お誘い
「――ねえ、蒔乃ちゃん。次の休み、一緒に食事でもどうかな? 実は、知り合いが経営してる良いフレンチのお店があってさ」
「へぇ、そんなんですね! お誘いありがとうございます、吉川先輩。……ですが、生憎ですが次の休日は私用がありまして」
「……そ、そっか。あっ、でもそれなら来週は――」
それから、数日経て。
オフィスにてプレゼン用の資料を作成していると、斜め後方から届いたのは一組の男女の会話。大卒三年目の男性、吉川くんと高卒二年目の女性、降宮さんによる美男美女の会話で。少しだけ手を止め、チラとその方向へと顔を……うん、やっぱり絵になるなぁ。こう、まさしくお似合――
「――おっと」
さっと、顔を戻しパソコンへと向き直る。僕の視線に気付いたらしい降宮さんが、チラと僕の方へと視線を向けたから。……うん、気まずい。
「……はぁ、ほんと滅入りますね。あっ、別に嫌いとかじゃないですよ? 良い人ですし、吉川先輩。なので、お気持ちが嬉しくないわけではないんですが……」
「ああいえ、そのような誤解はしていませんのでご安心を。とても優しい方ですしね、吉川くん」
それから、数時間後。
ご自身のお部屋にて、レモンサワーを片手にそう口にする可憐な少女。モテる人も辛い、とは聞いたことあるけど、目の前にいる少女はまさにその言葉を体現しているようで。……まあ、きっと僕には生涯縁のない悩みなんだろうなぁ。
さて、改めてだけど――言わずもがなかもしれないけど、降宮さんはモテる。それはもう、すごくモテる。なので、多くの男性が降宮さんにアプローチを掛けているのだけど……その中でも、吉川くんはとりわけ熱心で。
「……あ〜あ、こういう時、恋人でもいればお断りするのが楽でいい……と言うか、きっとお誘い自体されずに済むんですけどね〜」
「……あー、えっと……」
すると、不満そうな表情でこちらをジッと見つめそう口にする降宮さん。まあ、それなら確かにお誘い自体が無くなるとは断言できないまでも、それでも格段に減ることは想像に難くない。なので、
「……その、まあ……きっと、近い内に良いご縁にめぐり逢うかと……」
「……別に、もうめぐり逢う必要はないんですけど」
そう、たどたどしく答える僕。……うん、咄嗟だったとはいえ、我ながら何とも雑な応答で……まあ、時間を掛けて捻り出したところでマトモな答えなんて出せるとも思わないけども。
「……それでは、降宮さん。本日もありがとうございました。それでは、また明日」
「まあ、感謝を告げるべきは私の方なんですけどね。ですが、それはそうと……いえ、やっぱりいいです。どうせ言っても無駄でしょうし」
それから、数十分後。
玄関にて、酔いの入った後輩の美少女とそんなやり取りを交わす。それでも、そこまで多量に飲んでいないとは言え、これほど意識がはっきりしているところを見るにアルコール耐性が強いのだと思う。僕なんて、コップ半分でもフラフラになっちゃうのにね。……ただ、それはともあれ――
「……あの、降宮さん?」
そう、戸惑いつつ尋ねてみる。と言うのも、降宮さんが僕のシャツの裾を控えめに摘んでいるから。……えっと、いったいどうし――
「……あの、真織先輩。次の休日なんですけど……なにか、予定とかあります?」
「…………へっ?」




