新たなる事件の影
『ジーン、どうやらアステルの見立ては正しかったようです』
エトナさんからの通信だ。
「バックアップシステムの異常だった? 原因は分かったの?」
『はい。異常というより反乱でしょうか。軌道維持制御中枢を乗っ取るべく動作しています。制御中枢はよく対抗していますが、そのせいで復旧が遅れている模様です』
「エトナさん、バックアップシステムの反乱なんてあり得るの?」
『バックアップシステムは意思を持っていませんが、挙動自体は反乱といえます』
「僕には難しいや。もっと分かりやすく教えて」
『そうですね。システムが汚染されて攻撃の核になっています。クラッキングを受けた形跡が見つかりました』
「バックアップシステムが攻撃されたってこと?」
『昔、大規模なゲリラ組織が好んで使う手法でした。災害時にバックアップシステムが起動すると、そのシステムを起点して被害を拡大させる攻撃です』
「授業で聞いた覚えがある。でも対策されたはずだよ」
『もちろん対策は取られています。機械知性も協力しました。小惑星連合軍のセキュリティを破って攻撃できたということは……』
「クラッキングを受けたのはいつ?」
アステルが通信に割り込んだ。
『それは判明しています。約四年前ですね』
「最近のことじゃないか!」
『太陽―金星系L4に配置された、レーザー中継ステーションを介しての攻撃です』
「人間の活動可能時間から類推すると、現在も攻撃をしかけた勢力が残存している可能性が高い。対処が必要」
アステルが結論を下す。
もう、指令ステーションにいる理由が無くなった。
「コハクさん、ここでやれることは終わったよ。僕たちを迎えに来てくれる?」
『ああ、エトナの報告を聞いていた。今迎えに行くよ』
ほどなく跳躍艇が接舷する。
「アステル行こう」
アステルは僕が伸ばした手を取った。
思わず手を握ったけれど、分厚いグローブ越しでアステルの手の感触はあまり分からない。
って、何を考えているんだ僕は!
アステルと一緒に跳躍艇に戻った。
アルとノワールさんはいない。EVAの最中みたいだ。
コハクさんが僕の手を見つめている。
アステルの手を握ったままだった……。慌てて手を離すと、やれやれと首を振った。
コハクさん、言いたいことがあるなら言ってよ!
「おつかれさま、ジーン。大変なことになったねえ」
手のことには触れず、コハクさんは労ってくれた。
『おかえりなさい、ジーン。ノワールの協力でいろいろ分かりましたよ』
『ええ、ええ。作業しながら失礼します。レーザー中継ステーションへの補給ポッドに不審な点がありました』
壁にノワールさんの顔が映った。どアップだ。
ああ、びっくりした。ノワールさん、ときどきこういうことをする。
『シガ・シェルター所有のスペースプレーンによって、レーザー中継ステーションへの補給ポッドが軌道投入されます。これは月一回の通常業務ですね』
ノワールさんの映像が小さくなって背景が映るようになった。アルもいる。
大きめのステーションの外殻に取りついている。
通信ステーションかな? レーザーモジュールがたくさん付いている。
『約四年前に到着した補給ポッドの積載リストに改ざんの痕跡がありました。受け入れチェックを欺瞞するためでしょうね』
宇宙への輸送はかなり厳密に管理されていると聞く。一度ならず宇宙施設へのテロ行為が摘発されたからだ。
『推論になりますが、シガ・シェルターでの搭載時チェック後にペイロードをすり替えたのでしょう』
『ノワールと話し合ったのだが、クラッキングを含めてこれは人間には不可能だ。機械知性、または同等の思考機械の関与が疑われる』
アルの言葉に驚きを隠せない。
これは、大事件なのでは?





