セレスの惨劇、再演 2
『セレスの制御を引き継いだ補助ユニットを排除しようと試みましたが、超分散型のシステムらしく何度も逃げられました。地球人の思考機械は侮れません』
アルがセレスに来たときに会話をしていた補助ユニットだ。
ヴェリテから逃げ切ったのはすごい。
『地球から、セレスの調査に来る人員はメインポートに入港する可能性が高いので、そこを待ち伏せ地点に選びました』
ヴェリテがメインポート周辺のセンサー群を潰してまわるイメージが浮かぶ。
『そして約半年後に調査員がやってきました』
ヴェリテの制御下にある観測機器が惑星系内シャトルの姿を捉えた。
調査課の三人が乗っているシャトルだ。
シャトルのインタロゲータから質問派が届くが、セレスの補助ユニットは応答しない。
地球との通信を遮断しているためだ。地球から飛来した可能性がある宇宙機も同様に扱われる。
セレスのシステムに直接アクセスして解除しなければ地球との通信は途絶したままだ。
シャトルは微弱な重力に抗しながらメインポートに接近するが、突然進路を変更した。
メンテナンスハブの一つに向かっている。セレス表面の保守整備用の出入口だ。
なんで急に進路を変えたのかって? アルの勘ってやつだ。
計画に狂いが生じたヴェリテは現状を打破するために情報収集を開始する。
セレスに来て、最初にクラッキングを仕掛けた輸配送システムのバックドアを使い、上位の物流管理システムにアクセス。受動的に状況を監視する。
メンテナンスハブにシャトルがドッキング。
乗員一名がトランファー・トンネルを伝いエアロック予備室に移乗。
乗り込んできた乗員が予備室の端末を使い補助ユニットと交信している。内容は不明だ。
ヴェリテは焦燥感を感じる。思わぬ方向に事態が展開しているためだ。
一旦、エアロック予備室にいる乗員は無視。
シャトルに残っている乗員を狙う。シャトルの乗員が一名だけという蓋然性は低い。
メインポートのエアロックを荷電粒子ガンで狙う。
一射目でエアロック内扉が爆散、二射目で外扉も同様の運命をたどる。
鳴り響く警報音が徐々に小さくなり消えた。メインポートが真空に晒されたんだ。
ヴェリテは最大加速の十Gで惑星系内シャトルへ向かう。
待って、そっちに行かないで! お父さんとお母さんがそこにいるんだ。
僕の心の叫びを無視してヴェリテは進む。
シャトルが視界に入る。透明セラミックの窓越しにコックピットが見える。
急減速しながら、両手を閉じ、円錐状になった先端を窓に突き立てる。
瞬間、眩い閃光を放って透明セラミックを貫通。
衝撃と共にセラミックの粉塵がコックピットを満たし視界は真っ白だ。
続けて、窓を失ったシャトルから爆発的に空気が吸い出される。
空気の奔流を歯牙にもかけず、ヴェリテがシャトルに侵入する。
気密隔壁をなぎ倒しながら通路を進むと小さなラウンジ、その先にエアロック。
現在二名が使用中とパネルに表示されている。
ヴェリテがエアロック内扉に慎重に腕を突き立てる。
異音を発しながらこじ開けた内扉を、無造作に引きちぎりエアロック内に入る。
中には、気密服にヘルメット姿の男女がいた。お父さんとお母さんだ。
お父さんは気を失っているようだ。二人とも外傷は無い。
ヴェリテは、罪悪感と歓喜が入り混じった奇妙な感覚を味わいながら裁断機を振りあげる。
お父さん、お母さん! お母さんは目を見開いてこちらを見上げている。
ヴェリテの補助腕が一瞬止まる。
ああ、エトナさんが抵抗しているんだ。がんばって、エトナさん!
しかし抵抗空しく、補助腕の先端にある円盤状の裁断機がお母さんに向かって振り下ろされる。
目をそむけると、同時に投影されていたイメージも消える。
補完機能の解説がはいる。
このあと、裁断機が頸部を切断しながら内蔵された停滞フィールド発生装置を作動。
生存したままの頭部を確保。
これから、ラウンジでもう一人の乗員と対峙する場面だ。と
そして映像が再開される。
目の前に一人の男が立っている。
ヘルメット越しだが、琥珀色の瞳と深い皺が刻まれた精悍な顔立ちに覚えがある。
機械狼アルファになる前のキースの姿だ!
アルはヴェリテを見て一瞬動きを止めるが、異様な怪物が手にしているヘルメットを視認するや、魔法のように銃を構えた。
音の無い真空に閃光が3回。宇宙用無反動銃の発射炎だと補完機能から伝わる。
ヴェリテに命中するが無反応。弾着の衝撃を感じていないみたいだ。
アルは銃を捨て、右腕を腰に回して何かを放り投げる。
あれは何? と思ったが、補完機能は無言だ。
「あれは、パルスロッドだ。先端が接触すると衝撃波に包まれる。傭兵時代に愛用していた護身装備だ。衝撃波を食らえば屈強な兵士でも一発で気絶する。ヴェリテには無駄だったがな」
アルが代わりに解説してくれた。
確かに、ヴェリテの胸部に衝撃が走ったのが見えたけれど一瞬で減衰した。
今度は、アルが肩にかけていたパルスライフルを構える。
シャトルの中で使うような武器じゃない。
フェムト秒単位に凝縮されたレーザーパルスを標的にぶつけ、プラズマ化させて破壊する銃だ。
これは知っている。地上での所持には厳密な規制が敷かれている武器だ。
所持許可が下りることはめったにない。それこそCS、コメンデッド・ソルジャーでもなければ。
パルスライフルに対するヴェリテの判断は早かった。
背部嚢から荷電粒子ガンを取り出し ―― 右の補助腕、細い腕を使ってだ。
一瞬でアルを照準する。
アルの反応もまた早い。荷電粒子ガンを目にした瞬間、胸元をパルスライフルで防御。
発射。閃光を発してパルスライフルが爆散。
荷電粒子が通過したアルの胸には大きな穴が開いている。
ヴェリテは荷電粒子ガンを手放し、背部嚢から裁断機を取り出す。
首を切り落とそうとアルに迫ったその時、黒い影がアルの前に立ちはだかる。
琥珀色の目が爛々とこちらを睨んでいる。
ノワールの登場だ!
ふわりと軽やかにジャンプすると、ヴェリテの扁平な頭頂部をぺしりと叩いた。
銃弾にもパルスロッドにも無反応だったヴェリテが突如反転、シャトルから脱出していく。
僕の両親が入ったヘルメットを抱えたまま……。
ノワールは連れてきた気密ストレッチャーにアルを収容。
「遅れて申し訳ありません。まさか通信途絶の原因がヴェリテだったとは……」ノワールは誰に言うでもなく独り言ちた。





