捜索
「成虫ってたとえだよね?」
「そうだね。蛹から変態する昆虫にたとえただけさ。別に虫の形をしているとは限らないよ。でも、虫っぽい姿だろうね」
もう動かない小型ロボットを見ながらコハクさんが言った。たしかにこの環境なら昆虫型が最適な気がする。
「残存物から判断すると、この箱は工場。航宙しながらこの中で組み立てたみたい」アステルの見解。
「大きさは見当がつくかい?」
「おおよそ長辺は三十センチ、短辺は二十センチくらい」
「メンテナンス用の小型ロボットくらいだね」
「ぜひ確保したいですね。敵の正体を掴みたいところです」
「文明指標Ⅲ、マイクロマシン技術が得意な種族だと思う」
「なるほどなるほど。エトナ、地球のデータバンクに問い合わせをお願いできますか?」
『分かりました。アウトノーマの既知種族データバンクを当たってみます』
「それじゃあ、皆は成虫を探しておくれ」
ノワールさんとアルは単独で、僕とアステルは一緒に行動する。コハクさんは跳躍艇に戻って遠隔プローブで調査するそうだ。
『ジーン、スラスター用のアプリケーションの用意ができましたよ。試してみてください』
空間投影で「思考制御スラスター」の表示。
「ノワールさん、どうすればいいの?」
「思考制御スラスターをオンラインにして、移動したい場所を強く意識してください」
手を伸ばし、ヘルメットから投影された映像のボタンをタップ。
上を見て、あのトラスの上に立ちたいなと強く思うとスラスターが作動した。
上に落ちていく感じ。一G加速くらいかな? トラスに接近した時点で逆方向にGがかかる。その後、水平移動して着地、磁気ブーツが作動。気がつけばトラスの上に立っていた。
「ノワールさん、これすごいね! 思ったとおりの場所に着いたよ」
「ジーン、気をつけてください。緊急時は最大九Gがかかりますよ」
うわっ、九Gか。確実に気を失いそう。怪我をするかも……。
「大丈夫、ジーンは我が守る」
アステルに言われてちょっとへこむ。僕がアステルを守りたいよ……。
『さあ、早いところ見つけるんだよ』跳躍艇に戻ったコハクさんだ。
担当区域の打ち合わせをして僕たちは散る。
僕とアステルは残り二基の補給ステーションの調査。ノワールさんは光学チャンバーを一基ずつ回り、アルが本命のレーザー中継ステーション制御中枢を担当する。
「アステル、こんなことに付き合わせてごめん」
二基目のステーションを調べながらアステルに話しかける。
「平気。我は今、目的を見失っている。それにジーンには善性を感じる、協力に異存はない」
「そう……。アステルなら何でもできそうな気がするけど」
「何をしたらいいのか分からない」
「僕もそうだよ。誰かのために何かをしたいんだけど、何をしたらいいのか分からないんだ。それで僕たちを攻撃してくる相手に、とりあえず対抗しているだけなんだ」
「アライアンス中核体は、我に我が根源の姿を投影している」
「尊き御方?」
「そう。あなたたちが母と呼ぶ存在に近い」
「お母さんか……。僕の本当の両親は三七小隊ってところに所属していたみたい」
「コハクから聞いた。我の孵化に関わっていた小隊」
「不思議な縁だね」
「うん」
『光学チャンバー群、問題なしです。跳躍艇のプローブと分担したので早く終わりました』
『こっちも外れだ。これが本命だと思ったのだがな』
僕とアステルがとりとめなく話していると、ノワールさんとアルから報告があった。
「僕たちはあと一基だよ。今のところ異常なし」
「分かった。最後の補給ステーションで合流しよう」
僕とノワールは最後のステーションへと向かう。
補給ステーションは三基とも同じ形状だ。鏡面コーティングの百メートル級の球体。
「最後のステーションに突入するよ」皆に対して宣言する。
『気をつけてな。すぐに合流する』アルの言葉が心強い。
「アステル、行くよ」
ノワールさんからもらった認証データでハッチを解放する。
補給ステーションは全て同じ構造だ。
複雑に組まれたトラスが目に入る。今までと違うところはトラスの上に、メンテナンス用の小型ロボットが整列していたことだ。全機こちらを向いている。
アステルにバックパックのハンドルを掴まれる。すぐさま大Gがかかり息が詰まる。
「……何が?」
アステルが答える前にヘルメット内表示がブラックアウト。数秒後に復帰。
「小型ロボット群によるEMPバラージ。焦点から離脱した。大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
「いた、あいつ」アステルが指さす。
そこには、メンテナンスロボットと同型の灰色の甲虫がいた。





