バックアップシステム制圧
「思ったよりも細いんだね。毛皮がふわふわだから太って見えるのかな」
つい、思ったことを口にしてしまった。
僕は、コハクさんを前にすると失言が多い気がする……。気を付けなきゃ。
「何をぐずぐずしてるんだい。さっさと行くよ」とコハクさんが不機嫌に跳躍艇から出ていく。
コハクさんを追って跳躍艇から出ようとすると、ノワールさんが、すすっと僕の隣に寄ってきた。
「コハクたちフェリシア人は、鉱物資源採掘のために造られた種族だとお伝えしましたよね」
「うん、言ってたね」
「これは、そのときの採掘服なのですよ」
「何とも珍妙な恰好だな」アルが容赦ない。
「コハクたちの主族は唾棄すべき存在でしたが、快適な装備を作ることに関しては定評があったのです」
「それがあの服?」
「あの気密服はですね、体温を一定に保ち、セルフ毛づくろい裏地を備え、濡れ輝く漆黒の表皮は、自己修復ポリマー層で狭所での摩擦を緩和します」
「それで、ぬらぬら光っているんだね」
「太い尻尾カバーには多数のスラスターを備え、抜群の姿勢制御能力を発揮します」
「極太尻尾のせいでウナギに見える」
「ええ、ええ。分かります。ちなみに、スラスターは私やアルと同タイプのものに換装しています」
「さらにアルが金魚鉢と評したヘルメットには……」
「何くだらないことを話しているんだい。聞こえてるよ」コハクさんが遮った。
アルとノワールさんと顔を見合わせて、白い触手の中を進んで行く。
アステルは僕たちの後ろからついてきている。
触手の先端が開くとそこはエアロック内だった。
メインポートは、与圧されていなかったようだ。
「基地内の与圧に異常は無いね。ヘルメットを取るんじゃないよ。ここは無人基地だから、供給されてるのは窒素ガスだよ」
エアロック内のコンソールを叩きながらコハクさんが言った。
エアロックを抜けそれなりに広い通路に出ると、左手にずらりとシートが並んでいた。
「基地内の移動システムだね。保守に来た人間が使うものさ。システムに異常は無いね。ジーン、これに座ってくれるかい」
「分かった」うなずいて僕は座った。
「リカバリーセンターに案内しておくれ」
コハクさんの命令に応えて、僕を乗せたシートが進みだす。
他の皆は自前の推進手段で横を飛んでいる。ちょっとうらやましい。
しばらく進むとエレベーターホールのような場所に到着。正面には複数のシャフトが走っている。
シートが一つのシャフトの前に止まると扉が開く。中に吸い込まれると狭い空間だった。
皆も続いて入ってくる。人と猫と狼でみちみちだ。
体が浮き上がるような感覚。どうやら高速で地下に向かっているようだ。
一分近く落下したあと、体がずんと重くなる。そろそろ到着するのかな。
予想どおり、扉が開いてシャフトの外に押し出される。
「止まって」アステルが声を上げる。
声に反応してシートが動きを止める。
「どうしたの?」
「バックアップシステムの影響範囲に入った。ここから歩いて行きましょう」
「あれ? アステル、話し方が変わった?」
「学習したの。人間とは違うけど我にも性別があるみたい」
「なるほどね。外見にぴったりだ。でも一人称は我なんだね」
「おかしい?」
「いや、おかしくない。何か強そうでかっこいいよ」
「分かった。それじゃ、これでいく」
「星は皆母性だからねえ……」
コハクさんが意味ありげに言った。何のことだろう?
「すでにラテラルムーブメントの影響下にありますね。用心して進みましょう」
ノワールさんの警告に気を引き締める。
ずいぶんと狭くなった通路を慎重に進む。突き当りに「リカバリーセンター」のプレート。
「扉を開けますよ」ノワールさんの言葉に身構える。
扉がガクンと三十センチほど後退して、両側に開き始める。これは防爆扉ってやつかな? 結構厳重に守られているんだ。
扉が開ききる直前、目の前に閃光が走った。撃たれた?
恐る恐る目を開くと、いつのまにかノワールさんが目の前に立っていた。右手をかざし後脚で。
「対人レーザーですね。物騒なお出迎えです」
ノワールさんが守ってくれたようだ。
アルは体を低く構え、リカバリールーム内を睨む。アステルは所在なさげに、つま先で床をトントンと叩いている。
コハクさんは……ウナギみたいだ。
「ジーン。今、失礼なことを考えていたね」じと目で見つめられた。ごめんなさい。
リカバリールーム内には、三メートルくらいの筐体が林立していた。色とりどりのインジケーターが明滅している。中央に鎮座しているのがメインコンソールみたいだ。
僕が息を詰めるなか、すっとアステルが部屋に入っていく。
慌てて止めようとしたが間に合わない。
天井から対人レーザーが狙うが、アステルを避けるように青白い軌跡が曲がった。
そのまま、レーザーを無視して歩き続け、メインコンソールと思われる制御卓に触れると一言告げる。
「お眠りなさい」
全てのインジケーターが消えた。





