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地球の少年、星の遺児  作者: 津本ジオ


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調査隊出動!

ノーザンエンドから物資搬入用エレベーターを使って地上に出てきた僕は、屋根付きの整備区画でセンチネルのプリデパーチャーチェックを行っていた。寒さに震えながら……。

そろそろ出発時刻なので相棒が現れる頃合いだろう。

そこへ、のんびりとした歩調でやって来たのは、狼を思わせる機械だった。

体長は約一・五メートル、体表の装甲プレートが織りなす幾何学的な外観のボディは、氷原での被視認性を上げるためか鈍い赤色になっている。


落ち着いた視線でこちらを見上げるその姿は、高い知性の存在を感じさせる。

そして前手(ぜんしゅ)で器用にコパイシート側のハッチを開けて話しかけてきた。

「おはよう、ジーン。準備はできているか?」

ドアから外気が吹き込んで、一気に車内の温度が下がる。

「うん大丈夫だよ、アル。あとは発進手順(プロシージャ)だけ。それより寒いから早く中に入って」

「了解、生身の体は不便だな」

するりと身軽に車内に乗り込んできた機械狼。彼の名は《アルファ》、僕はアルって呼んでいる。外見は機械だが内に宿る精神は(まぎ)れもなく人間だ。


九年前、アルと僕の両親はセレスの星間ゲート管理施設の調査に向かったが、そこで何か事故が起きたらしい。

事故のあと、重傷を負ったアルだけが戻ってきた。体の大部分を失っていたが脳だけは何とか無事だったそうだ。

おそらく、メインベルト(小惑星帯)各所に配備されている無人自動救難機に救い出されたのだろうと推測された。

そして救助後、停滞カプセルに入れられて地球へと送り返された。

地球最大規模のシガ・シェルターに送られた彼は、人間型アンドロイドのボディを与えられる予定だったが、自分のためにわざわざ新たにボディを設計する必要は無いと、現在(まと)っている機械狼の体を選択した。過去に要人警護用に使われていた《狼の群れ(ウルフパック)》型ロボットを、《豊穣の角》で製作したのだ。

最新のサイボーグ技術で、無事だった脳を機械の体につなぎ、新たな体を得た彼は()()()過去の名前を捨て隊長機の型式名アルファを名乗っている。


リハビリを終え、シガ・シェルター当局の聞き取り調査が始まったが、彼は事故当時のことをほとんど記憶していなかった。

アルファとなった彼は、ノーザンエンドへの帰還を希望した。

そして、ノーザンエンドに戻ってくるなり調査課に辞表を出し、国際シェルター会議に傭兵復帰を申請した。

正式には、かっこいい役職名があるんだけれど、アルは(かたく)なに自分の立場を「傭兵」と呼んだ。

晴れて傭兵に復帰したアルは、ノーザンエンド評議会の戦略・戦術アドバイザーとして活動を開始した。

そして、嬉しいことに僕の後見人になってくれたんだ。

今は、僕が住むコンドミニアムに居候している。


水素タービンの始動までを終えたチェックリストを眺めながら、発進手順に取り掛かる。

「油圧ブレーキ、作動確認。アクティブ緩衝装置、作動確認。作業補助腕、目視確認。独立操舵装置、目視確認……アル、ちょっと右側を見てくれる?」

「動いている。問題ない」アルが短く答える。

二人がかりで手順を進めていく。

「脚部展開、目視確認。それじゃあ脚を伸ばすよ。揺れるかも?」

「どうぞ」

履帯に接続された四本の支脚がゆっくりと立ち上がり、更にアブソーバーが伸長して、全高が四メートルほどになった。

「いいみたいだね。巡行モードに切り替えるよ」

巡航モードに切り替えると、車高がぐっと下がりコックピットの位置が地上二メートル程度に落ち着いた。

「水素タービン、出力をミリタリーへ」

「定格出力への到達を確認した。チェックリスト完了だな」

「チェックリストの完了を確認! アル、じゃあ行こうか!」

「ああ、いつでもいいぞ」

興奮気味に声をかけても、いつものごとく冷静なアルだった。


と、そのとき、車外から声をかけられた。

「おーい、ジーン。待ってくれ!」

防寒着に着ぶくれた赤毛の少年が、ヘルメットから白い息を漏らしながら手を振っていた。

「ん、トールか!?」

トールは僕と同い年の少年だ。

両親が行方不明になって以来、人付き合いを避けるようになっていた僕と、今まで友人でいてくれた、たった一人の親友だった。

「その中、寒いだろう? ギリギリ間に合って良かった!」

元々が軍用の車両なので、重要なパーツの保護はしっかりしているが、乗員の快適性はあまり考えられていない設計だ。

寒ければ耐寒服を着用しろ、という考えだったのかもしれない。

もちろん、摂氏マイナス二百度でも快適に過ごせる耐寒服は持ち込んだが、コックピットに入りきれないのでコンテナに詰め込んである。

ノーザンエンド建設中は、太陽光レーザー変換施設フェイルノートからレーザーを照射して地表を温めていたそうだ。

というわけでセンチネルのコックピットで(こご)えたのは僕が初めてらしい。


「昨日、整備をしているときに気づいたんだけど、耐寒服を着てコクピットに入れないよね? 最新のは性能は良いけどかさばるし……。この車両、元々は軍用の設計だし、暖房もあんまり効かないかなと思って……」

そう言いいながら、トールは大きめの弁当箱みたいなものを持ち上げてみせた。

「プルトニウム発電機だ。大昔の外惑星探査用の発電ユニットだけど、崩壊熱で暖房代わりになると思ってさ」とトールは微笑む。

「ねぇ、トール。プルトニウムって大丈夫なの? って、そんなものどこにあったの?」

僕はトールに疑問を投げかける。

「あるわけないさ。昨夜思いついてドナルド(じい)さんに相談したら、急いで《豊穣の角》で作れってさ」

「あのドナルド爺が?」

「珍しく焦ってたな。ジーンのことが心配なんだよ」

ドナルド爺の焦った姿……。そんな貴重なもの、僕も見たかったな。


「ちょっと待ってて。すぐ取り付ける」

トールはコックピット下部のメンテナンスパネルを開けて、作業を始めたようだ。

しばらく経つと、コックピットが徐々に暖かくなってきた。

「どう、温まってきた? 簡単に取り外せるから中継拠点(ハブ)に泊まるときは持っていくといいよ」

「おう、快適快適! ありがとう、トール」

「あと、管理責任者はアルファにしろって。ジーンは分解しかねないって、ドナルド爺さんが言ってた!」

コパイシートのアルが前手(ぜんしゅ)でコンソールをごそごそやっている。

「了解した。ジーンには分解させない。受け取り確認のサインは送っておいた。確認してくれ」

「はいよ、管理責任者アルファ。引き渡し完了っと」

トールとアルが僕を無視して手続きを進めている。調査責任者は僕だぞ。


「じゃあ、ジーン。必ず帰って来いよ」

「もちろん帰ってくるさ。元気でな!」いつになるかは分からないけれどね。

トールに手を振りながら別れを告げる。

そしてアルに顔を向けて……。

「さあ、出発だ!」僕は微笑みながら言った。

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激動への序章 ~来訪者~

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