重力下訓練施設
射撃訓練で疲れた体を叱咤して、アステルたちが待つ重力下訓練施設へと向かう。
特に肩と腕が疲労で重い。アルは骨格で銃を支えろと言うけれど、ちょっと意味が分からない。
さまざまな射撃距離で訓練を行い、最後の方で「ターゲットフォーカスで撃ってみろ」と言われた。
ずっと、フロントサイトを注視しながら撃っていたので違和感があったが、上下左右奥行きの全てが異なるターゲットを同時に出されて納得した。こちらの方が狙いやすい。
「よし、今後はそれで行け。今日の射撃訓練は終わりだ。毎日一時間は練習しろ」
セレス流柔術の基礎訓練に加えて日課が増えた。アステルとの組手も追加されるんだったよね。結構大変かも。
そんなことを考えながらも訓練施設についた。エアロックを通り抜け重力下訓練施設に到着だ。
「おおっ」思わず感嘆の声が漏れた。
想像以上に広かったのだ。アルに聞くと縦横二百メートル、天井高は百メートルはあるそうだ。
「射撃訓練は終わった?」
横を向くとアステルがいた。コハクさんとノワールさんもいる。
「今日の訓練はね」
「シガ・シェルターの最新市街データに更新しましたよ。これをつけてください」
ノワールさんから小さなケースを渡された。蓋を開けると二枚の透明なレンズ。
「コンタクトレンズ?」
「そうですそうです。クロスリアリティ・コンタクトです」
これ、学校で一度つけたことがある。レンズの赤い点を見ながら目を近づけると自動で装着してくれる。瞬きを我慢するのが大変なやつ。
慎重にレンズに顔を近づけると、ふっと微風が顔を撫でる。
「あれ?」
視界には「キャリブレーションを開始します。表示されるドットを追ってください」の文字が表示される。
「どうですどうです。瞬きの間隙を突いてレンズを吹き付ける新作です。レンズも究極の低摩擦で違和感が無いでしょう?」ノワールさんの得意顔。
「無駄に高性能だね……」
キャリブレーションが終わったらしく「Good to go」の表示。
「これを腕につけてごらん」
コハクさんから腕時計のようなものを渡される。
左手首に巻いてバックルで固定。
「それで、仮想空間を自由に移動できます。思考制御スラスターとほぼ同じ操作方法です」
「論より証拠。まずは試すといいよ」
突然、街並みの風景に変わる。ノーザンエンドと似ているが少し雰囲気が違う。
「ここは、ひょっとしたらシガ・シェルター?」
「そうですそうです。これが現在のシガ・シェルター市街の風景です」
全員同じ風景の中に佇んでいた。
「ジーン、アステルを連れて見て回ったらどうだ」
「うん。アステル、一緒に見て回ろう」
「分かった。一緒に行く」
「それでは、アステルを追随モードに設定します」
前に進もうと思ったら、すっとすべるように前進を始めた。なるほど、思考制御スラスターと同じ感覚だ。隣にいたアステルも一緒に移動している。
頭上の経路案内版を見上げると、次の交差点を左に行けば「雛琵琶」へと続く通りだ。
雛琵琶。かつての琵琶湖から取水して形成した人造湖につけられた正式名称だ。琵琶湖とかシェルター湖とか呼ぶ人もいるみたい。
「雛琵琶に行ってみようか」
「うん、何もかもが新鮮。早く地球に降りてみたい」
「いつか、アステルにもノーザンエンドを見てもらいたいな。会ってもらいたい友達もいる。トールって言うんだ。いい奴なんだ」
ノーザンエンドを出発するときに、寒いだろうとプルトニウム発電機を持ってきてくれた、赤毛の少年が目に浮かぶ。
周りの景色を眺めながら雛琵琶を目指す。
「これは、大きいね……」
実際に雛琵琶を目にするのは初めてだ。いや、仮想空間なのは分かっているよ。でも、この景色には圧倒される。
靄が出ていて向こう岸が霞んで見える。
シガ・シェルターってノーザンエンドと変わらない大きさじゃないかな? もう、大規模セツルメントのレベルだ。
「水が一杯」
「地球はかつて水の惑星と呼ばれていたんだ」
周囲を眺めると、雛琵琶の畔に一軒の建物。アルの話を思い出す。
「あれが比良水庵かな?」
「比良水庵?」
「僕の上司、調査課の課長が以前働いていたお店」
「ふうん、どんな人?」
「そうだね、いい人なんだけど……」
「?」
「すごく胡散臭いんだ」





