可憐な乙女はお悩み中?
「……………ん?」
それから、一週間ほど経て。
社内の廊下を歩いていると、ふとポツリと声が。と言うのも、休憩室近くの自販機の前にて溜め息をつく女性の姿が映ったから。彼女は君島さん――可憐で明るい大卒一年目の新人さんなのだけども、普段のご様子からはあまりイメージできない沈んだ表情を……まあ、でも人間なんだし悩みの一つや二つあって当然――いつ何時でも明るい人なんて、きっとこの世に一人もいやしないだろうし。
すると、チラと僕の方へと視線を向ける君島さん。そして、ややあって視線を外し再び溜め息を……うん、深刻な悩みなんだろうなぁ。ともあれ、じっと見てるのも申し訳ないので視線を外し歩みを進め――
「――ちょっと待ってください」
「…………へっ?」
「いやいや、『…………へっ?』じゃなくて……今、普通にスルーしようとしましたよね!? こんなうら若き可憐な乙女が独りで憂いた表情を浮かべているのに、どうして男性として無視などできるんですか!!」
「……いや、だって僕ですし」
「だって僕ですし!?」
すると、いつの間にやら距離を詰めそんなことを仰る君島さん。……いや、可憐な乙女って。まあ、否定はしないけども……でも、自分で言っちゃう?
「どうぞ、古城先輩。あっ、今更ですけどコーヒーで良いですか? ああ、それからお金は結構ですよ」
「……いえ、そういうわけには……いえ、ありがとうございます」
それから、ほどなくして。
備え付けのソファーにて、自販機で購入したブラックコーヒーを差し出し尋ねる君島さん。いや、奢ってもらうなんて本当に申し訳ないのだけど……でも、受け取らなきゃいけない空気っぽいのでありがたく受け取ることに。
「別に、そんなにお気になさらずともそのくらいは奢りますよ。なにせ、先輩にはご協力いただくわけですし」
「…………協力?」
すると、ご自身の分――僕と同じブラックコーヒーのプルタブを引きつつそう口にする君島さん。……ところで、ブラック飲むんだ、君島さん。こう言っては偏見かもしれないけど……うん、ちょっと意外。……まあ、それはともあれ――
「……その、協力とはいったい……?」
ともあれ、そう尋ねてみる。正直、僕に出来ることがあるとも思えないし……そもそも、どうして僕に――
すると、待ってましたと言わんばかりにパッと満面に笑みを湛える君島さん。そして、真っ直ぐに僕を見つめ言葉を放つ。
「――はい、古城先輩には是非とも協力してほしいのです! 拓也先輩と私が、めでたく赤い糸で結ばれるための協力を!」
「…………へっ?」




