捕獲
二十基におよぶ小型ロボットたちが沈黙している。自ら発したEMPの犠牲になったようだ。ステーション内は非常照明の赤い光に照らされている。
灰色の甲虫は健在。じりじりと後退している。高度な電磁防御が施されている様子。
切り札のEMPバラージをかわされて焦っているようにも見える。ひょっとしたら知能があるのかもしれない。
「あれを捕まえるのか……。大変そう」
「壊さずに捕まえるのは難しい」
「あいつを罠にかける」アルの声。
びっくりした。いつの間にか隣にアルが浮いていた。ノワールさんも一緒だ。
「どうやって罠にかけるの?」
「ヴェリテの背部嚢から停滞フィールド発生装置を持ってきた。こいつを使う」
アルが五十センチほどの円盤を背負っていた。
「円盤の直上に停滞フィールドが発生します。追い詰めて自爆されると厄介ですので、これが最善かと」
僕たちが打ち合わせをしていると、灰色の甲虫が消えた。
「消えた?」
「光学電磁迷彩だな」
「いる。あそこ」アステルが指さした。
「アステルには見えているようですね」
「ゆらぎが見える。視差を大きくすれば見えるはず」
「なるほどなるほど。私とアルで視界を同期させましょう。ジーンにはヘルメットに敵の姿を強調表示します」
ノワールさんとアルが左右に分かれる。すぐにヘルメットバイザーに甲虫の輪郭が表示された。
「見えた!」
上の梁に飛び移るところが見えた。
「武器を持っているかもしれん。アステル、ジーンの護衛を頼めるか?」
「任せて」
バックパックのハンドルが後ろに引かれる。
「ジーンは見ていろ。狩りのやり方を覚えるんだ」
「分かった……」
結局のところ、僕は何もできないただの子どもだ。消沈しつつも今は見守るしかない。
ノワールさんがステーションに突っ込む。遅れてアルも突入。すぐに上下に離れる。
アルの動きが把握できない。体色の一部を常に変化させ、ベクトルを認識しづらくする一種のアクティブ迷彩を使っているようだ。
一方、ノワールさんは直線的な動きで甲虫を追う。追い込み役なのかな。
ときおり、ノワールさんが大きく避けるような動きをしている。
「EMP攻撃を受けてる」
「大丈夫かな……」
「強度は大したことない。たぶんわざと避けてる」
動きが見えづらいアルを強調表示すると……いた!
壁面に取りついて何か作業をしている。
ノワールさんに視線を戻すと、甲虫に肉薄していた。あと三メートルほどだろうか。
甲虫が跳ねる。ノワールさんが慌てたように距離を取る。アルが真下から甲虫に迫る。
「EMPが来る」アステルの警告。
甲虫を目前に捉えたアルがびくんと痙攣して動きを止める。
「アル!」僕は思わず叫んでしまう。
「アルは大丈夫」
アステルはそう言うが、EMPを食らったアルは動かない。
アルはゆっくり回転しながら流れていく。甲虫が推進剤を噴射してアルを避ける。
甲虫が避けた先にはノワールさんが待ち構えていた。
前脚でぺしっと甲虫を叩く。無理やり軌道を変えさせられた先には力なく漂うアル。
甲虫は機能を停止したアルを脅威とはみなさずそのまますれ違う。
すれ違いの瞬間、アルはすっと甲虫に寄り添い背中の円盤を接触させる。
「チェックメイトだ」
甲虫は停滞フィールドに包まれた。





