金星L4 補給ステーションの攻防
レーザー中継ステーションの各施設は与圧されていないそうだ。
無重力、無人、真空での運用が基本構想だからだ。
各所に酸素の備蓄はあるが、あくまで非常用だ。現に、補給ステーションにはエアロックすらない。
ノワールさんが認証データを送ると、物資搬入口のシャッターが開く。そこに、白いマニピュレータが潜り込んでいく。
「まずは、ノワールとアルで偵察に出てくれるかい。どうも嫌な感じがする」
「はいはい。仰せのとおりに」
「問題ない」
残りは待機みたいだ。
ノワールさんとアルが補給ステーションに乗り込んだ。
「ノワール。映像を中継しておくれ」
「送ります」
跳躍艇内の景色が一変する。ノワールさんが送った映像が全面に投影された。背後から撮ったようなアングルだ。
尻尾を大きく揺らしながら上機嫌に宙を進むノワールさん。その隣にはアルの後ろ姿。
巨大な補給ステーション内部は、縦横にトラスが張り巡らされていて、床が存在しない。
二人はスラスターでゆっくりと進む。
トラスの一部に目を向けると、たくさんの小さな機械が這いまわっている。メンテナンス用の小型ロボット群のようだ。
どこに向かっているのか見ていたら、行き先はステーションを支える骨格の中心にある大きな筐体だった。
人間が扱うようなコンソールは見当たらないしディスプレイも無い。
ノワールさんが、筐体にずらりと並ぶコネクターの一つに尻尾を差し込む。
『あれは、I/Oポートですね』エトナさんが教えてくれた。
『補給ポッドの位置が分かりました。これから向かいます』ノワールさんからの通信。
今度は下方向にトラスを避けながら進んでいく。ピタリと並んで進む二人を見て、やっぱり仲がよいのかなと感じてしまう。
しばらく進むと補給ポッドが集積されている区画に到着。カプセル型をイメージしていたけれど、直方体のコンテナだった。コンテナ自体も順次分解されて資材になるらしい。
問題の補給ポッドはまだ分解されずに残っていた。
ノワールさんが尻尾を補給ポッドに接続した。
刹那、I/Oポートに青白い火花が散り、慌てて尻尾を引き抜いた。
『私の自慢の尻尾が……』ノワールさんが尻尾の先っぽを抱えて嘆いている。
『馬鹿を言っていないで周りを見ろ』アルの声だ。
周りに小型ロボットに集まってくる。ノワールさんよりも一回り小さい甲虫のようなロボットだ。
脚部を畳んでトラスの上を車輪で疾走している。
二人はスラスターでトラスから距離を取る。甲虫が一斉にジャンプ。ノワールさんとアルは二手に分かれて避ける。スラスターを持たない小型ロボットは、そのまま通り過ぎるかに見えたが、隣の甲虫を蹴り軌道を変える。
『おっと』アルがダイヤモンドの爪で甲虫を砕く。ノワールさんは猫パンチで応酬している。猫パンチを食らった甲虫はぴくりとも動かなくなった。
『どうする? 切りがないぞ』
『そうですね。こういうのはどうです?』
ノワールさんが言った途端に映像が乱れる。
こちらに向かっていた小型ロボット群は、慣性のままどこかに飛んで行ってしまった。
『おい、EMPを放射するなら先に言え!』
『大丈夫です。アルは避けていましたから』
『まったく……』





