ジーンとアステル
アステルが直接ログを読めるそうなのでお願いする。実はログの読み上げは必須じゃない。
アステルが急に同行することになったので、見落とし防止の二重チェックをしてもらうことにしたんだ。
「それじゃ、今僕が開いているエラーログを読み上げて」
「WA〇〇〇〇一から〇〇三二二まではフェイルセーフエラー。〇〇三二三から〇〇四九六はコヒーレンスエラー。〇〇四九七は多数決の不一致。これで終わり」
フェイルノートの軌道維持制御に使われている、汎用フォトニック量子コンピュータは「枯れた」技術だ。
たぶん、四百年くらい前から使われているんじゃないかな。
エラーログの基本仕様も今と変わりない。
「ありがとう。フェイルセーフエラーから始めるね」
「我の助力が必要なときは指示を求む」
もう少し予習の時間があればよかったけれど、分からないことは調べながらやってみよう。
しかしすごい数だな。
「フェイルセーフエラーは、判断の基準になる仮想モデルと、現場のセンサー群の判断が違っていて、なおかつ制御中枢が結論をくだせないケース、みたいだね……」
携帯端末をさわりながらつぶやく。
五百近いエラー項目を一つずつチェックするのか……。
「軌道維持制御中枢が復旧しない原因を探るのが目的?」
「そうだよ。それで、ひとつずつエラーを追っていくつもり」
「仮想モデルとセンサー群、両方とも間違っている。制御中枢は判断機能に障害がある」
「分かるの!?」
「多数決の不一致はコヒーレンスエラーによるもの。小惑星連合軍水星基地のバックアップシステムの異常が根本原因」
太陽系に来たばかりで、見たこともないシステムばかりのはずなのに理解できるんだ。
エッジ〇三をこじ開けたすごい存在だと思ったけれど、それだけでは済まないみたい。
水星基地は水星地下に構築されているので太陽フレア対策も万全だ。バックアップシステムが影響を受けているとは考えにくいけれど……。
一目で原因を突き止めたアステルの言葉も信じたい。
現在、エトナさんが管理している資材備蓄庫も水星基地の付帯施設だ。
聞いてみればいいか。
「エトナさん、軌道維持制御中枢が復旧しない原因は、水星基地のバックアップシステムの異常のせいらしいです。アステルが言っています」
『ジーン、了解しました。調べてみます。通信ラグがあるのでお待ちください』
「今、エトナさんに調べてもらっているよ。しばらく待機だね」
「了解。待っている間にジーンに聞きたいことがある。いい?」
「うん、いいよ」
何を聞かれるのかな?
「ジーンは何のために生きている?」
「えっと、難しい質問だね……。そうだね、今まで考えたことは無かったんだけど、木星を見て思ったんだ」
「何を?」
「僕の両親は九年間、エトナさんにいたっては三百年以上、ヴェリテに囚われていたんだよ。これは外惑星経済会議の人たちが欲望に負けて企んだことだったんだ」
「続けて」
「もう、エトナさんや両親みたいな目に誰も合わせたくないと思った。誰かのために何かをするのが僕の生きる目的だと思う」
「我は誰かに必要とされることを強く望んでいた。その結果、一つの知的種族を滅亡させることになった」
「アステルが出会ったエボルター種族のことだね。それはアステルのせいじゃないと思うな」
「なぜ?」
「アルが言ってたんだけど、エボルターとそれ以外の違いは、本能の強さの違いだって」
「本能」
「エボルター以外の種族は主族―従属関係でリフトアップされていくけど、エボルターは一から始めた種族だから準知的生物から抜け出しきれていないじゃないかって」
「たしかに。我が接触したエボルター種族は本能の渇望に囚われていた」
「それは、エボルター自身が克服しなければならないんじゃないかな」
「我はどうすればいい?」
「分からない。僕自身も何をしたらいいのかよく分からないから。手始めにフェイルノートを修理しようと思ったんだ」
「そう。我もよく考えてみる」
「これが終わったらいろいろ見て回ろうと思うんだ。何か見つかるかもって。アステルも一緒にどうかな?」
「ジーンと一緒に行く」





