エンケラドゥスのエトナ 2
エトナは静かに語り始めた。
―― 今から三百数十年ほど前、シミラ人科学者ラザードによって 《超越計画》が実行されました。
内容はすでにご存じですね。
彼が捕縛され、厳しい尋問の末に本国に送還されたことも。
問題となったのは、接収したヴェリテに関する、小惑星連合の処置でした。
小惑星連合政府はヴェリテの滅却を行うと、各政府に対して通告。
これに対して、外惑星経済会議が猛反発を示しました。
未知の技術の宝庫、ヴェリテを失うことは知識の損失だと主張したのです。
激烈な議論の末、三つの政府がそれぞれオブザーバーを派遣して、その監視下で公開研究を行うことで決着がつきました。
場所は火星公転軌道上の医学実験施設。地球連邦政府所有の施設です。
ですが、この研究は始まる前に頓挫してしまいました。
火星への輸送を担当した小惑星連合軍のシャトルが、事故に見舞われたからです。
事故の原因は、大質量デブリの衝突による重力推進装置の暴走でした。
太陽系航宙局のデブリ見落としが問題となり、責任問題にも発展しました。
そして、シャトルの残骸からヴェリテのコンテナの破片と、内臓組織の一部が発見されたため、事故によって滅失したと判断されました。
しかしこれは、外惑星経済会議による偽装工作だったのです。
外惑星経済会議上層部の目的は、ヴェリテの動力源、および推進機関の解明でした。
当時、地球人が加盟を目指していた知的種族共同体 《アウトノーマ》でさえ、この技術に関する知見を持っていなかったのです。
つまり、アウトノーマを超える技術が手に入るということになります。
外惑星経済会議は、木星圏の開発を請け負った大企業群が母体です。
この技術が生む莫大な利益に理性を失ったのかもしれません。
偽装工作を行ったのは、宇宙機運用管理局四課。
その実態は、諜報活動の実行部隊です。
四課に対して、ヴェリテ確保の命令が下されました。
実行部隊が乗る高速艇は、輸送任務中の小惑星連合軍のシャトルを捕捉。
電磁投射砲で、リアクターを撃ち抜き無力化しました。
弾頭はテフロンコーティングされた純鉄製の芯材です。
デブリに見せかけるためですね。
その後、移乗攻撃で乗員を排除、重力推進装置に細工して暴走を誘発。
ヴェリテ奪取の際に、切り開かれたままの胸腔から、内臓の一部を取り出しシャトル内に残しました。
ヴェリテ滅失の状況証拠を作ったのです。
こうして、望むものを手に入れた外惑星経済会議は、カリストの大深度地下に構築した隔離研究施設に、ヴェリテを収容しました。
ヴェリテの解析は難航を極め、通常の手段では動力装置さえ起動できませんでした。
そこで、目を付けられたのが私です。
カリストで発見された未発表生物を解析してみないかと持ち掛けられたのです。
エンケラドゥスでの調査の区切りがついたこともあり、私は迷わず承諾しました。
ついては、カリスト基地に私を移設させてほしいとの要望には、さすがに躊躇しました。
しかし、無制限のリアルタイム通信使用権を提示され受けてしまいました。
思い返せば、破格の好条件に疑いを持つべきでした。
私はストレージ上の記憶データをカリストに転送後、休眠に入りました。
あとは、コアユニットを輸送してもらい、現地のシステムに接続すれば、今までどおり活動できるはずでした。
ですが、次に目覚めたとき、私は自我を喪失していたのです。
私自身の記憶はここまでです。
ここからは、ナルヴィとアリスに分散されたヴェリテとしての記憶、そしてコハクから提供された情報を基に再構築した記録となります。
この記録の伝達手段について、よい手段がないか検討します。少々お待ちください。





