射撃訓練
四番サブポートから訓練施設までは近いらしい。徒歩で向かう。
広い通路、高い天井、何とも贅沢な作りだ。
「広すぎる通路を不思議に思ったか。四番サブポートから訓練施設への直通通路だ。小惑星連合軍の車両も使う」
きょろきょろと見回している僕に気づいたアルが言う。
「小惑星連合軍が車両を持っているの?」
僕の感覚からすれば、無重力の宇宙空間で車両は使わないと思うんだ。
「大規模な宇宙施設はどこも重力制御をしていたからな。ここセレスも一G環境だったそうだ」
あっ、そうだった。地上と変わらない生活だったんだ。
「そんな時代があったんだね……」
「拙はセレスに足を踏み入れたことが無かったねえ。太陽系に戻って初めて入ったよ」
コハクさんは気密服を着ていない。僕もインナー姿で歩いている。
理由は、セレスには減圧時の対策設備が整っているから。
この通路にも五十メートルごとに赤い破線で囲われた扉が設置されている。
大人四人で一杯の小型シェルターだ。警報が鳴ったらすぐに飛び込めとアルから指示されている。
ちなみに、ノワールさんからスラスターの調整をしてもらい、地上と同じように歩けるようになった。今はインナーにスラスターを取り付けている。
アステルは自分で何とかできるみたい。普通に歩いている。
「私はエクソダスのあと、ちょくちょく遊びに来ていましたよ。機械知性 《セレス》とは友人でしたので」
「そうかい。エトナに言わなかったのは気を使ってのことかい?」
「まあ、それもありますが、セレスの死を認めたくない気持ちもあって……仲のよい友人でした」
「そうだったのかい……」
コハクさんが優しい目をしている。
「ということでセレスの案内はお任せください」
ノワールさんを先頭に、通路を進んでいくと巨大な扉に迎えられた。
「ここはエアロックになっています」
ノワールさんが言うと静かに扉が開きだす。中は広いエアロック。内扉を抜けると、通路の両側にロビーのような広々とした空間が広がっていた。
「うわっ、広いね」
「閉鎖環境はストレスになるからな。ノーザンエンドも広い空間が多かっただろう?」
「気にしたことないかも。そういえば公園がたくさんあるね」
そのまま通路を歩いていくと円形の広場に出た。
「ここから各訓練場に行けますよ。ジーンは射撃訓練ですか」
「そうだな。ジーンの訓練は俺がつける。皆は重力下訓練施設に行ってシガ・シェルターのシミュレーション空間を用意してくれ」
「分かりました。皆さん、私について来てください」
ノワールさん、ノーザンエンドの案内人みたいだ。
アルに連れられて射撃訓練場に到着。ここもエアロックを通って中に入る。
ずらりと並んだ射撃レーン、高い天井、奥行きは……百メートル以上はありそう。
「そこのブースに入れ」アルが鼻づらで指示する。
左右と天井が囲われたブースだ。これ防弾板だよね、きっと。
左右の壁にはテーブルが固定されている。そこに持ってきたバックパックを置いていると、アルがぽつりと言った。
「ジーン、勝手に決めてしまったが本当にいいのか? ハブ・ジャッカーを倒すのとはわけが違う。地表に出る限り奴らとの殺しあいは避けられんが、シガ・シェルターでも戦闘になる可能性がある」
「ハブ・ジャッカーを殺しちゃったことは忘れないよ……たぶん一生。それでも、僕は自分ができることをやる。お父さんとお母さんもきっと許してくれると思う」
「そうか。では一つアドバイスだ。トリガーを引くときはためらうな」
そうか……。アルは侵略者の中に地球人がいると思っているんだ。
銃口管理、指の管理、装填の確認と続き、射撃姿勢の訓練が始まった。
「銃は両手で保持しろ」
「ターゲットとその周辺に何があるかを常に把握しろ」
「空撃ちでも引き金はゆっくりと押しきれ。慌てて引くな。銃口がぶれている」
結構スパルタだ。セレス流柔術の基礎訓練を始めたころを思い出す。
「よし、それでは実弾射撃だ」
アルがテーブルに飛び乗ってコンソールを操作する。
床からターゲットが立ち上がる。人の形をしている。
「マガジンに弾丸を詰めろ。一発だ」
指示どおりマガジンに一発弾丸を入れる。
「狙うのは胴体の真ん中だ。照準を合わせろ。注視点はフロントサイトだ」
リアサイトとターゲットがぼやける。フロントサイトのピンだけが鮮明だ。
「撃て」
トリガーをゆっくりと絞る。甲高い発射音、少し遅れて銃口が上がる。命中。胴体の真ん中だ。
「よし。正確に狙って正しくトリガーを引けば当たる銃だ。次はフルに二十発、弾を込めろ。重量バランスの変化に注意だ」
二時間にわたる最初の射撃訓練が終わった。





