これってデート?
「――わぁ、ほら見てください先輩! みんなとっても美味しそうです!」
「……いや、まあ否定はしませんが……ただ、ここに来てその感想はどうかと……」
「ふふっ、冗談ですよ。4割くらい」
それから、数日経た休日のこと。
そう、目を輝かせ告げる可憐な少女。いつもながら何とも愛らしい笑顔なんだけども……うん、4割ってことは半分以上は本音なんだね……まあ、もちろん別に良いんだけども。
ともあれ、僕らの視界には透き通る水の中を優雅に泳ぐ種々の魚達。降宮さんのお部屋から5分ほどの最寄り駅から電車で20分ほど揺られ、そこから10分ほど歩きここ水族館へと二人でやって来たわけで。
『……その、真織先輩。これ、少し前に福引きで当たったんですけど、良かったら一緒に行きませんか?』
数日前の夜のこと。
帰り際、玄関にて控えめに手を差し出しそう口にする降宮さん。そんな彼女の手には、二枚の紙切れ――見ると、水族館のチケットのようで。その相手が僕で良いのかな、とは思うものの断る理由もないので承諾――そういうわけで、休日にこうして一緒に出かけているわけだけど……これって、もしかして――
「……あの、真織先輩。随分と今更ではありますが……これって、デートですよね?」
すると、歩みを進めつつふと問い掛ける降宮さん。だけど、自身で口にしたある単語が恥ずかしかったのか少し目を逸らしていて……うん、それはそうだよね。なにせ、僕なんかが相手だし。ともあれ、そんな彼女にゆっくりと口を開いて――
「……そうですね、かの有名な辞書によれば、デートとは『男女が日時を決めて会うこと』と定義されているようなので、この状況は一応それに当てはま――」
「そんなことは訊いちゃいませんが!?」
「ところで、先輩は来たことあります? こういうところ」
「……そう、ですね……まあ、なくはないかなと」
「……へぇ、それはどな……いえ、やっぱり何でもないです」
それから、ほどなくして。
ふと、目を逸らしつつ言葉を留める降宮さん。どなたと、と聞こうとしていたのだろう。まあ、そもそも僕が何とも曖昧な返事をしたからだろうけど。
ちなみに、一緒に行ったのは幼い頃、両親となのだけど……それでも、それを今ここで口にすることはどうにも憚られて。なので――
「……なので、とっても嬉しいです。こうして、降宮さんと一緒に来られて」
「……っ!! はい、私もです真織先輩! 今日はとっても素敵な一日にしましょうね!」
「……あ、はい……ですが、その……」
何が『なので』なのか自分でも分からないけど、ともあれそう口にする僕。すると、パッと顔を輝かせ答えてくれる降宮さん。……うん、良かった。ほんとに良かったの、だけども……その、腕を組むのは控えていただけたらなと。いや、決して嫌なわけではないのですが……その、すっごく恥ずかしいので。




