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地球の少年、星の遺児  作者: 津本ジオ


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16/32

アルの決意

ジーンが混乱している。俺が、今まで何も説明しなかったせいだ。

だが、俺も事態の展開にうろたえていた。

ポイント・ズールーに来てから、自分が落ち着きを失っているのは自覚している。

セレスの惨劇……九年前の事件をこれほど引きずっているとは思わなかった。

ここは、ジーンを発見した場所。

そしてナルヴィとアリスに初めて出会った場所でもあるのだ。


――傭兵だった俺は、機械知性の甘言に乗せられて 《ノーザンエンド大規模セツルメント》へと向かっていた。

『ノーザンエンドで猫の自然繁殖を試みるそうですよ。というわけで里親募集が告知されました。公的身分が高いコメンデッド(公務資格)ソルジャー(戦闘員)のあなたが選ばれる可能性が高いです』


それを聞いてその場で応募、(猫との)面接があるので現地へ向かう。

慌てて出発したので、日程計画が()()()だった。

このまま行けば、ノーザンエンド到着は深夜になることが確定した。

猫に気に入られるのが最優先だが、選考するのは人間だ。

深夜に押し掛けるような非常識な手合いが選ばれるだろうか……。

(ちなみに、どこのシェルター、セツルメントも、二四時間受け入れ態勢を敷いている。いつ到着しても歓迎される。それだけ外部との交流に飢えているのだ)


幸いにも、ノーザンエンドへの道程にはポイント・ズールーがあった。

そこで仮眠を取り、翌早朝に出立すれば丁度よい時間にノーザンエンドに到着だ。

氷原上で仮眠など取れば、ハブ・ジャッカーの恰好の餌になる。

見つからないようにカモフラージュでもしようものなら、ハブ・ジャッカーと誤認されて傭兵たちに狩られることもあり得る。この時代に常識だ。


とりとめもない思考に沈みながら、夕暮れの中ひた走るうちに、ポイント・ズールーに到着。

入口で認証データを送ると管制システムに歓迎された。三番格納庫への案内が表示される。

傭兵(CS)はどこでも歓迎される。それが無人の中継拠点(ハブ)でさえも。

管制システムからの情報で先客がいることを知った。早速あいさつに行こう。

三番格納庫に氷上装甲車を置いて、システムに先客の現在地を確認。

案内に従い到着したのはラウンジだった。

そこにいたのは、ひょろりと背が高く、肉付きの薄い身体に淡いの男。若いな。

「やあ、お邪魔するよ」手を挙げて挨拶する。

「こんにちは。いや、もうこんばんはかな? 僕はナルヴィ・タキザワ。歓迎するよ」

「キース・エヴァレットだ。よろしく頼む」気さくな男だ。

その時、洗面室のドアが開き、目の覚めるような鮮やかな金髪の女性が現れた。若い女性だ。

小柄ながら蠱惑的な肢体。男たちが放っておくまい。

「聞いてよ、ナルヴィ。ここって温水と冷水のレバーが逆なのよ。ひどい目にあっちゃった」と言いながらこちらに近づく。目が合った。


「やあ、お邪魔しているよ。俺はキース・エヴァレットだ」再び手を挙げて挨拶する。

「こんにちは。あ、こんばんはかしら。アリス・タキザワよ」ナルヴィと同じあいさつに思わず笑みがこぼれる。

「同じタキザワってことは夫婦かい?」絶対に夫婦だ。あいさつを聞いて分かった。

「そうだよ。夫婦でノーザンエンドの調査課に所属している。まだ下っ端だけどね」

「そうそう、調査員を目指してがんばってるところ」

「目標があるのはいいことだ。俺は傭兵をやっている。猫の里親に応募してノーザンエンドに向かっているところだ」

「ああ、すんごい競争率になってるあれね。って傭兵? あ、CSのことね!」

「CSの人は自分のことを傭兵って言うよね。何でかな?」

ふだんなら軽く受け流すところだが、二人の雰囲気に流されてつい真相を語ってしまった。


「そう……。それがあなたたちの()()()なのね」

「そんなことを思ってたなんて知らなかったよ。僕たちにとってはハブ・ジャッカーを退治してくれる正義の味方ってイメージだし」

「俺の場合、新兵として配属されて間もなく軍が解体されたからな。ハブ・ジャッカーの中に、かつての上官を見つけて思わず敬礼しそうになった」ナルヴィとアリスの顔が曇った。

「CSジョークだ。笑ってくれ」深刻な雰囲気になったのでフォローしておく。

「CSジョーク…」ナルヴィの肩が震える。

「CSジョーク…」アリスの肩も震えている。

そのあとラウンジは爆笑に包まれた。


そうか、里親に選ばれたら傭兵として世界を回ることはできなくなるな。

もういい年齢(とし)だ。ノーザンエンドに骨を埋めるのも悪くない。

愉快な仲間もできそうだ。――


並列思考で思い出をかみしめながら、目の前のコハクを見た。

今までの自分の行動と向き合うときが来たのだと。

九年におよぶ長い猶予を与えられながら、ジーンに本当のことを話せなかった。

セレスにいた怪物、アリスとナルヴィに起きたこと、ノワールの正体、そして、ジーンの本当の両親。

記憶喪失を装ったのはノワールとの約束。俺は多くのことを知り過ぎた。

知識は場合によっては毒にもなる。上位種族に属するノワールの懸念も理解できる。

それでも、ジーンに話すことはできたはずだ。

秘匿情報をぼかし、話すべきことを話す。なぜかそれができなかった……。


ジーンが健やかに育つ姿を見ていたかったから。

ジーンが苦しむ姿を見たくなかったから。

昨日、人を殺したことに悩み苦しんでいるジーンを見て自分の思いを確信した。

だが、ついに援軍が来た。過去と対峙するときは今なのかもしれない。

待ち焦がれた援軍が、この太った猫なのは意外だったが。


ジーンと一緒に二人を取り戻そう。

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激動への序章 ~来訪者~

激動への序章 ~来訪者~

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