A Nightmare on Callisto(カリストの悪夢) 2
そのあともロボット兵器はやってきた。
今度は二足歩行タイプのほかに、レーザー砲を装備した六足の戦車のようなものまで連れてきた。
実験室内を俯瞰する視点のまま、その様子を見守る。
ヴェリテも戦闘機動に慣れてきたのか、被弾することなく身をかわす。
砲身の軌道を先読みしてレーザーはかすりもしない。
一方、ヴェリテからの攻撃はロボット兵器群を的確に葬り去る。
二本のステンレス筒から交互に荷電粒子を放つたびに、ロボット兵器の残骸が増えていく。
最後の一体を倒すと「後続の脅威無し。排除完了」ヴェリテが宣言する。
『終わったか』防御隔壁の中から主任が言う。
『室内で使うようなものじゃないな。ここは核分裂弾頭の爆心地か? 線量が笑える数値だぞ。はははは』
『しばらくはここから出られんな。放射性物質の除去が終わるまでに、残った人員を排除してこい』
スピーカーから響く命令にヴェリテは実験室をあとにする。
ヴェリテがいなくなった実験室に清掃ロボットが集まり、ロボット兵器の残骸を回収していく。
空調が轟音を立て放射能汚染された塵芥を除去する。
二時間が経過するころ、防御隔壁が床に収納されて主任が姿を現す。
放射線防護服を着用した姿だ。
「ここに長居はできんな……」線量計を眺めながら足早に実験室から去っていく。
視点が変わった。狭い通路を進んでいる。
水平三百六十度のパノラマ視点だ。
ヴェリテの視覚に復帰したんだな。
『ヴェリテ、施設内の掃討は終わったか?』主任からの通信。
「残存人員の掃討完了」ヴェリテが簡潔に答えた。
さっきみたいなエトナさんの抵抗はもう感じない。
『よし、中央制御室に来い』
命令に従い、中央制御室に向かう。
広大な制御室の中央に据えられた椅子に主任が腰かけていた。
「ご苦労。この隔離研究施設を封鎖する」
最初からこの研究施設に設定されている緊急用メッセージパターンの一つを選ぶ。
『緊急報:実験体Xが暴走。緊急対応AAAを実行』
宛先は、カリスト生命探査基金。実態は外惑星経済会議首脳部のフロントだ。
緊急対応AAAは完全封鎖を意味する。
研究施設と地表をつなぐ、ただ一本のシャフトに高流動コンクリートを流し込み、外部との接続を完全に断つ。
「これを送ると、過去二十四時間の映像記録、環境データが同時に送られる」端末の前で指を揺らしながら主任が笑う。
「儂が映っている映像を全て消せ。ああ、助手の映像は消すなよ? 最後の表情は傑作だった」
助手さんが実験室に戻って来たときの映像のことか。
この主任、本当に悪趣味だ。
「了解。システム解析班主任をオブジェクトとして生成消去。消去完了」
主任が端末のキーを叩く。
「封鎖完了だ。この映像を見て、ここに来ようと考える馬鹿はいないな。ふふふ」
もし、馬鹿が来たなら殲滅しろ、と笑顔で付け加えた。
「まあいい。まずは、この装置を完成させろ。お前の劣化を防いでいた装置だ。だが、盗掘屋が壊してしまった。野蛮人どもめが」
中央制御室正面に設置された巨大なディスプレイを指す。
そこには、ヴェリテを気の遠くなるほどの時間から守った、停滞フィールド発生装置が映し出されていた。
「停滞場に関する装置と推論」
「お前に搭載されている動力炉で動かせるはずだ。この力場に守られて、優秀な脳の情報を待つとしようか。なあに、太陽系中に仲間はいくらでもいる」主任が悦に入った笑いを漏らす。
「装置の詳細情報を求む」
「同時に発見された思考機械からの情報だ。使え」
主任が携帯端末から情報を送る。
「研究施設に存在する資材では製作不能と判断」
「ううむ……何とかしろ」
「了解。加工機械の製作から開始した場合、三……三年後に完成予定。誤差プラスマイナス五パーセント以内」
エトナさんが今、何かに抵抗した。
あ、分かった。三百年と答えようとしたのを阻止したんだ。
ここにある資材、特に重金属の純度が百パーセントの場合、三年で可能だと言い換えたんだ。
純度百パーセント。
地球人はもちろん、アウトノーマに属する種族にも作れない。
上位種族だけが作れる金属。
エトナさんって本当にすごい。
命令に背かない、ぎりぎりの線を狙った。
このタイミングのために、ずっと機会をうかがっていたんだ!
「三年か。それくらいなら凍眠槽の電源も十分に持つな……」
「分かった、ヴェリテ。装置の製作が終わったら儂を起こせ。並行して失った臓器の修復も行え」
「了解」
「よし、通信が入っても返答せず記録だけに留めろ。儂はこれから凍眠槽に入る。電源の維持も忘れるな」
主任は壁に設置された凍眠槽のハッチを開け中に入っていった。
ヴェリテは掌握した研究施設のエネルギーラインに命令を下した。
「中央制御室付属の凍眠槽〇一の電源確保を最優先。最長稼働時間を示せ」
『凍眠槽〇一残存稼働:九五七三四時間』ディスプレイの片隅に静かに表示された。





