侵略の足音
タイトルを『少年と宇宙』に変更しました。
旧題:『地球の少年、星の遺児』
「アル、大丈夫?」
アルが背中の円盤に灰色の甲虫を乗せたまま戻ってきた。
「いや、センサー類が全滅だ。大丈夫とは言いがたいな」
「お見事でした、アル。あなたが失敗したら、甲虫を破壊するしかありませんでした」
「EMPの直撃を受けたように見えたけど……」
「ああ、内部機構は耐EMP防護措置済みだ。先日の味覚獲得手術のついでに頼んだ」
「そうですそうです。アルはこれが怖かったようです」
ノワールさんが小豆色の肉球を見せつける。
「それだ。こいつは所かまわずぶっ放すからな」
「心外な……。場所をわきまえて使っていますよ。それにアルには当てないよう努力しています」
「だが、体表のセンサー類とアンテナは防護できない。最後のパルスが来るタイミングは、ノワールからの情報で分かっていた。全てオフラインにして突入した」
ノワールさんの言い訳を無視してアルが続ける。
「ノワールはどうして発射の瞬間が分かったの?」アステルの質問。
「あれだけ攻撃を受けましたからね。リークする磁場から発射のタイミングを計算したのです」
「それで何度も大きく避けていたんだ。当たれば倒せるって思わせたんだね」
「そうですそうです、心理戦です。上手く罠にかかりました」
「それじゃ、アルがこそこそと作業してたのは……」
「ボンディング・ストラップを取りつけていた。少しでもセンサー類を守ろうとな」
お尻に極太のケーブルがつながっている。
「ボンディング・ストラップ……地上でいうところのアースケーブルだね」
「この程度では気休めにしかならんな。ストラップには真の役割があった。焼けた通信アンテナの代用だ」
「ストラップ自体はこの程度のEMP強度なら耐えられます。パルス放出後、アルはストラップに通信回路を接続して、私から甲虫の位置情報を得たのですよ」
「ジーン、狩りは心理戦だ。特に反撃してくる相手には駆け引きが重要だ。味方と自分を守り、敵を追い込んでいく」
「見ていてよく理解できたよ」
「それならいい。許容できる損害を判断するのも忘れるなよ。俺の場合はセンサーもアンテナも交換がきく」
「それとバディとの信頼関係も重要です。お互いに命を預けるのですから」
「そのとおりだが、あんたに言われると微妙な気分だ」
やっぱり仲がいいな、この二人。
「まあ、上手くいってよかったよ」
僕は嘆息する。
『ごくろうさん。皆帰っておいで』コハクさんから通信が届く。
アルはお尻につながったストラップを三十センチほど残して切断した。まるで尻尾みたいだ。
跳躍艇に戻ると『そこの穴に甲虫を放りこんでおくれ』とコハクさん。
表面に一メートルほどの黒い穴が開いていた。
アルが甲虫を円盤ごと切り離すと、ノワールさんがちょんと押した。甲虫が黒い穴に吸い込まれる。
もう一つの大きな穴に僕たちは入っていく。
いつもの部屋に戻るとコハクさんは気密服を脱いでいた。
久しぶりのふわふわな姿にちょっと安心。ウナギスーツは油断すると失笑してしまう。
「おかえり、無事に捕獲したね」
『おかえりなさい。こちらも進展がありましたよ』
「何か分かったのか?」
『アウトノーマの既知種族データバンクに該当する情報はありませんでしたが、機械知性ネットワークから、バウルへの侵略記録が見つかりました』
バウル。太陽系エッジの識別パターンを知る異星知的種族の一つ。
体長三十メートルを超える大型の植物系種族。
時間的なスケールの違いから、人類とのコミュニケーションに難があるため、直径五〇センチくらいの機械知性が太陽系に派遣されていたんだっけ。
『バウル本星が侵略を受けた際の詳細記録でした。エッジ観測ステーション入れ替えのタイミングで微細なマイクロマシン群が大量に転移してきたそうです』
『マイクマシンは恒星風に乗ってバウルの本拠惑星にたどり着き、資材を集め、百年ほどかけて前線基地を構築したようです』
「気が長い連中だな……」
『前線基地では超小型ロボットが大量生産されました。並行して病原菌の培養も』
「それを惑星中にばら撒いたわけか」
『そうです。バウルは動物型生物に比べると反応速度に劣るので、対応が遅れました』
「どうやって退けた?」
『共生している準知的種族、地球でいうリスのような生物が活躍しました。ロボットを狩りつくしたのです』
『ばら撒かれた病原菌は菌根菌による防御ネットワークに守られました。そのころになって、ようやくバウルは攻撃を受けていることを認識しました』
『やがて、共生生物による捜索で前線基地が突き止められました。そこには巨大な思考機械が鎮座していたそうです』
『そこで、同居している我々機械知性に依頼がありました。思考機械の鎮圧と解析です。侵略者の種族は不明でしたが、技術レベルは判明しました』
「そいつは、文明指標Ⅲの中でも上位に位置する技術で作られていたのさ」
ここでコハクさんが口を開く。
『シガ・シェルターから運び込まれたペイロード、我々が、蛹と呼ぶ存在に使われている技術に酷似しています』
「それは怪しいな」
「まあ、甲虫を解析すれば分かるだろうさ」





