太陽系周遊 ~前日の光景~
「待ち構えていた私が、ニードルキャノンでヴェリテを撃ち抜いたわけです」
ノワールさん、心なしか得意気。
直径三ミリ、長さ五〇ミリの弾体を揺らして見せびらかせている。まるで短い爪楊枝みたいだ。
「ご苦労だったね、ノワール。アルもよくやったよ」コハクさんがねぎらう。
『ノワール。よくあの小さな伝導装置だけを破壊できましたね』エトナさんが質問する。
「夜も寝ないで働いて、何とか完成させた自慢のニードルキャノンです」
「ノワール……あんた眠る必要があるのか?」アルが突っ込んだ。
なんだかんだでこの二人、仲いいな。
「それにしてもアル、最後の跳躍は瞬間的にですが二八Gの荷重がかかりましたよね? よく脳が無事でしたね」
あ、ノワールさんがごまかした。
「高Gに備えていたからな。気合で耐えた」
気合で何とかなる話なの? と思ったけれどアルが無事だったなら別にいいや。
「なるほどなるほど、気合ですか。それは無視できないファクターです」
「そうか? 体に染みついた耐衝撃手段を取っただけだ。脳だけ生身の俺には関係ないだろう」
「推測するに、脳保護のシステムが優秀だったのだと思います。気合に反応して脳室の液圧が同期されたのでしょう」
「そうだったのか。シガ・シェルターの技術者に感謝だな。今度、お礼の通信を送ろう」
「よい考えです! そのときは私も同席させてください」
「まあいいが……その姿で画面に映るなよ」アルが釘をさす。
『私からの報告は以上になります』アルとノワールさんの掛け合いに、声に苦笑をにじませてエトナさんが言った。
三百年以上昔に端を発した長い長い物語が終わった。
跳躍艇に搭載されている、ニューログラフの原型になったすごい機械で追体験したんだ。
「エトナも長期間よく耐えたね。これからどうするね?」コハクさんが問う。
『そうですね。図らずも人間の意識ストリームに晒されたおかげで、意識の本質についての理解が進みました。この知見を、他の機械知性たちにも伝えたいと考えています』
「機械知性の意識や感情は、生物とは一線を画しているからねえ。がんばればいいさ、大変だと思うがね」
『コハクは機械知性に詳しいのですね。様々な種族から指摘されましたが、私たちが意識や感情だと認識しているものは、生物のそれとは本質的にかけ離れていると言われています』
「三七小隊のヒロから教わったのさ。あいつは思考機械に人間の感情を理解させた実績があるからね」
『それは実に興味深い話です。エッジが開いたら是非お会いしたいですね』
さっきもヒロって人の話が出てきた。アルがすごいって感心していたね。
「待たせたね、ジーン。両親の再生には時間がかかるからね。宇宙探検としゃれこもうじゃないか。どこか行きたいところはあるかい?」
ヒロさんのことをぼんやり考えていたら、僕に話が回ってきた。
宇宙探検だ。やった!
「えっとね、近くで太陽が見たい! あと水星L5のフェイルノート。あそこには、全長二百キロのリニアコライダーがあるんでしょ? 木星や土星も見てみたいな。あとは、エトナさんがいたエンケラドゥスにも行きたい!」
「おやおや、ジーンは欲張りさんだね。いいさどこにでも連れていくよ」
「やった!」
飛び上がるほど嬉しい。
ノーザンエンドで僕を待っているトールにも、地球に帰ったら自慢しちゃおう。
コハクさんやノワールさんのことは内緒、口止めされているからね。
エトナさんが経験した事件のことも秘密。僕だって言われなくても分かるよ。
「その前に食事にしようかね。補完機能のせいでお腹が減っただろう? 便利なのはいいんだが何とかならないもんかねえ」
コハクさんがぼやいた。





