初めてのセレス。二度目のセレス
「もうすぐセレスに着くよ。覚悟はいいかい?」
「ああ」アルが答える。
「お父さんとお母さんに会えるの?」
「そうだよ。でも、その前にヴェリテを倒さないとね」
「ヴェリテってさっきアルが話してた脳を奪うやつ?」ジーンが首を傾げる。
「そうさ、そいつがお前さんの両親を拘束している」
脳だけになった両親を……とはさすがに言えなかった。
「分かったよ。お父さんとお母さんを絶対に取り戻す」
「そうだね。だが、戦闘は拙たちに任せな。お前さんは跳躍艇で待機だ」
「そんな……僕も戦うよ!」
「ジーン、お前は足手まといになる。コハクに従え」アルがジーンに言い含める。
「アル……」
アルにそう言われてはジーンも従うしかないのだろう。黙り込んだ。
「ノワールが先行してヴェリテを監視している。どうやらアルを狙っているようだ」
「俺を? 何故だ?」アルが疑問を呈する。
「ナルヴィとアリスの記憶を読んだのさ。それと前回ヴェリテと戦っただろう? それが印象に残ったんじゃないのかい」
「そうか、ナルヴィのチームでは、俺が戦術担当だったからな。それなりに戦えると判断されたか」
「今回の通信塔との通信途絶もヴェリテが細工したようだよ。アリスの知識を使ってな。お前を誘き出すために」
「アリスはハッキングが得意だからな……」
「ノワールはあえてそれに乗って、クラッキングが成功したように見せかけたんだよ。ノワールはヴェリテを追ってセレスに向かった」
「そうか、それなら俺には囮としての価値があるな」
「いいのかい? 危険な役回りだよ」
「大丈夫だ。今のボディなら奴に遅れは取らん」
「それと、このタイミングで言うのも何だけど、ジーンの出自のことを話してもいいかい?」
「待ってくれ。それはジーンの両親を取り戻してから俺が話す。ジーンもそれでいいな」
「うん、僕が二人の本当の子供じゃないことは知ってたよ。ちゃんと話してね」
「気づいていたのか……」
「お父さんは灰色の髪、お母さんは金髪、二人とも黒い目。僕は茶髪に赤茶色の目だから変だなと思って」確かに髪と目にロキとマルの特徴が出ている。顔立ちもそうだ。
「ああ、だが、過去の宇宙対応改変の影響で、それくらいの外見の変異はおかしくはないぞ」
「うん、だから応用学校に通い出してから親子鑑定をしたんだ。両親のDNA配列は調査課に保管されていたし」
ジーンは思いのほか頭が回るようだ。
「よし、その話は後にしな。そろそろノワールと連絡を取るよ」
「了解した」
「ノワール、聞こえているかい。間もなくセレスに着くよ」通信回線を開く。ノワールの姿はあえて映さない。
『おや、コハク。ずいぶんごゆっくりでしたね』
「ジーン坊やに宇宙を見せていたのさ」
『なるほどなるほど。さぞかし驚いたことでしょうね』
「久しぶりだな、ノワール。約束を守ってくれたことに感謝する」
『キース? なんで犬の姿なんですか?』
「犬じゃない、狼だ。人型のサイボーグ体より戦闘能力が高い。ヴェリテ対策にこのボディを選んだ。それに今はアルと名乗っている」
『おっと失礼しました。それは心強い限りです』
作戦会議が始まった。
まずはヴェリテの現在位置。セレスのメインポートに潜伏中。
ヴェリテを無力化する方法。細い腰部にある超小型エネルギー変換器、これと腹部にある推進機関をつなぐ伝導装置を狙う。
エネルギー変換器を直接破壊すると尋常ならざる大爆発を起こす。
また、胸部は絶対に攻撃してはならない。二人の脳が格納されているからだ。
伝導装置を破壊して無力化した後、セレスの救急救命室で二人の脳を確保する。
大筋は決まった。
「さっき伝えたように俺が囮になる」
「本当にいいのかい。あんたが死んだらジーンが悲しむよ」
「死ぬ気は無い。メインポートに接近して俺の認証データを入力。向こうから姿を見せるだろう」
「おっと、忘れていた。その体、真空で行動できるのかい?」
「問題無い。 《豊穣の角》で過去の要人警護用ロボットを復活させたんだが、隊長機だけ性能が異常に高くてな……」
「ああ、そういうことかい。 《豊穣の角》のデータバンクに入っている設計資料はヒロが選んだのさ」
「ヒロ? ひょっとして例の三七小隊の一人か?」
「よく知っているね。その通りさ」
「三七小隊のことはセレスでノワールから聞いた」
「そうかい。ついでに説明するかね。ロキ・シノハラ元少佐、マルグリット・クロケット元曹長、ヒロ・ヤマガタ元特技兵。この三人が三七小隊のメンバーだ」
「三人きりの小隊か。人手不足だったのか?」
「いや、特殊な事情があったんだよ。長くなるから後でゆっくり話そうか」
「了解した。真空での戦闘は問題ないが、欲を言えばスラスターが欲しいところだ」
「そんなもの跳躍艇には積んで無いよ。ノワール、予備を持ってるんだろ? 貸しな」アルと話ながらノワールに連絡する。
『はいはい、持っていますよ。私のものがそのまま使えます』
「ノワールは超小型シャトルでこっちに向かっている。あいつが来たら作戦を始めるよ。いいね」





