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自称神様サクラちゃん

 いつも通り朝日が差し込む時間に目覚めたかと思えば、そこは俺の部屋ではない。

 あたり一面が透き通るような白色で、面白みのない空間だ。面白みはないが、新鮮な空間ではある。

 (ここは……どこだ?)

 「いや、本当にどこだ!? 冷静に分析してる暇じゃねえぞ! 日本どころか世界をみてもこんな、どこ見ても真っ白でどの方向にも果てのない地平線空間存在しねえだろ!」

 驚愕の感情を全身で表しながらとりあえずそこら中を駆け回る。が、何もない。

 それから周囲に人がいないかと、「誰かいるかー!!」と大声を出しながら叫び回ったり、自分が立っている地面であるはずの白いものをガンガン殴ったり蹴ったり、とにかく何か行動を起こした。

 しかし何も起こらない。

 やたらと行動を起こして疲れ果て、俺は推定地面に座り込む。

 (あれ……俺、ここから出られないとどうなっちまうんだ? 一生死ぬまでここで過ごす……友人にも会えず、来年にやるであろう成人式とかにだって出られず、そんで母ちゃんにいわゆる恩返しすらもできず……)

 自身の現状を知った俺は、ようやくこの状況に恐怖を覚えた。顔がうっすらと青ざめていく。身体は真冬の外に全裸で放り出されたかのように震えている。

 もう大人なのに恐怖で涙すら出てしまいそうだ。

 「ぐっ……ぅ、だ、誰かいないのか!」

 俺は震えた声でまたもそう叫ぶ。だがそれも無駄……そう俺は思っていた。

 だがその声に応えるものはいた。

 

 「ここにいるわよ」

 そんな高い女性のような声と共に俺の目の前に黄色の光が集まっていく。

 (初めてこの空間で白以外を見たかもしれない……だ、だが——)

 「本当に誰か、ここにいるのか!」

 俺は再度そう、今度はその光に対象を絞って問いかける。

 「はい、だからいるってば。身体ができるまであと数秒かかるので待ってちょうだいね」

 目の前で起こるものもなかなかトンチキな、ぶっちゃけあり得ない的な現象であったが、ここから脱出する術が見つからない俺はその声の主に縋るしかない。そのため声に従い、騒がず、深呼吸をして身体を落ち着かせて待つ。

 

 「お待たせしたわね」

 その声が聞こえた時、俺の前には大体160センチ程度の身長に、ふわふわと、何層にも重なるまるで雲のような純白のドレスを纏う、長い桃色の髪の美少女が立っていた。

 「初めまして。えっと、あなたは何者でしょうか。それにここは一体?」

 俺は敬語でその女性に二つの質問をする。

 「ふふっ、変に敬語を使わず、タメ口で大丈夫よ。鈴元行也(すずもとこうや)さん?」

 彼女は質問には答えず、俺の名『鈴元行也』を呼びながらそんな許可を出した。

 よく考えれば初対面の相手に名前を知られているというのはなかなかに怖いことだが、もう今更こんな不思議なことだらけな状態で名前くらい知られていても俺は気にしなかった。というより気にすらならなかった。

 「わ、分かった。それで、質問の答えは?」

 彼女に許可を出されたので、俺もほぼタメ口の彼女に合わせてタメ口で聞く。

 「うーん、なかなか急かすのね。謎は謎だから面白いのにぃ」

 「ご、ごめん……」

 彼女はそう言うが、こっちとしては現状そんな悠長にしてる余裕はないのだから急かしても仕方がないだろう。

 とはいえ彼女に機嫌を損ねられ、何の手がかりも得られなければ俺としては都合が悪いどころの話ではない。故、ここは素直に謝っておく。

 「まあいいわ。仕方がないから……というより話さないと進まないから話してあげる」

 「ありがとう」

 彼女はすでに軽く持ち上がっていた両方の口角をさらに上に上げて話し始める。

 「それじゃあまず私の自己紹介からしましょうか。私の名前は……そうね。ピンク色だしサクラちゃん、とでも呼んで」

 サクラちゃんと名乗る彼女はまるで今適当につけたかのような名前をさも自分の名だというように言った。

 「で、そのサクラちゃんは一体何ものなんだ?」

 「ふふっ、やっぱりそこが気になっちゃうわよね。それじゃあ私、サクラちゃんの正体を教えちゃうわ」

 彼女の言葉は一つ一つがどこか楽しそうだ。抑揚があり、ウキウキしたような、純粋そうな声である。

 ただ、そんなサクラちゃんの正体はいくらこれだけの不思議現象を見た俺でも全然受け入れられそうにないものだった。

 

 「私は実は……神様なんです!」

 「は?」

 つい俺はそんな声を口から漏らしてしまう。普段の俺なら初対面の相手にこんなこと、さすがに言わないのだが、いくらなんでも神様というのは脳が受け止めきれなかったらしい。

 「疑ってる……というより、そもそも信じちゃいないみたいね。ということで簡単に証明してあげましょうか」

 そう言った彼女は右手の人差し指を一振り。すると真っ白なこの空間に一つの風景が浮かび上がる。

 小麦のような色の草がたくさん生え、木造の小さな家がいくつもあるそこは小さな村だった。

 「こ、これは……」

 そう言って驚く俺に対し、サクラちゃんは表情を変えずに辺りをキョロキョロと見渡しながら、「うーん」と声を出している。それから彼女は一人の貧しそうな少年に視線を向けた。

 「そうね、あの子にしましょう。ほら、行也? 彼を見ていてごらん?」

 「な、何をするつもりで……」

 「あなたに私が神だってのを信じてもらうため、神様の奇跡ってものを見せてあげようと思ってね。ちゃんと見ててね?」

 そう言ったサクラちゃんはまたも指を一振り。

 するとあの少年の元に、ものすごい勢いで父親が駆けてきた。

 「おうい! 素晴らしい知らせだ! 父ちゃんの知り合いの友人のお金持ちがうちのことを聞いて、貧しいうちのためにお金の援助をしてくれるんだ! これからは美味しいご飯が食べられるぞ!!」

 「ほんとう!?」

 父の言葉を聞いた少年は飛び跳ねて大喜び。

 とても微笑ましい、というか素晴らしい光景だが、俺からしてみればその光景はとなりのサクラちゃんの手によって引き起こされた気がしてならない。というか実際そうなのだろう。

 「これはサクラちゃんが…… ?」

 「ええ、そうよ。私があの子の『美味しいご飯がたくさん食べたい』ていう願いを叶えてあげたの。どう? これで信じてくれた?」

 サクラちゃんは胸を張って聞く。

 正直、俺からしてみれば信じるほかないような光景であるが、それはそれとして今まで神様なんて存在を本当はいないものだと思っていた俺の脳はそれを受け入れられない。だから俺はもう一つ彼女に要求してみることにした。

 「ま、まだ完全に信じれちゃあいないよ。単にサクラちゃんがこの光景をプロジェクター的な何かでこの真っ白なものに写してるだけじゃないのか?」

 そんなわけないだろう。そんなこと俺だってほとんどわかっている。だがこんなこと、受け入れられない。

 「全く、強情ね。だったら、私が何をすれば信じるの?」

 「俺を元の世界に帰してくれ」

 俺は彼女の言葉に、瞬時にそう返す。

 「悪いけど、それはできないわ」

 「なっ! なぜ!?」

 「理由は後で話すから、とりあえず今は別のことを言ってちょうだい?」

 俺には彼女が拒否したことがあまりにも衝撃的だが、きっと彼女は今は話す気はないだろう。だから俺は仕方なく、追求したい気持ちをぐっと抑えて言葉を発する。

 「じ、じゃあそうだ。俺の母ちゃん。母ちゃん、懸賞とか好きなんだよ。だからきっと今もテレビとかでそういうの、いくつか応募してる。すぐ結果がわかるやつでいい。その中で最も母ちゃんが欲しがってるやつを当選させてくれ」

 「わかったわ。それくらいなら任せてちょうだい」

 そう言った彼女は指を振る。

 するとうつるのは俺にとって懐かしい、実家の景色だ。その中心に立つのは母ちゃんである。

 「さあ、やってみせてくれ……」

 「はいはい。それじゃあこれにしましょう」

 その時、実家のテーブルの上に置かれている白い電話が音を掻き鳴らした。

 母ちゃんはその電話に出るや否や、声のトーンを張り上げるほどに大喜びだ。

 「本当に……当たったのか……」

 「ええ、そうよ。私が当選させたの。これで信じるでしょう?」

 「わ、わかった。信じるよ……」

 ここまでされてしまったため、ついに俺にはサクラちゃんの言葉を信じるしか選択はなかった。

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