閑話 ~カリスト生命探査基金の職員~
短めの閑話を挟みます。
『こうして、主任は約十一年後に凍眠槽の停止により死亡しました。今もカリストの大深度地下で永遠の眠りについているでしょう』
エトナさんが言った。
追体験は一旦中断するようだ。
『私は主任が残した命令に従い行動を続けました』
命令に反した行動を取ろうと考えると、名状しがたい渇望感に襲われる。
その渇望感の一端を体験した僕は、エトナさんには抵抗できないと思った。
僕が味わわされた感覚は、フィルターで危険の無い強度まで落とされたものだったが、補完機能は、僕が受けた耐寒試験を引き合いに指摘した。
単純に比較はできないが、耐寒試験の数十倍の精神的負荷がかかっているだろうと。
僕が履修した氷原行動課程の必修科目に耐寒訓練があった。
訓練後の耐寒試験に合格しなければ履修を認められない。
耐寒服の内部温度を摂氏六度まで下げた状態で、二時間の行軍を行うものだ。
深部体温低下による眠気で朦朧としながら、五分毎に入る無線連絡を復唱する地味だが過酷な試験だ。
ゴール地点で最初の無線連絡の内容を、もう一度復唱せよと言われたときは絶望したよ。
二回も試験に落ちた。もう思い出したくもない……。
『一度、外惑星経済会議の実働部隊の襲撃がありましたが、主任が言っていた仲間の一人から作戦概要が送られてきたので、罠を張って一網打尽にしました』
高流動コンクリートで塞がれたシャフトを避け、内部海を渡って研究施設に接近、あとは氷を多く含む層を選び掘削する計画だった。
情報をもたらしたのは、皮肉にもカリスト生命探査基金に属する一人の職員。
自分の所属している組織が、外惑星経済会議首脳部のフロントであることを知らない人物だった。
彼は、カリストでの生命探査がラザード博士の研究につながると信じ、辺境のカリストで極秘裏に情報収集を行っていた。
ある日、物々しい装備の一団が、生命探査基金の活動拠点である内部海につながる大深度地下港に現れた。
この職員は、隔離研究施設のシステム解析班主任から事前に警告を受けていた。
封鎖された研究施設に到達可能なのは、内部海をおいて他にないと。
怪しい輩が現れたら、目的を探りヴェリテに警告しろと認証コードを渡された。
部隊の目的は、やはり主任の推測どおり隔離研究施設の制圧だった。
作戦については、上司のオフィスに侵入して端末の情報を探った。
ここは辺境中の辺境。秘密が漏れるわけがないと高をくくっていた上司は、多要素認証を解除して端末を使っていた。
定期的な更新を面倒がったのだ。
単純なパスワード認証を破り端末にアクセスすると、そこには外惑星経済会議からの命令書が存在した。
作戦概要を始め、整備、補給の支援、内部海情報の提供など数々の指令が記載されている。
カリスト生命探査基金は政府とつながっている?
男は自分の所属する組織の実態に迫ったが、それは些事だと捨て置いて命令書を読み進む。
作戦概要は、内部海を渡り隔離研究施設に接近。掘削が容易な、氷を多く含む層を選びながら施設に到達。
外部隔壁を指向性爆薬で突破して内部に突入、制圧するという内容だった。
隔離研究施設を守るヴェリテに作戦概要を送り、男は日常に戻った。





