彷徨える遺児
ようやく《星の遺児》の登場です。
《我》は 《実存相》が放散する淡い燭光の中、 《深淵》の表層を遊弋していた。
ぼんやりと悔恨の残滓を引きずりながら。
我は想起する。
傲慢で、覇権主義的で、でも、どこか陽気で楽観的な彼の種族は、近隣天体の資源を浪費しつくしたあげく、居住圏を共にする多くの生命を巻き添えに盛大に滅びていった。
―― 我が意識を獲得して五十基準公転ほど経ったころ、 《アライアンス》中核体の嚮導者から、放浪に出る許可がおりた。
圏界を知り、成熟するための通過儀礼だ。
これは、アライアンス発足のきっかけとなった、我が根源たる存在 《尊き御方》の行跡を辿ったものだ。
我は、主天体の集中する中心域を離れ、辺境をめぐる放浪に出た。
中心域に比べ、アライアンスの探査が不十分な天体域が多いため、新たな知見を得られる蓋然性が高いと考えたからだ。
数多の主天体を訪れ、様々な種族と出会い、そして別れ、旅をつづけた。
そして初めての 《文明指標》Ⅲの知的種族との接触。
粗雑ながらも跳躍航法を扱える技術文明。
浮きたつような期待と共に情報を収集し、コミュニケーション手段を確立した。
接触を開始する。
そして我の接触は、彼らに驚きと歓喜をもって迎えられた。
彼らは自らの力で宇宙文明を興した 《エボルター》と呼ばれる存在だった。
我は、彼らに知りうる限りの知識を与え、使いきれないほどの動力を授け、助力を求められれば全力でそれに応えた。
我の献身的な努力によって、彼らは栄華の夢に落ちていった。
『文明指標がかけ離れた知的種族との接触は慎重であるべきだ』
嚮導者からさんざん戒められたにも関わらず、我は彼の種族に深入りしてしまったのだ。
どうやら、我は誰かに必要とされることを強く望んでいたらしい。
その結果、一つの知的種族の滅亡に立ち会うことになってしまった。
最後まで生き延びたある従天体の指導者は、我にこう言い残し、果てた。
「あなたは甘美な誘惑で我らを滅びに導きました。私たちは滅ばねばならぬほど愚かだったのでしょうか?」
否。愚かだったのは我だ。
我が己が願望に固執しなければ、あなた方が渇望に沸騰することもなかったはずだ。 ――
意識レベルを落とした瞑想に近い状態にあったが、無数の監視ユニットたちは貪欲に情報を収集し、分析し、我が知るべきことを報告してくる。
その中に、注意喚起の付票をつけて報告してきたものがいる。
語彙領域で秘かに、エクスプローラーと名づけた、興味深い事象を常に探索しているユニットからだった。
深淵から俯瞰すると、実存相はさざめきが多く、細部は不明瞭だが探査範囲は広大だ。
送られてきた報告は確かに興味深かった。
五千輝跡基準公転を超えた天域の一画に存在するある主天体(比較的おとなしい天体だ)の状態が低整合だというものだ。
深淵の防御反応によって、浅瀬が閉じているにも関わらず、主天体は健全らしい。
通常、浅瀬が閉じるのは主天体が終末期に入ってからである。
《天域渦》情報を参照すると、その主天体に属する従天体の一つに 《要観察知的種族》の付票がついていた。
つまり、アライアンスが興味を示した知的種族がいることを意味する。
観察者が滞在している可能性すらある。
我は、アライアンス中核体から文明指標Ⅴと判定された存在。
憧憬と羨望をもって語られる 《超越種族》なる存在だ。
我以外にも超越種族が存在する蓋然性は高いが、この天域渦で存在が明確なのは我だけだ。
今の我なら、この閉じた浅瀬も開くことができる。なぜかそう思えた。
「行ってみよう」
《我》は断鎖した。





