成虫を探せ
『補給ステーションの全ての機器が沈黙しました』
エトナさんが言った。
小型ロボットどころかステーションの制御システムまで止まってしまったようだ。
『どうする? 全て止まったぞ』
『ここのシステムはすでに汚染されています。原因を解明して復旧しましょう』
『気楽に言ってくれる……』
「よし、安全は確保されたね。ジーンとアステルも行くよ」
『行ってらっしゃい』
エトナさんに送り出され、僕たちもステーションに入った。
コハクさんは自前のスラスターで。僕の簡易装甲服にも取りつけてあるけれど、操作が難しくてアステルに手を引かれて進んでいる。
ちょっと不甲斐ない。
「そのスラスターは、元々、思考制御で個別に操作する設計だ。簡易操作用のアプリケーションが必要だな」
「そうでした。戦闘機動は難しいですが、あとでイメージ通りに動くように改修しましょう」
助かった。僕だけ自由に動けないと皆の足を引っ張るからね。
ノワールさんからの中継映像で見たとおり、内部はトラス構造の骨格が剥きだしだった。
よく観察すると、自走するマニピュレータが多数取り付けられている。
無重力だとこの方が効率がいいのかもね。
問題の補給ポッドに到着すると、ノワールさんとアルが待っていた。
「これがシガ・シェルターから送られてきた補給ポッドかい」
「そうですそうです。トラップが仕掛けられていて、アクセスしたら罠が発動しましたよ」
「ノワールの目を誤魔化すなんてたいしたもんだね」
「警戒していたのですが、一杯食わされました」
「ノワール……あんた、いつも一杯食わされているな」
アルが容赦なく突っ込む。たしかにトランサンデのシンパにも一杯食わされていたな。
ノワールさん、わざとやってない?
「まあまあ。その甲斐はありましたよ」
「どうしたんだい?」
「ええ、ええ。I/Oポートに高電圧をかけられた瞬間にロックを解除できました。少し下がってください」
言われるままに二メートルほど下がると、補給ポッドのパネルの一面が、こちら側に倒れて開く。
ノワールさんはすたすたとポッドの中に入っていく。僕は磁気ブーツをオンにして後に続く。
中には梱包された機械部品が詰まっている。ノワールさんは山積みされたパッケージを飛び越え、視界から外れた。
どうやって追いかけようかと思っていたら、バックパックのハンドルを掴まれた感触。首をひねるとアステルがいた。
「我がジーンを運ぶ」
そう言って僕ごとジャンプ。
なるほど、背中のハンドルを持って運ばれると体が安定する。そういえばバックパックのハンドルは、マニピュレータでの身体確保が主目的だった。
でも、母猫に咥えられて運ばれる子猫の気分。かなり気恥ずかしい。
パッケージの山を越えると眼下にノワールさんが見えた。四十センチ角くらいの立方体の前にお座りしている。
横に降り立つと、コハクさんとアルも降りてきた。
「これですこれです。件のペイロードです」
「開けても大丈夫かい?」
「ええ、ええ。EMPで機能を停止しているので開けても安全です」
そう言いながら天板に前肢を置いて再び持ち上げると上蓋が開いた。
皆で中を覗き込むと、そこには干からびた小さな灰色のかたまりと細い糸がびっしりと蔓延っていた。何となく生物的な印象がある。
「これは何?」
「真空接着用の金属ナノ粒子という名目でリストに記載されていますが……」
「搭載時のチェックを誤魔化すために粒子状で運びいれたんだろうね」
「同感です。地球の昆虫でいえば、どろどろに溶けた蛹の内容物みたいなものでしょうか」
「ということは」
「成虫がいるってことさ」





