アストラ・フォルテ
「えっと……謝る必要はないよ。よくわからないけど……ひとまず立てる?」
赤髪の彼女は落ち着いた、抑揚が小さい声でそう言って、俺に右手を差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
俺は自分の発言に少し恥ずかしさを抱きながら、彼女の小さい手を取り、立ち上がった。
「あなた、駆け出しの冒険者?」
彼女は突然そんなことを俺に聞いた。
「え、あ、はい。ちょうど今日登録したばかりで……」
「そう、やっぱり……」
「あの……どうかしましたか?」
俺は疑問に思い、彼女に問う。
「実は私、目が良くて……少し遠くからあなたの戦いを見ていたの」
「? それがどうか?」
「これはアドバイス。あなたがこれからも冒険者としてやっていくのなら、必要なのは立ち向かう勇気」
突然のアドバイス。
“立ち向かう勇気”
それの意味を俺は彼女に聞く。
すると彼女は俺の鉄のナイフをさして言う。
「少し、それを」
「は、はい……」
言う通り俺がそれを差し出すと、彼女は長く細い人差し指を——
「え、ええ!?」
ツーーと。
ナイフの刃をそれでなぞる。
「何を……!」
彼女のその指が切れ、赤い血が流れる。
その行動の意図がわからず、俺が困惑していると彼女は口を開く。
「思った通り、良い切れ味をしている」
「切れ味?」
「うん。これならきっと、ゴブリンどころかDランク……いや、一部のCランクのモンスターにだって通用する」
(そ、そんないい武器なのか? これ……レアリティは《R》、一番下なんだが……)
彼女の言葉は俺に疑念を抱かせた。
「それにあなたの脚。とても良いスピードをしている」
「スピード?」
「あれほどのスピードであれば、ゴブリンの攻撃など容易く回避できる。その武器とスピード。その二つがあれば、ゴブリンなど取るに足らない相手」
俺は彼女の話を聞いて気がつく。
「……!! 勇気というのは——」
「うん。戦いの基本は、相手から目を離さないこと。相手の一挙手一投足を注視する」
確かに彼女の言うように、俺はゴブリンの攻撃に恐れて目を離してしまっていた。
恐れずに、しっかりと動きを見ていればこのスピードブーツがあればヤツの攻撃など避けれていたかもしれない。
「なるほど……あ、ありがとうございます!」
俺は彼女の言葉を理解し、礼を言う。
「ううん、頑張って。それじゃ——」
そう言って振り向き、俺に背を向ける彼女に俺は声をかける。
「あの!」
「? どうかした?」
「あなたの、あなたの名前を聞かせてください!」
咄嗟に言葉が出る。
なぜそのようなことを聞いたかは、自分でもよくわからない。
いや、今わかった。
名を知っていればまた会えると、そう思ったからだ。
「名前……うん。アストラ・フォルテ」
「それがあなたの……」
「そう。あなたは?」
「お、俺は……鈴も——いや、コウヤ・スズモトと言います!」
俺は名を、この世界のアストラさんの感じに合わせて告げた。
「わかった。コウヤ……覚えておく。それじゃあね」
「はい!」
そう言って今度こそアストラさんは背を向け、歩いて行った。




