で距離感が掴めるようになった。
「撃っていいぞ」
肩幅に足を開き、軽い前傾の射撃姿勢に。
セーフティーオフ。指をトリガーにかけ、ターゲットフォーカスで照準。トリガーを絞る。甲高い発射音。胴中央に命中。一拍遅れて反動。あれ、本当に撃った?
「どうですどうです。リアルでしょう? 一発撃った分だけマガジンを軽くするのに苦労しました。スラスター搭載マガジンですよ」
なるほど、ノワールさんの凝り性が出たんだ。実射との違いが全然分からなかった。
「あんた……無駄に凝るな」
僕もアルと同じ気持ち……。
「一旦解除だ。訓練環境オフライン」
真っ白に染まったいつもの訓練施設だ。
「インナーの上からこれを着ろ」
アルの前には蓋の開いたトランク。中には白いフルボディースーツとコンバットブーツ、そしてフェイスマスク。
ボディースーツを身に着け、コンバットブーツに履き替える。
フェイスマスクは警備課が強制捜査のときに着用するようなタイプだ。
「フォースフィードバックスーツです。右の頬を打たれたら右の頬が痛みます。聖書の言葉でしたか」
「絶対に違うだろ……」
知的種族共同体 《アウトノーマ》から神の存在を否定されて以来、宗教はずいぶんと下火になったが、僕だって聖書くらいは知っている。地球人類最大のベストセラーだ。
ノワールさん、よく知っていたな。内容は間違っているけれど……。
「今日から、実戦に即した射撃訓練を始める。アステル、XR環境の出力は読めるか?」
「うん、読める。信号も送れる」
「それなら、アステルも参加だ。二人で課題を完遂しろ。訓練環境オンライン。最初の課題から始める」
アステルは僕の格好に合わせてボディースーツ姿だ。星空模様のワンピースで射撃訓練はシュールだものね。
射撃訓練が始まった。路地裏っぽい狭い通路だ。人が隠れられる場所もたくさんある。
近接戦闘、ダブルタップ、ポイントシューティングを複合した射撃訓練の始まりだ。
近接戦闘は、物陰から突然現れる人物(標的、通行人)を瞬時に判別して標的のみを撃つ。標的は銃を持っていたりナイフを構えている人物。
厄介なのは、通行人だと油断していたら、突如銃を構える罠が仕掛けられていたことだ。おかげ痛い思いをした。
ダブルタップは、二発ずつ同じ場所を撃つ射撃方法。標的を確実に無力化するためだ。
マガジンには二十発入るが、十回狙えば弾切れだ。
ポイントシューティングはサイトに頼らないテクニック。精度を犠牲にして速度を取る。ときどき標的から外れる。
ダブルタップだとマガジン交換のタイミングがシビアになる。
アステルに交換時の援護を頼むことで何とか解決。
「あと四発。援護して」
アステルも二十発撃つごとにマガジン交換のタイムラグを課すことにしたようだ。
マガジン交換のタイミングをずらしながらお互いに補いあう。
「状況終了。オフライン。五分の休憩だ」
やっと終わった。へとへとだ。
アステルは涼しい顔をしている。差を感じるな……。





