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少年と宇宙  作者: 津本ジオ


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キース(アルファ)確保計画 1

「私がヴェリテにお見舞いしたのは猫パンチと呼ばれる秘技です」

「おい、しれっと嘘を言うな」アルが突っ込む。

うん、僕も今のは嘘だと分かったよ。


実はアル、猫を飼っていたことがある。

僕が生まれる前……いや、違うな。ポイント・ズールーで発見される前のことだ。

世界各地のシェルターで育てられている犬や猫、小動物たちは、法的には保護動物なんだ。

無策に増やすと、閉鎖された地下空間では居住環境に悪影響が出るからね。

シェルター評議会の監視のもと、遺伝的多様性を確保しながら慎重に世代交代が進められている。

でも、ときどき、人間と動物の間に生じる免疫の、脆弱化防止のために一般社会に解放されるんだ。


各シェルターが稀に実施する「自然繁殖における里親募集」がこれに当たる。

機械知性の提案により始まった制度だ。

里親募集で人が移動することも多いしね。

人間の遺伝子プール拡充のための施策(しさく)でもあるんだよ。

アルも里親募集でノーザンエンドまでやってきたしね。


仲睦まじい成猫二匹の里親になったアルは、傭兵(CS)を辞めてノーザンエンド調査課に所属することになった。

八歳の猫たちと生活を始め、半年後に出産、四匹の子猫を産んだんだ。

子猫たちは生後半年で里子に出して、世界各地の新しい家族にもらわれていった。

三年後に父猫が亡くなり、翌年、母猫が虹の橋を渡った。

死後の剖検(ぼうけん)で判明したけれど、人間より猫の方が免疫力の低下が(いちじる)しかったようだ。


『私が逃走したのは、超指向性の電磁パルス(EMP)を浴びたからです』

エトナさんが種明かしをする。

「ここからEMPを放射できるのです」

ノワールが右前脚を掲げ、小豆色の肉球を見せつける。

『EMP攻撃を受けて危険な相手だと認識しました。脳を確保した状態で相手にしたくなかったのです』

「それはこちらも同様です。停滞フィールド発生装置への影響を考慮せざるをえませんでした」


『そうですね。もう少し高出力でしたら停止していた可能性があります』

あの「ぺしり」がもう少し強ければ両親が死んでいたかもなんて……。

ノワールさん怖すぎる。

『その後、二人の脳を持ち去った私は、資材デポ用の小惑星に隠れ、二人の脳と接続しました』

ああ、言葉を選んで生々しい表現を避けてくれたんだ。

『二人の記憶がなだれこんできました。アリスはシステムエンジニア、ナルヴィは高い統率力をもった指導者タイプでした』

うん、お母さんはそうだね。お父さんはいつも微笑んでる印象だけど指導者タイプなんだ。


『そして、キース……今はアルですね。ヴェリテに真っ向から立ち向かったあなたは特に印象に残りました』

「そりゃ光栄だ。全く歯が立たなかったがね……」アルが答える。

『そして私たちは一緒に考えました。ヴェリテのシステムを出し抜くことを』


しかし、ヴェリテに報酬系を握られているエトナさんと両親に反抗は難しい。

さらに、嫌悪系とでもいうべき脳機構を備えた人間にとって、機械知性よりも抵抗は困難だっただろう。

ヴェリテの束縛を打ち破ろうと考えるだけで、(すさ)まじい恐怖感に襲われるようだ。

長いヴェリテとの闘いでエトナさんが身につけた、断片的な思考を短時間繰り返すことで対応する方法を二人に伝授した。


鍵になるのはキース(アル)だ。エトナさんと両親の意見は一致した。

最後に見たキース(アル)はひどい状態だったが、只者ではない謎の黒猫が救ってくれていると信じた。

まずは、キース(アル)の安否の確認から始める。

潜伏している小惑星にレーザー通信設備を構築。火星軌道上の通信中継ステーションをハッキングして踏み台にする。

これで地球を守る監視衛星群とのリンクができた。

キースが無事なら必ず地球に帰るはずだと両親は考えた。

地球には僕がいるからだね。


監視衛星が、大気圏への突入を試みるオブジェクトを発見。

広域防衛網に属する中継ステーションにも通報がはいる。

停滞カプセルの降下用ポッドだ。

ポッドはシガ・シェルターが回収予定との付記。

あそこはスペースプレーンを持っているからね。


キース(アル)だ。

そう確信したお母さんはシガ・シェルターへのハッキングを開始。

統括知性の目が届かない場所、違法なオンラインカジノに目をつける。

そこにカジノがあると知っていたわけじゃない。

シガ・シェルターほどの規模なら必ずあると推測したんだ。

お母さんはギャンブルは嫌いだけれど、アンダーグラウンド(ダークウェブ)には目がないそうだ。

アルが教えてくれた。


お母さんは、隠語で流布する情報を当たり、オンラインカジノの存在を突き止めた。

顧客リストにハッキングをかけて、シガ・シェルター居住者のうち賭博債権がある者を検索。

該当者は八名。そのうちの一人は高度医療施設の職員だ。

その職員にあたりをつけ、オンラインカジノを通じて取り引きを持ちかける。

突然のジャックポット(大当たり)の演出にその職員は大いに驚いただろう。

演出にかぶせて要求と対価を表示。

要求する情報は、回収された停滞カプセルに乗っていた人物の名前と、その後どうなったかだ。対価は債権の消去。

その程度のことで借金が消えるならと、その職員は喜んで承諾した。


職員からの報告。

救助者はキース・エヴァレット、ノーザンエンド調査課の職員。

体を失い要人警護用ロボット 《ウルフパック》の隊長機(アルファ)に脳移植。予後良好。

それからは、通名としてアルファを名乗りはじめる。とあった。

当たりだ。

両親はキース(アル)の無事を喜んだ。

エトナさんも、キース(アル)を次の標的にできて嬉しそうだ。

彼なら必ずヴェリテを倒してくれると秘かに期待しつつ。

ヴェリテの目的にも合致するこの計画に邪魔は入らなかった。


お母さんは約束どおり職員の賭博債権を消去。

オンラインカジノごと。

お母さんはギャンブルが嫌いだ。

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激動への序章 ~来訪者~

激動への序章 ~来訪者~

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