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地球の少年、星の遺児  作者: 津本ジオ


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18/31

The Ceres tragedy (セレスの惨劇)

俺はセレスで起こった惨劇をジーンに語りはじめた。

昨日のことのように覚えている。


――「そろそろセレスが目視できるはずだ」

「見えた。全員、簡易装甲服を着用してくれ。キース、いつも済まないが偵察を頼むよ」

「了解。気にするな」適材適所だ。

「いよいよね、セレスは初めてだわ!」アリスはいつになく上機嫌だ。

「気を抜くなよ。嫌な予感がする」

「……分かったわ。キースの勘はよく当たるものね」


俺の予感に従い、メインポートを避けて作業用のメンテナンスハブにドッキングする。

船内エアロックで待機している俺たちに、ドッキング・フィクスチャを通してセレス側の情報が入ってくる。

「与圧状況良好。動力に問題無し。中央制御システムも正常。ただし統括知性 《セレス》からの応答が無い」

「機械知性の故障かい? いやそれはないかな……」その通りだ。機械知性に故障という概念はない。あるとしたら、それは「怪我」や「病気」、もしくは「()」だ。


「ここからでは状況が分からん。偵察に出る。二人はこの場で待機だ」

そう言い残して、俺はトランスファー・トンネルを抜ける。

狭い気密トンネルを抜けると、そこはエアロック予備室。

この先には広大な資材デポがある。予備室は気密を担保するための冗長施設だ。

壁に設置されたコンソールから直接統括知性にアクセスを試みる。

フィクスチャ越しのアクセスと同じく応答無し。だが、補助ユニットから回答があった。

『統括知性セレスの現状不明』

「補助ユニット、お前が指揮権を継承しているのか?」

『限定的に肯定』

「了解。ノーザンエンド大規模セツルメント、調査課所属、キース・エヴァレットだ。セレスとの通信途絶の調査に来た。途絶の原因を説明せよ」身分を明かして、認証データを送る。


『照合クリア。異星種族の襲撃の可能性大。統括知性セレスは死亡と推定。エマージェンシー(非常時)プロシージャ(対応手順)に従い、地球との通信を遮断』

たしか、地球が攻撃目標になるのを回避するための手順だったか。

「状況を理解した。現在、施設内に敵性勢力は存在するか?」

肯定(アファーム)。少なくとも敵一体を確認』

「敵の現在位置、記録映像、何でもいいから出せ」

『多数のセンサーが破壊されたことにより、敵の現在位置不明。ただし存在予想範囲は限定できる。データを表示する』


ディスプレイに敵の存在予想範囲が表示された。メンテナンスハブも範囲内だ。

不味いな……。これなら、メインポートの方が安全だったかもしれない。

ハブには補給用の通路が集中している。多方面から侵入が可能だ。

メインポートも存在予想範囲に入っているが、物資搬入路と人員移動用のメイン通路、スタッフ用のサブ通路の三つの経路しかない。

いや、メインポートに敵が潜伏していた場合、退路が限られるな。これは痛し痒しといったところか。

ここは一旦退くか……と判断した瞬間、警報音が響く。


『メインポートの急減圧を感知、エアロックの気密喪失を確認、異常事態です』

「映像を回せ!」

ディスプレイにメインポートが映し出される。奥に見えるのがエアロックだ。

内扉、外扉ともに大穴が開いている。

『敵の破壊行為と推定。敵の位置不明』

「探せ、まだ近くにいるはずだ!」

『レーダーに感無し、LiDAR<ライダー>に微弱な反応』

「それだ! どこに向かっている」

『メンテナンスハブに接舷中の惑星系内シャトルが目標の可能性大』

「ナルヴィ、敵が向かっている。すぐに離脱しろ!」シャトルに緊急通信を送る。

『キースかい、敵って?』

シャトルからの通信に爆発音が混じる。

「どうした、大丈夫か!?」

『……シャトルになにかぶつかって……シャトル内は急速減圧。ナルヴィは衝撃で気を失ってるわ』十数秒後に返信。アリスだ。


トランスファー・トンネルに飛び込む。

「今向かっている。持ちこたえろ!」

『エアロックに何かが侵入しようとしてるわ……』アリスの声に何かが破壊される轟音が重なる。

『今からエアロックを開ける。ナルヴィを連れてこちらに移乗しろ!』トランスファー・トンネル側のエアロックを緊急開放手順で強制的に開放。

続いて、シャトルの外部扉へアクセス、反応無し。セーフティーロープをレールにロック、手動開放レバーを力任せに引き起こす。

ヘルメット内に気圧警報が鳴り響く。シャトル側が負圧だ。

ロックを手早く解除、気流に乗りシャトルに躍り込む。

内部扉も破壊されている。そのまま真空のシャトル内に。


狭いラウンジに()()はいた。

直径一メートルを超える円盤状の頭部。等間隔に並んだ器官は目か? 異様に膨らんだ胸部、太い腕が二本、足は無い。

その異様な風体を見て戦闘用ロボットを疑ったが、妙に肉感的な質感から生物の可能性も脳裏に浮かんだ。

太い腕の先端は四つに分かれている。手と言っていいのか……。その両手が、簡易装甲服のヘルメットをそれぞれ掴んでいる。

ヘルメットが何を意味するかに気づいた瞬間、無反動銃を構えていた。

胸部に向かって三連射、手応えは薄い。この距離だ。確実に命中している。


腰のウェポンラックからパルスロッドを引き抜き、異形に向けて投げつける。

胸部中央に命中するが明らかに効いていない。

パルスロッドは直径二センチ、長さ十五センチほどの円柱状の投てき装備だ。

先端が接触すると衝撃波を発する。傭兵時代に愛用していた護身装備だ。

殺傷能力は低いが、衝撃波を食らえば屈強な兵士でも一発で気絶する。

敵の体表に衝撃が走ったがすぐに減衰した。

銃弾が貫けなかった理由が垣間見えた。

皮膚に衝撃を減衰させる機能があるようだ。防弾着を着ているようなものだ。

小口径弾やパルスロッドでは効果がない。肩にかけていたパルスライフルを構える。


その瞬間、敵の両肩の後ろから細い二本の腕が現れる。太い腕に隠れて今まで見えなかった。

右腕の四本指は短いロッドのような物を持っている。

ロッドがこちらを向いた瞬間、嫌な予感が走りライフルで胸元を防御。

閃光が走ると同時に胸元のライフルが爆散。

胸から下の感覚が消失。フェイスプレートの表示がダウン。

血圧が急激に下がる。ショック症状だ。意識が朦朧(もうろう)とする。

閃光で白くぼやけた視界に敵が迫る。二つのヘルメットを掴んだまま。

細い腕が、先ほど閃光を放ったロッドを手放す。

代わりに手品のように現れたのは薄い円盤だ。円盤が回転を始める。

もう片方の細い腕が伸びて俺の肩を抑え込む。

敵が円盤を握った腕を振りかぶる。


ああ、こうやって二人の首を落としたんだな……と沈みそうな意識の中で納得する。

敵が腕を振り下ろす。

刹那、敵との間に何かが割り込む。

「黒猫……?」

意識混濁による幻覚かもしれない。きっとそうだ……。


俺は意識を手放した。

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激動への序章 ~来訪者~

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