キース(アルファ)確保計画 2
『ようやく、私たちはキースの生存を確認できたのです。機械狼のアルファになっていましたが』
『アルをどうやって誘いだすかは最初から決めていました。通信塔の機械知性、ノワールを罠にはめる計画です。あそこには変わり者の機械知性がいるからとアリスが主張しました』
「なるほどなるど。よい狙いです。彼女と私は仲良くやっていましたから」
ノワールがうなずいている。
機械知性を攻撃するとなると、入念な準備が必要になる。
長い時間を必要とする地道な計画が立案された。
およそ九年間かけて、通信塔の機械知性、ノワール攻略の準備を整える。
計画の概要は、エトナさんが受けた仕打ちと似たような内容だ。
地球に残っているトランサンデのシンパサイザーを使い、ノワールのコアユニットを移設する計画だ。
シンパの中にアリスのお眼鏡にかなう女がいたからだ。
地球にまだシンパが残っていたんだ! 三百年だよ!
トランサンデは三百年以上前に、シミラ人科学者、ラザード博士に心酔した地球人たちによって創設された支援組織だった。
ラザードの悲願 《超越計画》。
上位種族を超越した存在を造りだす計画を、未だに信じて行動しているなんて……。
ノワール攻略の鍵は異星種族の分子機械。
ヴェリテには、コアユニットと生体脳を接続するための太いケーブルがある。
その内部は分子機械で満たされている。
ラザード博士は、この分子機械の情報を、同時に入手した思考機械から得ていた。
知的種族共同体 《アウトノーマ》でも解析不可能な機械だったが、思考機械は発動コマンドを知っていた。
トランサンデの幹部だった、カリスト隔離研究施設のシステム解析班主任も知らされいた。
ヴェリテに囚われている、両親とエトナさんも今は知っている。
移送の際、機械知性のコアユニットはソケットから引き抜かれ無力な状態になる。
そのとき、ノワールのコアユニットの人格オーバーレイを書き換えて、分子機械に接続されたソケットに装着する。
機械知性のコアユニット中枢部へのアクセスは不可能でも、人間の手によって開発された人格オーバーレイは別だ。
トランサンデによって、人格オーバーレイのセキュリティ上の脆弱性が発見されている。
これでノワールを意のままに操ることができる。
問題は、分子機械の増殖に長い時間がかかることだった。
準備にかかった九年のうち、大半を占める時間を増殖に費やす必要があったんだ。
通信塔にアルを誘い出してしまえば、機械狼のボディをハッキングするのはたやすいと思われた。
あとはシャトルに積んで宇宙に打ち上げるだけだ。
「残念でした。私に人格オーバーレイは備わっていません。それにアルの補助電子脳は私が作った特別製です。ハッキングは無理ですよ」
『アリスも人格オーバーレイが載っていない機械知性が、地球に存在するとは思ってもいませんでした』
アルは気づいていたな。なんて感覚が鋭いのだろう。
ついに、分子機械の増殖が終わりノワール攻略が開始された。
隕石に偽装されて地球に落とされた分子機械のカプセルは、無事にシンパの手に渡る。
ある日、一人の女が通信塔を訪れた。その女はトランサンデのシンパだった。
今はハブ・ジャッカーに身をやつしている。
代々シンパの家系で、ラザード博士の肖像画を家宝としているような家庭で育った女だ。
その女が通信塔に出向きノワールと直接交渉を開始する。
シンパの女は語る。
私たちは、ハブ・ジャッカーとして生活をしているけれど、誰もこんな生活を望んじゃいない。
私たちは生まれた時からハブ・ジャッカーなのよ。と。
嘘だ。彼女はロサンゼルス・シェルターの出身で、シェルター内で犯罪を繰り返し捕まる寸前に逃げた女だ。結婚詐欺の常習犯。
女は涙ながらに続ける。
でもノワール、あなたの力があれば……。
犯罪者と、仕方なく従っている弱者を選別できるはず。
私たちのグループは世界中のハブ・ジャッカーに呼びかけることが可能なシステムを持っている。
私たちの隠れ家に来てください。
そして、世界中のしいたげられているハブ・ジャッカーを救ってくださいと泣きながら懇願した。
エトナさんとお父さんは、こんな手で引っ掛かるの? と疑問を持ったがアリスは知っていた。
ノワールが若い女に頼られるのに弱いことを。
女の隠れ家は意外なことに通信塔から約三十キロ地点にある中継拠点の地下にあった。
お母さんの知識を総動員して、中継拠点に寄生するように建設された違法施設だ。
すでに分子機械のカプセルが持ち込まれて準備は万端だ。
ノワールは女の言葉に感銘を受け、ほいほいと願いを聞き届けた。
女は、ほくそ笑みながらノワールのコアユニットを引き抜く。
その後、ノワールは通信塔に戻ることはなかった。
通信塔との通信が途絶した。
累計1,000PVを達成しました。
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