Boy Meets It
突然、エッジ〇三が開いたことで、みんな黙りこんでしまった……。
あり得ないことが起これば、そうなるのかもしれない。
「エッジが開くのはもっと先だったんじゃ?」
僕は沈黙に耐えきれず質問をする。
「はい。エッジが再び開くのは、四百三十二年後です……と言いましたが」
「しかも、開いたのはエッジ〇三だけだね。残りの二つは閉じたままだよ」
コハクさんが付け加える。
「エッジ〇三に転移反応」
転移反応。これは知っている。エッジから何か(普通は宇宙機だ)が現れるとき、特徴的な電磁波をともなう反応だ。
『エッジが開いた途端に転移反応ですか。この現象と関係あるのでしょうね』
エトナさんの言うとおりだと思う。
「どちらにしろ、確かめに行くべきだ。近いんだろう?」
アルのもっともな意見。
「……行ってみるしかないようだね」
エッジ〇三、太陽から一光分の距離を保ちゆっくりと公転している。
ケプラーの第三法則を無視する軌道。目には見えず、レーダーにも映らない。質量すら無い。
そこを宇宙機で通り抜けても何の反応も示さない。そういう場所だ。
跳躍艇は、すでに金星公転軌道まで来ている。
このまま進めば十分と経たずに、エッジ〇三に到達できるはずだ。
またもや跳躍艇は沈黙に包まれ、時間だけが過ぎていく。
「まもなくエッジ〇三」です。ノワールさんのアナウンス。
再び壁に宇宙が映しだされる。
正面に太陽。眩しい。
縁から大きなプロミネンスが走っているのが見て取れる。
急激に太陽が暗くなる。ノワールさんが調整したのだろう。
暗く輝く太陽を背景に、白い球体がそこにいた。
比較対象が無いので大きさは分からない。
どこからが表面かも判然としない、ぼんやりした光の玉だ。
目を凝らせば無数の幾何学的なパターンが見えてくる。
集積回路のようだったり、神経細胞のようだったり、目まぐるしく移り変わっている。
「いと尊き御方の忘れ形見! なぜここに……」
コハクさんが震える声で言った。
「あれから三百余年、何という不思議な巡りあわせでしょうか」
ノワールさんも感慨深そうにつぶやいた。
「すまないが、話が見えない」
「アル。あの白い球体は、尊き御方が残した卵胞から孵りました。尊き御方の御子たる存在です」
「ノワール、通信を送ってくれないかい。お前さんの出自も添えてね」
「応答なし。エネルギー分布から鑑みて意識を失っている可能性があります」
「そうかい。このままじゃ太陽に落ちちまうね。そっと抱きとめておくれ」
跳躍艇の触手状のマニピュレータが、白い球体を丁寧に受けとめた。
そのままフェイルノートに向かう。
「忘れ形見とか御子とか言ってるけど、この子自身の名前は無いの?」
気になったので聞いてみた。
僕もナルヴィの息子とか、アリスの息子とか、いつも呼ばれるとしたらちょっと嫌だ。
僕には「ジーン」って名前があると言いたくなると思う。
「アライアンスの使者は、星の遺児と呼んでいました。これも名前とは言い難いですね」
「ライラはアステルと呼んでいたよ。ライラが親権を主張したときは驚いたねえ。アライアンスの使者もたじたじだったよ」
「フルネームはアステル・アエティアだそうです。ライラの因子に反応して孵化したのは事実です。ライラは、あの子は私の娘だと主張しました」
娘……女の子なんだ。
「アステル……」不思議な響きの名だ。





